旅への道
宴は夜中まで続き、キーコの仕留めた灰色猪を初めとしたカカ村の料理を振る舞われた。
これがとてつもなく美味しかったのだ。
ウィルが言うには、女神の加護で俺の身体はこの世界に最適化されているらしい。
風土病だの水で腹を下すなども心配いらずとは……これも立派にチートな能力だと思う。
酒まで出されてほろ酔い気分だ。
宴の間も、キーコはずっと俺のそばにくっついていた。
ようやく宴が終わると、俺は村長の家に招かれた。
旅人を泊める宿もないため、一晩お世話になることにしたのだが……キーコの部屋に通される。
「今夜はボクと一緒に寝よう!」
水浴びしてきたというキーコの髪は濡れていた。
タオルというにはペラペラな布一枚を身体に巻いている。
「お、おい! ちょっとそれはええとだな……」
「だいじょぶじょぶ。ダイスケがすけべでもそうでなくてもボクはいいから……ね?」
キーコが背伸びをしたかと思うと、俺は彼女のベッドに押し倒された。
そのまま頬にキスをするクマッ娘に訊く。
「無理してないか?」
「えっ……と……あれ……なんでだろ。バレちゃった」
キーコの瞳がぶわっと涙で潤んだ。
どうやら俺はこの村の人たちに気に入られすぎたようだ。
言い方は悪いがキーコをあてがうから村に残ってということだろう。
「村長のじいさまに言われたのか?」
「ち、違うよ! あのね……ボクさえ良ければってじっちゃまが……ぼ、ボクもダイスケは好きだよ! まだ会ったばっかりだけど……」
「じゃあ、なんで泣いてるんだよ」
俺はキーコの頭を抱き寄せた。彼女も素直に胸の中に顔を埋める。
「ここで生まれたわけじゃないけど、ここでみんなに育ててもらったから……ダイスケが村にいてくれたら、この先もずっと村は安泰だって……じっちゃまが……」
「お前はどうしたいんだ?」
「ボクは……こんなこと言っちゃダメって思ってたけど……」
キーコは顔を上げて俺を見つめた。
「両親に会いたい」
「探すのも大変だし、会えたとしてもそれが幸せかわからんぞ?」
「うん。だからずっと、村のみんなにもじっちゃまにも言わなかったんだ」
俺はキーコの身体を抱き留めながらゆっくり上半身を起こした。
「じゃあ決まりだな。キーコの両親を一緒に見つけようぜ」
少女のクマ耳がピコピコ反応した。
「い、一緒に!? いいの?」
「ああ! 俺とキーコが組めば割とバランスもいいだろ? スライムと人間は俺の担当だ。動物と植物はキーコの出番。俺たちなら冒険者ギルドも雇ってくれるんじゃないか?」
昼間、ラザムとの決闘のあとで聖騎士フィリアが言っていたことを思い出しながら、俺は告げる。
この世界には冒険者ギルドがあって、魔物退治は専門分野に細分化されているのだ。
キーコは俺の首にぎゅっと抱きついた。
「うん! それがいい! それがいいよそうしようダイスケ!」
そのままキーコはそっと俺の唇に唇を重ねる。
こうなるとあとは拒むのも野暮な話だった。
翌朝――
村長をどう説得しようかと思っていたのだが、これがあっさりとキーコの旅立ちの許可が下りた。
いつかこんな日がくるかもと、村長もキーコが旅立つと決めた時の支度金をためていたというのだ。
俺とこの村でゆっくり暮らすように仕向けたのも、村長としては本心だったそうな。
旅に出ればつらいこともある。
村の入り口で、村人たちが集まり、村長が俺に告げた。
「どうかキーコのことを頼みますじゃ」
「俺の方こそ、キーコに色々と世話になると思うんで」
キーコが旅立ちのために用意された新しい旅装束姿で胸を張った。
「ダイスケの事はボクに任せて! あのね……じっちゃま……みんな……両親を見つけたら……戻ってきていいかな?」
「当然じゃよ。もちろん女神の勇者様も歓迎じゃ!」
村長がそっと俺に握手を求めて手を差し出した。
「どうかご無事で……と、お強い勇者様に言うことじゃないかもしれんがの」
「ありがとう。キーコとそのご両親と一緒に戻ってくるよ」
村の子供たちが「キーコねーちゃんいかないで!」と泣きついたりもしたが、別れを済ませて俺とキーコはカカ村を出る。
街道を行くとウィルが俺の前にそっと回り込んだ。
「村長からの情報とキーコからの情報を統合し、周辺MAPを最新のものに書き換えました」
「んじゃ、次の町まで案内頼むぜ」
キーコがウィルをつんつん突く。
「ここらへんならウィルに訊かなくてキーコが知ってるよ?」
「や、やめてください。そこは……ああっ!」
またしてもウィルの光がピンクに染まった。キーコはどうやら敏感なところを触るのが得意らしい。
いや、俺もその……なんでもないですはい。
青空の下、俺たちは広い世界に向けて歩き出した。
応用すれば無敵の能力「ミーティアPAY」と女神の加護とともに。
伸び悩みまして締めさせていただきます。
またしばらく迷走の旅へ。




