1話 プロローグ
一生懸命書いて参りますので、よろしくお願いします!
次話からは基本一人称になります。
ここは、力ある者が有利な世界。
弱き者は強き者によって淘汰され、強き者はその屍の上で生を自由を謳歌する。
この世は決して平等ではない。
強いという理由だけで何をしても許される世界で、
今宵もまた――――命の奪い合いが行われていた。
「絶対に逃すな! どんな手を使ってでも必ず殺せ! 逃せば我等の名が廃れるぞ!!」
大柄の男が遠くまで届く太い声で、逃亡者の殺害を指示する。その命令に従う様に地面を蹴るのは、二十人の男達。
人々が寝静まる時間帯に、激しい土煙を上げながら、けたたましく足音は響き渡る。
この男達が躍起になって追っているのは、一人の少年。
一般的な黒髪に白い羽織袴を着込み、右手には紫色の刀を握り締めると、近付いてくる輩を静かに見つめていた。
その様子は驚くほど冷静で、まさに今、己の命を奪われようとしている危機的状況にはとても見えない。
普通であれば、これだけの人数に取り囲まれ、逃げ場の無い状況ならば竦み上がってしまうだろう。
とにかくこの場を生き延びる事だけを考え、命乞いをするのが大半だと思われる。
しかし、この少年は普通ではなかった。
自身に向けられる怒号や殺意など意にも介さない様子で、慌てふためく事もない。
それどころか、好戦的な笑みすら浮かべている。
圧倒的有利な状況なのは、間違いなくこの男達である。
それにも関わらず、この少年の様子に一種の不気味さを感じながらも、斬りかかった。
「このクソガキが! その命、潔く差し出せ!!」
「……」
少年は、自身の命を刈り取るべく迫る刃を鋭い視線で見据えると、一振り刀を走らせた。
ヒュン――
「――――え? ぎゃうおあああああぁぁぁーー!!」
その一刀は、風すらも置き去りにする様な圧倒的な速度で振るわれた。
すると、次の瞬間には一人の男が頭から胴体にかけて縦に両断される。
ぱっくりと割れたその体からは、大量の血が吹き荒れ周りの草、土を赤に染めた。
「……斬った、だと!? 刀が振るわれるのが、見えなかった……」
「どういうことだ!? どうやって斬った!? 振りの速さも尋常ではないが、三大剣術を使った痕跡もなかったぞ!」
斬られた男の近くにいた仲間達がその血を浴びるが、驚きのあまり唖然とその場に立ち尽くしている。
「……」
戸惑う男達を無視し、少年は離れた所から足が止まった標的へと向かって、一回、二回、三回と刀を煌めかせる。
その動作に、男達は不可解に思いながらも防御の構えで刀を体の正面に構えるが、そんなものは無意味に終わる。
次々と放たれた斬撃は、防御などお構い無しとばかりにその刀ごと体を真っ二つに斬ると、またしても周囲は紅に染まった。
「そ、そんな……刀の上から。しかも……一撃で……」
「……なんなんだよ。この小僧は……何でこんな事が出来るんだよ……」
何か得たいのしれない剣術を使用する少年に、男達はようやく理解が追い付いたのだろう。
ズリズリと、後ろに後退りながら距離を取ろうとする。
それは、目の前の存在が決して手を出してはならない強者として認めたからだ。
「……」
少年は物言わぬ肉塊となった男達を見た後、まだ残る十人以上の敵をその冷徹な眼差しで見た。
丁度その瞬間、月が分厚い雲から顔を覗かせ、少年の姿をはっきりと写し出す。
「ひっ……!」
はっきりと見える様になったその少年の眼は、赤色に変色し黒の斜め十字の線が浮き上がるという異端の眼であった。
「……な、何だその眼は……」
ヒュン――
「ぎゃあああぁぁぁあああ!!」
少年には男達が驚こうが、逃げだそうが関係ない。
ただ、刀を次の標的へと振るうだけ。
その刃を四度、五度、六度と振るうだけで、その数と同等数の人間を次々と真っ二つにしていく。
ヒュン――
ヒュン――
ヒュン――
まるで力を加えているように見えない。
端から見ると、空を撫でているだけの様にすら見える。
だが、少年が刀を振るだけで確実に死体の数が増えていく。
ヒュン――
一人。
「――ぎゃあああうっあああ!!」
ヒュン――
二人。
「――た、助け……ぎゃあああ!!」
ヒュン――
三人。
「――こ、このままでは、全滅してしまっ」
ズルリ
ドサッ
また一人背中を向け、逃げ出そうとした体は真っ二つに割れる。
「ぎゃあああっ!! ば、化け物だーー!!」
