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11話 人助け

本日最後になります。

よろしくお願いいたします!

 


 山賊達に足止めをくらったが、排除して町に向かっていた。


 

 約二年振りに山から降りたけど、何か治安が悪くなってる気がする。

 前から山賊や、野盗の類いは居たけど、少なくとも日中に出くわす事はなかった。

 それに、一部の特権階級にはあまり機能していないとはいえ、法律だってある。

 憲兵に見つかってしょっぴかれる可能もあるのに、堂々と悪事を働かすとはな。



「俺が山籠りしてる間に何か変わったのかもしれない。ん? あれは……」


 道の先で白色の作業服を来た集団と、馬車を引く馬が何頭かいるのが見えた。

 ここだけ見れば、ただの商人の集団にしか見えない。


 だが、道の先で繰り広げられているのは、その商人達に刀を手に持った輩が襲っている光景だった。

 いわゆる盗賊の類いが、身分に不相応な高級の甲冑を着込んでいる。

 大方、追い剥ぎでもしてぶん取ったもんなんだろうけど。

 それもあって、普通の商人達では相手にならない様子だ。

 周りには、傷付いて倒れているのが何人もいて、呻き声をあげている。


 このままだと、全滅だろうけど誰も戦えるのはいないのか?


「……いや。一人だけいるな。戦闘出来るのが」


 その中で唯一、野盗とやり合えている男がいた。

 刃を緑色に変色させては、斬撃を飛ばして甲冑に傷をつけている。

 構えや、剣筋、立ち居振舞いからは中々の剣の腕だと分かる。


「……惜しいな。野盗の人数が三人ぐらいなら、勝てたんだろうが」


 いくら相手が野盗でも。

 たった一人で、多勢を相手にするのは、実力が足りない……か。


「……うあああっ……!」


 俺の予感は当たり、その男も賊に斬られる。

 刀を持つ右手を斬られ、その場で蹲った。


「きゃああああっ!!」


 男が動けなくなるのと同時に、若い女の悲鳴が聞こえた。

 見ると、俺より少し年上っぽい女が野盗に腕を掴まれていた。


「女は殺すなよ利用価値がある。男はいらん殺せ」


「お、お願いします! どうか、孫だけは勘弁して下さい!」


 身なりが綺麗な老人が、両膝を地面につけて命乞いをする。


「お金も荷も差し上げます! 孫だけはどうかどうか助けてください!!」


 更に深く頭を下げ額を地面につけて必死に懇願する。


「どうする? じじいが必死だが」


「どうするかなぁ。じじいはいらねぇから、殺すとして。女は……頂いた後……やっぱり遊郭に売り飛ばすか」


 野盗の一人がにやけた顔で、刀の切っ先を老人に向けた。


「そ、そんな! どうか! どうか!」


 尚も必死に懇願しながら野盗の足にしがみつく。

 その姿からは、孫娘を何としても助けたいとの意志がはっきりと伝わってきた。


 その姿に影響してか、今度は女が声をあげる。


「どうかお願いします! 私にはどんな事をしてもいいですから、おじいちゃんだけは助けてください! お願いします! 私のたった一人の家族なんです!!」


 女も必死な形相で懇願する。

 たった一人の家族……か。

 互いに庇い合う二人の姿は、何故かじいちゃんと俺の姿に重なった。


「……」


 助けてやる義理は……ないが。

 見捨てられねぇーよな。


「残念だな。俺はもうじじいは殺して、女は貰うと決めた。それじゃあな」


 死剣眼発動。

 ヒュン――

 刀を振り下ろそうとした野盗の一人に、一太刀浴びせる。


「…………え……おあああがあああっ……!」


 甲冑の上から体をぱっくりとさせ、その切り口からは盛大に血が噴き出し周りを赤く染めた。


 ズルリ

 ドサッ


 体を二つに分けた男が地面に倒れた。

 他の野盗達も仲間がやられた事に気づき手を止める。


「誰だ!」


 俺の方へ男達は一斉に振り向いた。


「……」


「お前は誰だ!」


 怒り心頭な野盗達は無視して、唖然と口を半開きにしている女に話しかける。


「おい。そこの女」


 数秒して自分に話しかけられた事に気付いたのか、返事をする。


「は、はい。私ですか」


「ああ。こいつらは全員悪党か?」


「は、はい。いきなり荷物や、お金を寄越せと言われ、商人の人達も斬られて怪我を……。あ、でも! あそこに蹲ってる人は用心棒の人です! 野盗の人ではありません!」


「分かった」


「え?」


 そんな二人のやり取りに、無視してた野盗の一人が口を開いた。


