25話 反省
よろしくお願いします!
「……ぐあああっ!!」
物凄い速度で飛んできた二本の短刀が、グサリ、グサリと、スイダイの背に深く突き刺さると、それは勢いが弱まる事なく体を貫通した。
腹からは、その刃の切っ先が飛び出している。
「くそっ! 気づくのが遅れたせいで、対応出来なかった!」
俺は飛んできた短刀に反応し、それを斬り払おうとした。
だが。
そうするには、スイダイごと斬らないといけなかった。
おそらく俺がそう動かざるを得ない様に、スイダイの死角から狙ったんだろう。
油断していた所をつかれたのも、あるけど。
もっと早く気づいて、もっと速く動き出せば……。
どちらにせよ、対応出来なかったのは俺の未熟さ故だ。
「この辺の気配察知は、まだまだだな! くそっ!」
頭をガシガシと掻きながら、短刀が飛んできた方向に首を向けると、こんなふざけた事をしでかした奴を見つけた。
そいつは、離れた所にある平屋の裏から、村の出口に向かって走っている所だった。
しかも、その男の後ろ姿。
纏う服装は。
「……『滅』の黒い羽織袴……!」
『滅』が近くに居たのに……。
コイツの気配も察知出来ないなんて……!
己の未熟さに、自分の面を思い切りぶん殴りたい衝動に駆られる。
「……いや。今は」
それよりも今は、先にやらないといけない事がある。
反省も、ぶん殴ぐるのも、後回しだ。
気持ちを切り替えて攻撃してきた奴を見ると、その脚力は凄まじく既にかなりの距離が離されていた。
こうしてる間も、ぐんぐんとその差は開き、既に村から出ようとしている。
「…………ちっ! ここからじゃ……」
流石に、この距離では斬れない。
くそっ! せっかくの直接の手懸かりを逃した!!
それでもと、一か八か生滅刀に手を添え、死線を確認する。
でも、やっぱりここからはそれを見ることは出来ずに、そいつは完全に姿を眩ました。
「……あーくそっ! 何から何まで後手になってんじゃねぇーか!!」
腹を立てたところで、この状況が覆る事がないことは分かっているけど叫ばずにいられない。
つもり積もった自分への苛立ちを発散する為に、右頬を思い切りぶん殴った。
「……いつっっっ!」
力を加え過ぎたのか、頭がグワングワンと揺れ片膝をつく。
更に、口の中が切れたらしく出血してきた。
「……ぺっ……」
それを吐き出す事で、ようやっと落ち着いてきた。
焦るなまた機会は訪れる筈だ。
その時こそ、きちんとやればいい。
ジンジンと痛む頬と、揺れる頭のお陰で、沸騰していた血が冷めるのを感じる。
やっと通常の精神状態になれた頭が、スイダイの存在を思い出した。
「……そうだ」
後ろのスイダイへ振り向くと、血を垂れ流し倒れている。
「おい! 大丈夫か?」
「……体が蝕まれていく感覚……致死量の猛毒が仕込まれていたか……。この状況も見抜いての伏兵を寄越していたとは。俺が話す事すらも、読まれていたのか。不覚」
「毒って……。お前の仲間は斬っちゃったし、誰か解毒剤とか持ってないのか?」
「……毒など予想していないからな。いいのだ。どのみち、お前に少しでも情報を伝えた段階で、あの御方に刃向かうのと変わらない。この場で無くとも、どのみち後で消されていた」
「それなら、どうして俺に話した?」
「……お前は、その歳で『滅』に敵対している。のっぴきならない事情がある……ことぐらいは……分かる。それに、俺も剣士だから……斬り合えば相手がどういう人間かも、分かる。そんなお前を無下にする事は出来なかった……。きっと、辛く苦しい思いを乗り越えたんだろう……」
「……」
「お前は……これから、都で様々な真実を知ることになるだろうが……負けるなよ……がふっ……」
それきり。
スイダイは、動かなくなった。
「……真実……か。一体この死剣眼には、何があるっていうんだ……。それに、『滅』の奴等……汚ねぇ真似しやがって!!」
せっかく、上手くいきかけてたのに。
それをぶち壊された。
でも今回は、俺が未熟だったからこんな事になった。
「……」
目を閉じ反省する。
駄目だった事、どう立ち回れば回避出来たのかを考え、修正した。
「よし。反省終わり。次は、同じ失敗はしねぇ」
失敗は一度で十分だ。
反省を済ませると、動かなくなったスイダイの体を抱き抱える。
「……せめて。何処かに遺体を埋めてやるか」
スイダイの遺体を村の端に埋めた。
コイツにも、家族がいると言っていた。
もし何処かで見かけたら、死に際の事を話してやるか。
それぐらいは、してやりたい。
もう一度スイダイが埋まる場所を見て、村の奥に進んだ。
進むと、助けた男が数人の仲間の傷の手当てをしている所だった。
俺の姿を見た男は立ち上がると、走って近寄ってくる。
「お前! 良かった……無事だったんだな!」
確認するように俺の全身を見渡すと、その顔に笑顔を浮かべた。
さっきまでは焦燥感に駈られていたが、この感じだと仲間の救出も上手くいったのか。
「ああ」
「……あ、でも顔に痣が……大丈夫か?」
「これは、自分でやったやつだから問題ない。あいつら全員死んだぞ」
「……まさか本当に……。一人であの……戦力を……」
「だから言ったじゃねぇーか。勝てるって」
「いやしかし……相手は、九人で、その内一人は剣君だぞ? そんな状況で勝てるなど信じられる方が、どうかしてるだろう。あの場は任せてしまったが、心配だったんだ。無茶を押し付けてしまったと……」
申し訳ない事をした、とその顔には書かれている。
言葉通り、俺の身を案じてくれていたのか。
「俺をお前らの常識で考えるな。俺は強いんだ。それも、物凄くだ」
その為に、鍛練したんだぞ。
この程度で、こんな所でくたばってられるか。
「本当……だったんだな。いやはや凄い奴だ」
「シュウゲツ。この小僧か? お前が言っていた、助太刀してくれた少年というのは」
手当てを受けていた男が俺達の元へ近づいてきた。
見ると、他の仲間達もこちらの様子を伺っている。
シュウゲツと、名前を呼ばれていたが。
この男の名前か。
「そうだ。さっきも言ったが、あの戦力を一人で受け持ってそれに、勝ったらしい。本当に凄い少年だ」
シュウゲツがそう云うと、全員がざわつき出した。
「マジかよ……剣達九人に、剣君一人だぞ……どうなってんだよ……」
「そうだよな。俺は話を聞いた時、とても信じられなかったぞ。どうせやられると、思っていたよ」
コイツら。
勝手に俺が負けると思ってんじゃねぇ。
「そりゃそうさ。だってそんな事が出来るとしたら、剣神達しか……」
「そうだな。あの人なら、それも出来るだろうな」
今度はあの人か。
あの御方に、あの人。
隠語か何かなのか?
まぁいいや。それも聞けばいい。
「でも。こうして有言実行をしてのけたのだ。凄い奴だよ。本当に」
「俺が凄いのは、自分でも分かっているからもう誉めなくていい。それよりも、約束通り話してもらうぞ」
さて。
コイツらからは、有益な情報を得られればいいんだが。




