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スライム「ダイスケは俺が育てた」

 食べないと言ったな。あれは嘘だ。


 喉が渇いてきたので試しにグリーンスライムをかじってみると、アップルジュースの味がした。瑞々しい果実のように水分もたっぷりだ。


 ウィルが言うには、グリーンスライムの味についても100%OFFの補正がかかっているらしい。まずさが100%OFFになったという。


 元々、薬草苔を主食にしているだけあって体力回復効果もあるようだ。


 疲れてきたら食べる。そして戦う。食べる。戦うのヘビーローテーション。


 そんなこんなで二時間ほどグリーンスライムを狩り続けた結果――


「周囲から魔物の気配がなくなりました」

「いやぁ食った食った……」

「ダイスケは現在、スライム属経験値を35955ポイント獲得しています。使用しますか?」

「使うとレベルでも上がるのか?」

「はい。その通りです」


 まるでゲームみたいだが、そういう世界ってんなら郷に入っては郷に従えの精神だな。


「よし! じゃあ全ポイントを使って一気にレベルアップするぞ」

「本当によろしいですか?」

「使ってないポイントは持ってないのと一緒だからな。やってくれ」

「ではレベルアップを開始します」


 ウィルが七色に光ると、俺の身体も同じような虹のオーロラに包まれた。


「レベルアップを完了しました」


 拍子抜けするくらい、なにも変わった気がしない。


「そうかそうか。どれくらい強くなったのか試したいんだが……」

「周囲に魔物の気配はありません」


 そうだった。全部倒しちまったんだっけ。


「じゃあ先に進むか」


 このジメジメした洞窟から出ることにしよう。


 来た道を歩き出した。


 目を覚ました通路まで戻る。


「ところで、俺のレベルは?」

「レベル20です」


 これなら武器や防具がなくても雑魚をワンパンくらい余裕だろう。


 うま味雑魚狩りで


「そうだ! ステータスは確認できないか?」


HP:140 MP:0 攻撃力:52 防御力:26 敏捷性:67 魔力:0 魅力:5

スキル:スライム特攻格闘術


 グリーンスライムをちぎっては投げし続けた結果、なにやらスキルを獲得した模様。


「魅力5ってのはひどいぞ」


 魔法は使えないからMPも魔力も0なのはともかく、魅力だけ他の数値に比べてかなり低い。


「私はダイスケがカッコイイと思いますよ」

「じゃあなんで5なんだよ!?」

「個人の感想です」


 地味に腹立つなこいつ。


 とはいえ役に立つ。洞窟は入り組んでいるのだが、ウィルが少し先の地形や通路を感知してマップを表示してくれたおかげで、迷わず外に出ることができ……なかった。


 洞窟の入り口はお椀をひっくり返したようなドーム状だ。


 出口を埋め尽くすように、巨大なスライムが鎮座している。全長十メートルほど。避けて隙間から抜けるのはまず、無理そうだ。


 巨大スライムの色は白っぽく濁っていた。乳白色の温泉みたいだな。


 まだ俺たちに気づいていないが、さてどうしたものか。


「ウィル……他に出口はないのか?」

「ダイスケの大きさでは通り抜けできない空気孔をいくつか発見しました」

「そうかありがとう」


 実質、アレを倒すかやり過ごさなければ外には出られないってわけだな。


「やるしかないか」

「がんばってください!」


 普段は淡々としてるのに、突然抑揚つけるのやめろ。調声失敗した合成音声かよ。


 さて……と、もはや洞窟内での狩りができないのだから、レベルを上げて物理で殴るしか俺に手段はないわけだ。


「一応確認しておくが、クーポンは出てないのか?」

「現在使用できるクーポンはありません」

「わかった。他にアドバイスとかは?」

「すみません。よく解りませんでした」

「……行ってくる」

「いってらっしゃい!」


 呼吸を整えると、俺は通路を出て巨大な白いスライムに向かった。


 瞬間――


 ぶるるん! と、スライムは震えると、無数の白い触手が矢のように俺に飛んでくる。


 その軌道が不思議と読めた。軟体不定形な触手だが、攻撃の予兆みたいなものを感じとることができる。


 さっきステータスで確認したスキル――スライム特攻格闘術のおかげかもしれない。


 触手を腕で払って弾き、白いスライムの懐に潜り込むと拳を叩きつける。


 俺のパンチは水面に巨大な石を落としたように、波紋を広げて白いスライムの巨体を揺るがした。


「おっ……いけるんじゃないか?」


 殴る、殴る、殴る、試しに触手にかぶりついてみる。


 まっず! なにこれ腐った木みたいな味がした。


 通路のあたりでふよふよ浮いているウィルが告げる。


「ダイスケはグリーンスライムに100%OFFですが、他の色のスライムには50%OFFしか適用されません」

「そういうことは先に言えよッ!」

「訊かれませんでしたから」


 いや、前向きに考えろ。相手の能力は50%OFFなのだ。


「うおりゃあああああああああ!」


 殴る、殴る、殴る、触手に殴り返される。


「ぐはっ!?」


 鞭のようにしなった丸太ほどの触手に吹っ飛ばされて、背中から壁に激突した。


 衝撃でくらくらする。普通なら即死だが……大丈夫だ。まだ……やれる!


 本当に俺は異世界でレベル20なりの身体能力を得たようだ。


 そう思うと先ほどよりも、攻めることができた。


 触手の攻撃をギリギリ引きつけてからかいくぐり、二発殴って相手の攻撃を待つ。


 幸い、デカイ相手だけに攻撃までの予備動作も緩慢だ。


 触手の攻撃を避けて、再び隙だらけになったところに渾身の拳を叩きつける。


 また、白いスライムの表面が大きく波打って白いゼリー状のものが飛散した。


 一回り小さくなったな。


 パターン入った。ギリ勝てそうだ。


 あとは集中力を切らさず、俺は白いスライムを攻め続けた。


 そして――


 撃破した。最後は野球ボールくらいの大きさになった白いスライムを、地面に叩きつけてゲームセット。


 激闘だった。カッコイイ勝ち方でもなかった。でも、泥臭くとも勝ちは勝ちだ。


 外の日射しが洞窟の中に降り注ぐ。


 導かれるように外に出た。


 目の前には鬱蒼と茂る森。ああ、町があればと思ったんだが、都合良くはいかないんだな。


 新鮮な空気を肺で満たす。


 と、ウィルが洞窟の中から俺の元に飛んできた。


「レアモンスター:ゴッドスライムを撃破しました」

「ゴッド? 確かに強かったけど、名前負けしてないか?」

「撃破したことでゴッドスライムのデータを参照できるようになりました。ご覧になりますか?」

「それは見ろってことだよな」


 断る理由もないし、自分の倒した相手がどんなものなのか興味もある。


 空中にウインドウが浮かぶと、ゴッドスライムの情報が表示された。


「レベル……99+?」

「ゴッドスライムはすべての魔法に耐性を持ち、斬撃や刺突を無効化します。打撃のみ有効ですがスライム属は打撃耐性もあるため、総じて倒すのは困難です」

「倒せたんだが?」

「おめでとうございます!」

「お、おう」


 スライム50%OFFとスライム特攻格闘術のおかげ……だろうか?


「まあなんとか外にも出られたし、考えるのは落ち着いてからだ。近くに村か町はないか?」

「探知範囲内に0件の村を見つけました」

「それは見つからなかったっていうんだぞ」

「すみません。よく解りませんでした」


 洞窟よりはいくらかマシだな。次はこの森を突破しよう。

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