19話 穏健派と強硬派
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急ぎで黒煙の発生場所へと向かっていた。
傾斜が激しい道を駆け、目的地へと近づくと空気に煙ったいものが混ざる様になる。
更にその煙を追った先には真っ赤に燃える村があった。
「…………おいおい。まじでキナ臭い事になってんじゃねぇか」
バチバチと音をたてる程に激しく建物は燃え、何人もの人間が血を垂れ流し息絶えている。
どの死体にも炎症と凍傷の跡が見てとれた。
更に村の奥からは、刀を打ち付け合う音と共に、悲鳴が聴こえる。
そこに目線を向けると、襲撃したのが誰か分かった。
この惨状を引き起こしたのは、山賊など低俗な存在ではなく、赤と青の羽織袴に身を包み、業物の刀を持つ三大の剣士達だった。
刃を赤に染めて猛々しい炎で焼き払う者。
刃を青に染めて周りを氷付けにしていく者もいる。
何で、こんな何も無さそうな村を三大の剣士が……。
それも一つの村を滅ぼすにしては、その人数も異常だといえる。
こんな小さな村など、せいぜいニ、三人いれば滅ぼせるだろうに。
それなのに、この場で確認出来る数は……ざっと十五はくだらない。
そして、その明らかに過剰戦力といえる剣士達に、対抗する様に刃を交える者達がいた。
そいつらは普通の村人達ではなく、一様に三大剣術を使い戦っている。
「……どうなってんだ。何で剣士同士が。仲間割れか?」
でも襲撃されている方は、三大の羽織袴を着ていない。
て、ことはカゼマルと同じく、元剣士とかなんだろうか。
「……もっと良く見ないと分からねぇな」
ぐっと、足に力を込め、無傷なまま建つ平屋の上に飛び乗った。
ここからなら村全体を見渡せる。
ええっと。見た感じは……正規の剣士が優勢。
三大の剣士十五人に対し、対抗する側は十……いや。
今一人斬られたから九人になった。
このままだと正規側が勝つのは時間の問題だろう。
人数の不利もあるが、この場の一番の劣勢の原因は。
一人一人の練度の差にあった。
「正規側は星三つ持ちか。いや……一人だけ星四つがいるな」
三大剣術の剣士達は、星の数で強さが分かり、また強い者ほどその数が多くなる。
星が一つ増えるだけで、その強さの差はかなり変わってしまう。
つまり、今この場には一四人の剣達と、一人の剣君がいる事になる。
「それに比べて……」
その正規の剣士達に対して、対抗する側にも剣達と同程度の力量を持つ剣士が何人かはいる。
だが、その一人一人の強さには、ばらつきがある様に見える。
でも、これでますます分からなくなった。
正規の剣士がこんな小さい村を狙う理由はなんだ。
それも、剣君や剣達まで出動させて。
もし、村を滅ぼす任務があったとしても、星二つの剣範で十分だろうに。
よっぽど確実に成し遂げたい事でもあるのか。
いまいち状況が掴めないでいる俺の耳に、声が聞こえてきた。
「まさかこんな山村に隠れていたとはな。見つけ出すまで苦労させられたぞ。だが、今日ここで見つかったのが貴様らの運の尽き。謀反者には、大人しく斬られてもらおう」
星三つをつけた一人の剣士が、相対する者に刃を向ける。
「ふざけるな! 強硬派が私利私欲の為に都を、この世界を手に入れようとしているのは既に掴んでいる。帝に対して弓を引こうとしているお前達こそが、本物の謀反者ではないか!」
互いの主義主張を言い合いながら、激しくぶつかり合う二本の刀。
振り下ろされる刀を弾き返し、またそれを弾く。
対抗する側の剣士が言った言葉。
謀反者?
何言ってんだこいつら。
「もうそこまで情報を掴んでいるとはな。ならば話は早い。近々、帝にはご退場願う事になる。それが、正式な形になるかは分からんが」
「お前ら! 帝に何をするつもりだ!」
「さてな。俺が知らされているのは、近々帝には消えて頂くということのみ。方法は、知らん。だがそうなるのは、必然と言えよう。
この世界は力こそ全てそんな事は子供とて知る常識。ならばこそ、力あるあの御方が帝に代わり頂点に立つのが道理ではないか!」
「どの口が言うのだ! 人の事を謀反者だと良く言える!」
ギィン、ギィンと両者が斬りつけ合う。
使用する流派は、互いに火炎剣神流同士。
三大の中でも威力重視の剛剣が、何度も刃を振るえば周囲に火の粉を撒き散らす。
互いの肉を焼きながらも、仕掛けては防ぎ、また仕掛けられてはそれを防ぐ。
「……」
何度かの斬り合いを見る限り。
互角の攻防に見える。
だが、僅かに実力は正規側の剣士の方が上だ。
何度も刃を交える内に、形勢は対抗する側が不利な状況に傾いていった。
激しく打ち付けられるその剛剣に対応出来なくなり、防御の構えを取る時間が増えてきた。
何とか耐えているが、長くは持たないだろう。
それから何度目かの斬り合いの後。
俺の予想通りの決着となった。
対抗する側の剣士は刀を弾かれ、左腕を斬られると体ごと吹き飛ばされた。
「ここまでだな」
「……ぐうううっ! ……おのれ……」
左腕を押さえながら座り込む男に対し、剣士が近づきながら刀を向けた。
次の一撃で、決着をつけるつもりか。
「心配せずとも、俺達強硬派がこの世界を正しく導こう。貴様はあの世で新しい世界を見ているがいい」
「……我々が、帝を守らねばならぬのに。こんな所で……くそー!!」
男は右手で思い切り地面を殴ると叫んだ。
全身で悔しさを表す。
それを見た三大の剣士が、嘲笑う様な顔でカチャリと刀を上段に構えた。
「さらばだ。己の愚かさをあの世で悔いるがいい」
「……申し訳ありません。あなた様の刃として、『滅』を滅ぼし、御身をお守りしたかった……」
おい。
今何て言った?
『滅』って言わなかったか?
何でこいつが知ってるのとかは、この際どうでもいいとして。
俺が聞きたかった言葉。
それが聞けた事に、俺は。
口許が歪に、にやけているのが自分でも分かった。
「ははっ!! 見つけたぞ手がかりを!!」
数日前に斬り殺した剣君からは、情報を聞き出せなかったが。
こいつからなら情報を聞ける筈だ。
だから。
こいつは、死なせるわけにはいかない。
死剣眼発動。
「死ねぇい!!」
三大の剣士が全力で刀を振り下ろそうとした瞬間。
ヒュン――
すぐさま屋根の上から最速の一刀をお見舞いした。