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精霊ってAIで動いてんの?

 頬に水滴の冷たさを感じて、目を覚ますとそこは洞窟の中だった。


 真っ暗だ。ぴちゃんぴちゃんと水音が反響している。


「やっぱ悪魔だわ、あの幼女」


 とりあえず灯りがなければどうにもならん。


 と、スマホを取りだそうとしたのだが上着のポケットは空っぽだった。


「ふっざけんんじゃねえええええ! 願った意味ねぇだろ!」


 ねぇだろぉ……ねぇだろぉ……ねぇだろぉ……ねぇだろぉ……と、反響音がむなしく響く。


「誰かーッ!」


 事故ってロードサービスを呼ぶオッサンのような声を上げたその時――


「はい、呼びましたか?」


 抑揚のない声とともに、俺の目の前に光る玉がスウッと現れた。


「うわッ!? なんか出た」

「私は貴方をサポートする精霊です」


 ふよふよと浮かんで周囲を照らす野球ボールくらいの玉が、声を発するごとにピカピカと明滅する。


「サポート……精霊って……」


 そういえば幼女神がそんな機能をつけてくれたような気がしないでもない。


「俺のスマホがどこにあるか知りませんか?」


 つい、敬語で訊いてしまった。


「1件の検索結果を表示します」


 サポート精霊が闇の中にブラウザのウインドウみたいなものを映し出す。


 周辺の地図だろうか。中心点には俺らしき人型のアイコンがあり、目標を示す矢印が人型アイコンに向いていた。


 光の玉に照らされた足下には、スマホは落ちていない。


「どこにも見当たらんのだが?」

「スキル『ミーティアPAY』は貴方の中に存在します」

「なんだよその『思い出とか友情とか絆は消えない貴方の中で生き続ける』みたいな言い方は!」

「すみません。よく解りませんでした」


 こ、こいつ……スマートスピーカーかよ。


「そうか。解らないことを解らないと素直に言えるのは偉いぞ」

「ありがとうございます!」


 とってつけたようなテンションの高い返事だ。機械的な反応だな。


「名前はなんていうんだ?」

「私は光の精霊です」


 確か、この手のスマートスピーカーは呼び方を変えられるんだが……。


 光の精霊って言えば、ゲームなんかじゃウィルオーウィプスとかが定番だ。


「それじゃ長いな。ウィルって呼んでいいか?」

「はい。私は貴方をどのように呼べば良いですか?」

「じゃあダイスケで頼む」

「わかりましたダイスケ」


 初期設定完了ってところだ。


「それじゃあ外まで案内を頼む」

「出口までの経路を検索できませんでした」

「一瞬で諦めんなよ」

「探知範囲外に出口があると思われます」


 光る玉――ウィルは俺の周りを仔犬のようにぐるっと一周する。


「魔物の気配を探知しました」

「魔物って……やっぱそういうのいるのか」

「こちらに向かっています」

「お前がピカピカ光って目立つからじゃねぇのか?」


 するとウィルの光量が半分程度に落ちた。


「光量を調整しました」


 スマホのディスプレイみたいなことしやがって。


 辺りを見回しても隠れられそうな場所はない。


「ウィルは魔物を倒せるか?」

「すみません。よく解りませんでした」

「死んでも『出来ない』とは言わないんだな。武器はないのか?」

「武器はありませんが転生記念クーポンが発行されています。確認しますか?」


 そうこうしているうちに、暗闇から緑色の巨大水饅頭が現れた。


 大きさはビーチボールくらいだ。ゴム鞠のように跳ねている。


 スライム……だろうか。


「ウィル! あれは危険か?」

「草食性のグリーンスライムです。毒性はありません。薬草苔を食べているようです。打撃に耐性があり魔法が有効です」

「魔法って!?」


 グリーンスライムがギュッと身体を縮こめたかと思うと、圧縮したバネを解放したようにものすごい勢いで俺めがけて跳んできた。


 しゃがんで回避すると、グリーンスライムは天井で鍾乳石をブチ折りながら、バウンドして再び俺に向かってくる。


「うおあああああ!」


 悲鳴を上げて地面を転がり、なんとか避けたが……このままだと俺、死ぬんじゃね?