「こんなのに、構ってられない! 逃げろー!!」
もう誰一人、挑んでくる者はいない。
己が命をどうすれば生き永らえるのか、ただそれだけを考え無我夢中で逃げ出そうとするだけ。
その逃げまどう標的を少年は無慈悲に死体に変えていった。
やがて。
殺害を指示していた男を除いて、悲鳴を発する者はいなくなった事でこの場に再び静寂が訪れる。
ザッザッザッ
少年は、わざと残しておいた最後の一人に向かって歩きだす。
その様子は、たった一人で大人数を相手に戦ったそれではなかった。
そもそも一撃たりとて攻撃を受けていないのだから、切り傷が無いのは勿論。
返り血や汗一つすらかいていない。
この程度の戦闘などは、少年にとって当たり前だと言わんばかりに平常に見えた。
「…………お前は何者だ。その赤い瞳……いや。死剣眼を何故……お前が持っている」
男は、ゆっくりと近付いてくる少年に対し問いかけた。
赤色の羽織袴に星四個を刻んだ男。
流石にこの集団の中で一番星が多いだけあり、額に冷や汗を浮かべながらも、いささか冷静に見える。
その男の問いに対し、初めて少年は口を開いた。
「お前。死剣眼を知っているのか? それなら『滅』の……じいちゃんと父さん母さんを殺した奴等の仲間ってわけか」
「……やはりそうか。生憎と、お前の家族の事は知らぬが……俺の考え通りなら…………あの御方の考えがあっての事だろうな」
男の返答に少年は瞳を更に赤く染め上げ、十字の色を濃くすると問い質した。
その表情は、怒りに染まっている。
「お前らが言うあの御方……『滅』の首謀者は誰だ言えーー!!」
少年の怒号はこの場の静寂を再びぶち壊すと、感情と共に漏れだした殺意と剣気が草木を激しく揺らす。
それらを直に肌に感じながらも、少年を煽る事を止めない男。
「……みすみす敵に話すわけなかろうが。だが、どうしても知りたければ剣神達に勝つ事だ。あの御方は力ある者の前に姿を見せてくださるだろうからな。だが……例え会えたとてお前には」
「……」
男は自信を滲ませた顔で少年に言いきった。
「いかにお前が強かろうとも、あの御方には絶対勝てぬ。絶対な」
少年は男の言うことに苛立ちを募らせ、刀の切っ先をカチャリと、向ける。
「なら。さっさとお前を殺して俺は先に行くだけだ」
「よかろう。では、決闘だ!! 俺は火炎剣神流。位は剣君。名はゴウシロウ・フゴウ!! お前も剣士ならば名を明かせ!!」
少年はめんどくさそうに自らの名を名乗った。
「……ツルギ・イットウ」
「いざ尋常に勝負! はあああっ!!」
男が気合いを入れるのと同時に、濃厚な剣気が放出される。
それはたちまちに激しい炎となって、周りに飛び散ると、二人は炎の壁で囲まれた。
「これで、お前は逃げられない」
「……最初から、逃げる気なんてねぇーよ。ほら、かかってこい。斬り込んでくるのを待ってやるから」
ツルギは、左手でかかってこいと挑発する。
「よかろう! では、俺の最強の剣技を味わえ!! 火炎剣神流業火一閃!!」
ごうごうと燃え盛るその中で、凄まじい熱量の炎を纏った太刀が振り下ろされた。
先程殺した配下よりも、圧倒的に鋭く危険な一刀。
ツルギはそれをじっと赤色の死剣眼で見据えると――
「……遅い」
ヒュン――
自身の白い羽織袴が揺れる程に速く――――刀を振り抜いた。
「…………がっ!……ごほぁっ……がふぅっ!! みご……と……だ……」
その一撃は男の刀をへし折り、頭の天辺から股下へとバッサリと斬り伏せる。
数秒してドサリと、何かが倒れる大きな音が鳴った。
その音の発生源は、体を二つに分けた男の死体。
「……」
ツルギは、自分が量産した二十人分の遺体をまるでゴミを見るような眼で見た後。
赤く光る瞳を元の紫色に戻し、呟く。
「そのクソヤローを引っ張り出す為には、剣神だろうが、どんな奴だろうが関係ねぇ……全て斬ってやる。俺からかけがえのない家族を、全てを奪い去った奴等に」
ツルギにとって、最も大切な存在だった祖父の顔を思い浮かべた。
そして、空に浮かぶ大きな満天の月を見つめツルギは再度誓いを立てる。
「俺は必ずじいちゃんの仇を討つ。必ずその組織を滅ぼす。例え何万人斬る事になっても、俺が生きてこの刀を振り続けられるまで。それを邪魔するってんなら……全て斬る!!」
大切な家族を奪い己の人生をめちゃくちゃにした者達に必ず復讐をすると。
お読み頂き、本当にありがとうございますm(__)m