「おい! 俺達を除け者にするんじゃねーよ! お前が誰か知らねぇがお前も殺すか――」


 ヒュン――


 ズルリ

 ドサッ


 残りは、三人。


 ヒュン――

 ヒュン――

 ヒュン――


 人数分だけ刀を振るった。


「てめぇ! よくも――」


「ぶっ殺してや――」


「許さね――」


 ズルリ

 ドサッ


 三人まとめて真っ二つになる。


 野盗達が何か言いかけてたが。

 まあいいっか。どうせ録な事じゃねぇーだろうし。


 刀を鞘に納めて周りを見ると。

 場が静まりかえっていた。

 目の前で起きた出来事が信じられないとばかりに、全員目を大きく見開いている。


 少しして、自分達が助かったのを理解したのか。


「……た、助かったのか……」


 老人が安堵の息をこぼした。


「おじいちゃん! 良かったね私達助かったのよ!」


 女が老人に駆けつけ抱きついた。


「……本当に……良かった…………良かったなぁ……」


 老人も孫娘を抱き締める。

 二人の顔には、涙が浮かんでいる様に見える。

 俺はその横を通り、町へと歩きだそうとした。


「あ。そこの御方! どうかお待ち下さい!」


 離れた所から、老人が俺を呼び止めた。


「……なに?」


 そっちに顔を向けると孫娘と一緒に俺の元へと歩いてくる。


「助けて頂いて本当に、本当にありがとうございます。貴方様のお陰で孫もわたしも無事にすみました。このご恩を是非返させて頂きたい」


 老人が頭を深く下げ、礼を言ってきた。


「……いらない」


 そう言って歩こうとしたら、今度は孫娘に呼び止められた。


「そ、そんな事言わずに! お願いします私達にご恩を返させてください! 命を助けて頂いたのに、何もしないなんてそんな事出来ません!」


「ユリの言うとおりです。貴方様がいなければ、今ごろどうなっていたか……。ですからお願いします。お引き受けください」


 孫娘と老人が同時に頭を下げ、じーっと目を見つめてくる。

 俺はこんな風にお願いされるのが、昔から苦手だ。


 それに。

 俺は別に助けたくてやった訳じゃない。

 何となく見捨てられなかっただけだ。

 勝手に俺がやりたいようにしただけで、礼を貰うことではない。


「……」



 どう断ればいいんだろうか。


 そこへ、中々答えない俺が困っていると思ったのか、一人の男が声をかけてきた。


「旅の人。お礼は素直に貰うのが筋ですよ」


「……あんたは」


 声を掛けてきたのは怪我して蹲ってた用心棒だった。

 さっきは少し距離が離れていてハッキリ見えなかったが、黄色の羽織袴を着ている。

 刃を緑色に変色させ斬撃を飛ばしていたから、扱うのは風雷剣神流。

 ただ、羽織袴は緑色ではないから、正規の剣士ではないといった所か。


「この人は私達の用心棒を引き受けてくれたのです」


 老人が説明してくれた。


「すいません。僕の力不足で危険な目に合わせてしまいました。用心棒失格ですね」


 用心棒の男が申し訳なさそうに頭を下げる。


「いいえ。ここまで何度も危ない所を守ってくれたのですから気にしないでください。それに、この野盗達は不意をついてきたのです。今回のは、仕方ないですよ」


 孫娘が庇う様に言った。


「ありがとうございます。そう言って頂けると、僕も少し救われます。それで、シュウドウ殿もそう言われてますし、礼は受け取った方がよいかと」


「お願いします。旅の方。私達に恩を返させてください」


 孫娘が老人と一緒に、再び頭を下げてきた。


 だから。

 そんな風にお願いされるのは、苦手なんだって。


「……分かった。そう言うことなら」


 俺がそう答えると、孫娘はパアッと明るい笑顔を浮かべた。


「良かったぁ! 引き受けてくれて、ありがとうございます! 一生懸命恩返しさせて頂きますね。あ、私はユリといいますが、旅の方お名前は? ここを歩かれていたという事は、目的地があるんですよね? どちらまで行かれるのですか?」


 余程俺が承諾したのが嬉しかったのか。

 もの凄い笑顔だ。

 矢継ぎ早に質問してくる。


「……ツルギ・イットウ。この先の町まで」


「そうですか! そうですか! 私達も町まで戻る所でしたので、丁度良かったです。それでは馬車に乗ってください! こっちです! こっち!」


 ユリに右手を掴まれ、馬車の所まで引っ張られる。

 そんなに恩返し出来るのが嬉しいんだろうか。

 変わった奴だな。

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