 だってほら鍾乳石ってさ、石じゃん? あれを折るってことはやばいだろ。


「ウィル! なんとかしてくれ!」

「すみません。よく解りませんでした」

「ちっくしょおおおおおおおおおおおめええええええええええ!」


 こんなことなら幼女神に最強にしてもらうんだった。


 グリーンスライムに背を向けて、闇の中を走り出す。


 逃げるが勝ちだ。


 だが、グリーンスライムは俺を追ってきた。


「なんで追いかけてくるんだよおおお! 草食なんだろ!?」

「薬草苔が生える縄張り争いをする習性から、グリーンスライムは異物を排除する傾向があるようです」


 俺の後をふよふよついてきながらウィルはのんきなものだ。


 ここで俺が死んだら、お前も仕事を失うんだからなコンシェルジュ精霊!


 まっすぐな道を進むと……行き止まりである。


「この先、行き止まりのようです」

「言うのが遅いッ!」


 すぐにグリーンスライムに追いつかれた。追い詰められた。やつが攻撃を仕掛けてきたタイミングで、その横をすり抜け来た道を戻る……。


 と、思ったところで――




 ドドドドドドドドドド!




 グリーンスライムの群れが後から追いついてきた。


 通路をうめつくさんばかりだ。コミケ開場の勢いである。


「クーポンの確認をしますか?」


「死ぬかどうかの瀬戸際というか死ぬんだが……どんなクーポンなんだ?」


 もはやそのクーポンの内容に賭けるしかない。


「異世界共通お食事券、初回100%OFFのクーポンです。使用しますか?」


「今は飯じゃないんだよなああああ!」


 先ほどまでの高弾性っぷりから、じわじわと俺を追い詰めるようにグリーンスライムたちが包囲してくる。


 100%OFFか。


 元いた世界で、一度でいいから当ててみたかった。


「なあウィル。三度目だ。よく解りませんとは言わせんぞ」


「なんですかダイスケ?」


「あのクソ幼女神のアプリはスキルになって、俺の中に宿ったんだろ。で、俺はそのアプリに『使えないクーポンを使えるようにしろ』って言ったわけだ」


 十分に距離が詰まったところで、グリーンスライムたちが一斉に身を縮ませた。




「このクーポンで、こいつらを100%OFFにしろ!」




 瞬間――


 緑の巨大散弾一斉射撃が俺に降りかかった。


「クーポンを使用します」




 ぽよんぷるんぽよよんぷるるん!




 俺の全身が適度な弾力の柔らかいものに包まれる。


 ウィルがピカピカと点滅した。


「グリーンスライムを無期限無制限で100%OFFにしました。ダイスケがグリーンスライムから受けるダメージは100%カットされます」

「なるほど。じゃあこっちの攻撃は通るのか?」


 全身に張り付くグリーンスライムの感触は、ぷるぷるしてなんだか心地よいくらいだ。


「スライム属の特性である打撃耐性も100%OFFになります」


 試しに俺の頭に乗ってグニグニと頭皮マッサージをしている一匹を摑んで、壁に投げる。


 びしゃっ! と、グリーンスライムは四散した。


「おお! 倒せた!」


 初の魔物撃破に沸き立つ俺独り。


「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」


 俺は身体に貼り付いているスライムから、ちぎっては投げちぎっては投げ。


 次々と倒していく。




「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」

「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」

「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」

「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」

「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」

「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」

「スライム属経験値を5ポイント獲得しました」




「なあウィル。普通に経験値でいいだろ?」

「この世界では魔物の属性ごとに戦闘経験値が変わるようです」

「ちょっと何言ってるかわからんのだが」

「詳しくは現地の方におたずねください」


 ウィルは丸投げの構えだ。


 そうこうしているうちにグリーンスライムをあらかた撃破した。


「魔物の気配を探知しました」


 どうやら騒動に気づいて、他のグリーンスライムも呼び寄せてしまったらしい。


「こりゃグリーンスライム食べ放題だな」


 実際に食べたらどんな味なのだろう。いや、食べないけど。食べないぞ。うん、なんかフルーティーな良い匂いがするけど……。


 とりあえずなんにせよ、まずはおかわり分を片付けてからだな。


 ゲームのRTAだと、美味い雑魚モンスターだけ狩ったりしてるし。


 今、まさにその状態。稼ぎ時。ここを狩り場とする!


 せっかく100%OFFなんだから、みんなまとめて俺の養分になってもらうぜ。

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[一言] ミーティアはもう出ないのかしら? あたしの考えだと、ミーティアの出番を増やせば作品の人気はこいのぼり……じゃなくてうなぎのぼりよ!
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