24話 暗殺
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スイダイ? が、最強の剣技だと言って放った一刀。
それは、ものすごい威力を備えているのが死剣眼を通して伝わってきた。
全ての剣気をこの一振りに込めているかの様に、刀を色濃く染めると、踏み出す大地、周りを流れる風すらも凍りつかせようとする。
これをまともに食らえば、氷像にされ俺はここで終わる。
確実に勝つ事に拘るのならば、さっさと死線をなぞらえて斬ってしまえばいいのだが。
俺は敢えてコイツを殺さないで無力化させる事に決めた。
今ここで、殺すには惜しくなった。
その為には――
壊させてもらうぞ。
この一撃を受けずに、無力化する方法は。
それは、その剣技の発動を止めてしまえばいい。
生滅刀を強く握り直し、眼圧を上げて俺に振り下ろされている最中の蒼い刀を睨み付ける。
そうすると、体の表面にではなく刀を握る右手に、赤い死線が浮かび上がった。
「……ここだ!」
ヒュン――
小さくて短い死線に、全神経を注ぎ込み最速の一刀を放った。
僅か数センチのその死線。
そこに俺の一刀は吸い込まれる様に、入る。
「……なにっ……!」
その一撃は、寸分違わずに、剣気と、右腕の筋だけを切断した。
「……がっ!!」
右手の握力を失った事でカランコロンと、刀を落とす。
同時に収束されていた剣気も霧散した。
「……少し失敗したか……」
結果的には、成功したけど……七十点だな。これじゃあ。
「……うーん。本当は剣気だけを斬って、無力化させたかったんだけど……今の俺には、まだ出来ない芸当だな」
フオン
フオンと、何度か生滅刀を振るって感触を確かめる。
俺は、この戦いでは自分に枷をつけて戦っていた。
勿論、強くなるための鍛練の一貫として。
真剣勝負の場で、こんな事をするのは間違えてるんだろうが。
せっかく上位剣士で、まともに戦えるのと出会えたんだ。
あっさり斬ってしまうのは、もったいないと思った。
こいつとの戦いは面白かったし、それに聞きたい事もある。
俺は敵対する者は全て斬るつもりだが、協力してくれる奴や、知りたい情報を話してくれれば殺すつもりはない。
こいつとは傷を癒せば、また戦えるし。
その時には、俺もまだ腕を磨いておきたいもんだ。
まぁ、全てはその機会が訪れば、になるんだけど。
「その時まで、もっと腕を上げないとな」
「……もしや……貴様……」
スイダイ? は、右手首を左手で押さえながら、唖然とした顔をする。
次の瞬間には、それが怒りの形相に変わった。
「……小僧……貴様、手を抜いていたな……。殺し合いの最中に……!」
ギリッと、歯を噛みしめ恨めしそうに見てくる。
怒っちゃったか。
「手を抜いたかと言われれば、そうかもしれないけど。俺は全力でやったぞ」
俺は嘘は言っていない。
確かにもっと簡単に勝つ方法はあったけど。
今の俺に出来る技術を全て発揮した。
「ふざけるな! 殺し合いに手を抜かれるなど、剣士にとっては最大の侮辱だ!」
それは何となく分かるけどな。
俺にも考えがあるんだ。
それを伝えることした。
「……怒るなって。俺は、お前の実力を認めた。それに、お前と戦うのは、楽しかったしまた戦いたいと思ったんだ。だから……許せ」
「……は?……そんな事の為にお前を殺そうとした、俺を生かしたと言うのか?」
「ああ」
「…………くっくっくっ…………はっーはっーはっ!! とことん剣士としての大事な部分が抜け落ちている。だが、面白いガキだ!」
スイダイ? は、ひとしきり笑った後。
胡座をかいた。
「お前こそ…………えーと」
「なんだどうした?」
「…………スイダイ? だっけ? 名前」
間違えているかもしれないから、聞いてみた。
「……そうだが……もしかして、二回も名乗ったのに、ちゃんと覚えてなかったと?」
「……」
「二回も口上したというのに、それが無駄になっていたとはな。くっくっくっ……やはり面白いガキだ」
スイダイはまた、大声で笑い始めた。
しょうがねぇーじゃん。
苦手なんだって、敵の名前覚えるの。
「……笑った笑った。……さて。滅の事を聞きたい、と言っていたな?」
「そうだが。敵には話さないんじゃなかったのか? 話す気になったのか?」
それならこんな面倒くさい事をした甲斐があったけど。
「俺は確かに、水氷の剣君で國と、都を護る責任がある。そして、同時に『滅』の協力者でもある。その立場上、敵対するお前に情報を伝える事は……裏切りになるのだろうが。俺も剣士だ。自分よりも強い者を認めてしまうのも性ってものだろう」
その気持ちは、良く分かる。
俺だけではなく、男はそういうもんなのかもしれない。
「……そして。俺が話してもいいと、思った一番の理由だが……それは、お前が死剣眼を継承しているからだ。」
何で死剣眼が出てくるんだ?
「どういう意味だ? 何で俺が死剣眼が関係してくるんだ?」
「……それだけは、俺の口からは言えん。それについて発言権があるのは、帝だけだろうからな」
だから。
何で死剣眼から帝に繋がるんだ。
「だから。どういう意味なんだ?」
「……お前は、都に行くのか? この辺にいたということは」
「そうだ。都に行く途中で、この村に立ち寄った」
「それならば、帝に謁見しろ。そうすれば、お前が知りたい事が分かる。……だが。その時、お前は最大の危機に追い込まれるだろう。俺が伝えられるのは、ここまでだ」
結局分からない事が増えただけかよ。
あまり、前進していないな。
「教えろ。『滅』の首謀者は、誰だ? 帝なのか? それとも、違う奴なのか?」
「帝は違うとしか……言えん」
やっぱり帝は、首謀者じゃなかったのか。
じいちゃんの言うとおりだ。これで一つ前進した。
それにしても。
また一つ疑問が生まれる。
何でこいつは、『滅』なんかに。
「俺は、お前がそこまでの悪党には見えない。そんな奴が、何で『滅』の駒みたいな真似をしてるんだ?」
「……俺にも、お前と同じぐらいの、子供が二人いる。もし、俺が命令に従わなければ……皆殺しにされるだろう。今こうして、お前と話しているのも本来ならまずい事。知られれば、俺も無事には済まない。お前が、敵対している組織とは、そういう奴等なのだ」
『滅』がどんな組織なのか、詳しくは知らねぇけど。
非道な事をする連中なら、人質に取られるなんてこともあるのかもしれない。
それならスイダイの家族を犠牲にしてまで、聞き出そうとは思わない。
まだ、情報を得る駒はあるんだ。
「一番聞きたい事なんだが。……仕方ねぇか」
あとは、アイツらから情報を聞ければいいんだけど。
「…………なんだ」
何か空気が変わった気がする……。
次の瞬間。
高速で飛んで来る物体の気配を察知した。
俺は、それを迎撃しようと生滅刀を抜く。
だが。
「ちっ! ここからじゃ……!」
スイダイごと斬らないといけない。
俺が迷って手を止めた瞬間。
飛んできた二本の短刀は。
「……がはぁっっ……!!」
スイダイの背に深く突き刺さった。




