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3話 サトル・イットウ

よろしくお願いします!

 


 町を離れ五キロ程離れた山の奥に俺の家はある。

 じいちゃんと二人暮らしの小さな山小屋に帰ってきた。


 井戸から水を組み上げて服の汚れを簡単に落とし、中に入ると、さっそくじいちゃんが話しかけてきた。


「ツルギよ遅かったな。また町まで降りて三大の道場にでも行っていたんだろうが、もういい加減諦めてワシの剣術を引き継がんか。お前もあと二つで十五才。つまり元服だ。それまでうんと鍛練をしてワシの剣を継ぐのじゃ」


 このまくし立てる様に小言を言ってくるのは、俺の祖父のサトル・イットウである。

 紫色の楽な着物を着ていて、右手に包丁を握り大根を切っていた。


 帰ってくるなり、早速飛んできたじいちゃんの決まり文句に、腹が立っていたためか少しきつく返してしまう。


「なんだよ。俺は、じいちゃんの剣術は継がないと言っただろう。俺は三大剣術に入門して、有名になって金持ちになるのが夢なんだからさ。それに、じいちゃんの剣を覚えたって全然役にたたないじゃん」


 俺の言い分に溜め息を吐きながらじいちゃんは呆れた様に返して来た。


「お前は……ほんに……はぁ。いいか今日もしっかりと日課をやらないと晩飯はやらんからな。それが終わったら座学だ。今日はいつもよりも時間が押しておるから気張ってやらないと本当に飯はくえないぞ」


「……分かってるよ。これからやるさ」


 木刀を持って家の裏に移動する。

 日課とは、じいちゃん流剣術の素振り六千回をやること。

 一見普通の素振りと同じに見えるけど、じいちゃん曰く何かが違うらしい。

 詳しいことは分からないが、じいちゃんの教えだとただ振るだけではなく、集中して如何に相手に有効となるように振るべし。

 と言われている。


「でも。こんな素振りばっかりやって本当に意味なんてあるのか? ひたすら同じ軌道を斬るだけの練習なんて強くなれるんだろうか」


 文句を言いながら、日課である素振りを始める。

 今日は町での出来事もあり、開始時間が遅くなってしまったから、いつもよりも早く日課をこなす事にした。


「ふっ、ふっ、ふっ」


 木刀を振りながら考える。

 じいちゃんの云う剣術は、この振りの速さだけは凄いんだよな。

 俺は別に刀に炎を纏ったり、水を生み出したりとか出来ないのに、剣の振りの速さだけはさっき道場に居た剣達よりも速かった。


 前にじいちゃんに振りを見せてもらった時も、今の俺よりも数段速く、力強かった。

 昔よりは、だいぶ劣化したと言ってたけど、その速度だけは、三大の剣君(けんくん)にも負けていないと思う。

 剣君の剣は見たことないけど、俺でさえ剣達よりも速かったんだ十分ありえる。


 それに、ほんとかどうかは知らないけど。


『じいちゃんはな、若い頃は凄腕の剣士だったんだぞ』


 とは、じいちゃんが良くいう口癖だ。


「でも。ふっ、ふっ。じいちゃんが強い剣士なら、有名な筈だよな。誰も知らないなんて事はないと思うんだけど……ふっふっふっ」


 俺には強くなるやり方なんて分からない。

 だけど俺は弱いから今は出来る事を頑張らないといけない。

 いつかは俺だって強くなれれば、望んだ物が手に入れられるようになるんだ。

 それまで、力を手に入れるまで我慢だ。



 気持ちを切り替えて、素振りに集中し今日の日課を終わらせた。


「ふうっ。前よりも日課が終わるの早くなったかな。時間短縮出来るのはいい。他の事も出来るし」


 汗をぬぐいながら周りを見ても、まだ太陽はさっきよりも少しだけしか沈んでいない。


「よし。戻って座学だ。しかし腹減った座学、飯食ってからじゃ駄目かな」


 現在じいちゃんが、俺の親代わりとして面倒を見てくれていてこうして食事も作ってくれている。

 いつも畑の作物と山菜ばかりで、肉なんて年に何回しか食べられないけど、それでも俺はじいちゃんの作る飯が好きだ。


「ツルギ。終わったか」


 丁度良く作り終わったのか。

 山小屋に戻ると、じいちゃんは皿に野菜と山菜の煮物と、スープをよそっていた。


「ああ。ちゃんと言われた通り六千回やったよ」


 その言葉にじいちゃんは少し驚きの表情を浮かべた後。

 俺にとっては嬉しくないことを言ってきた。


「ほお……かなり早くなったな。では、そろそろ次の段階にいってもいいかものう。回数も更に増やすかの」


 じいちゃんの目が怪しく光った気がする。


「こ、これ以上何やらせんだよ。座学もあるんだし勘弁してくれよ」


「ほっほ。楽しみにしておれ。よし、ちょうど出来た。温かいうちに食べよう」


「あれ。でも座学が……」


「腹が減ってしょうがないと顔に書いておるからな。仕方ないから飯の後に座学をやることにした」


 じいちゃんが木で出来た鍋蓋を外すと、良い匂いが山小屋を満たす。


 ぐうううっ

 腹の音も鳴るというものだ。

 じいちゃんは俺の腹の空き加減も把握していたのか。

 いつも小言ばかり言うじいちゃんだけど、たまにこうして優しい時もある。


「よっしゃ! 今日も、もりもり食うぜ!!」


 いつも厳しくも俺に優しくしてくれるじいちゃんに、内心感謝をしながら、ガツガツと飯を腹に納めていく。

 俺は育ち盛りだからたくさん食って、でかくならないと。

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