「さあ、上がってくれ」
「あぁぁ」
あまりにも呆気なく終わりを迎えてしまう
線香花火に虚しさを感じながらも、仕方なく、
それをバケツの水の中へ投入した。
なんとなしに、彼女の方を一瞥してみると、
思わず二度見してしまった。
彼女の花火は小さいながらも咲き続けていたんだから。
彼女を驚かせないようにと、
ゆっくりと距離を縮め、向かいにしゃがみ込んだ。
小さな蕾は絶え間なく花びらを生むことはないけれど、
それでもその命の灯火を絶やすことなく、
咲き続けている。
地味で退屈になりそうな画だけれど、
線香花火が人生だというなら、きっとこの方がいい。
穏やかに、平静を保ち、
じっと堪え忍ぶ心が必要不可欠だけれども。
彼女にはそれらが備わっている、
いや、何かの為に身につけたんだろうか。
さして興味もないけれど。
「綺麗ですね」
多少の間を空けて、
彼女は僕の顔を見上げ、再び花火に視線を落とした。
「あぁ、綺麗だな」
その表情はさきほど花火ではしゃいでいた人と
同一人物とは思えないほど、艶めかしいものだった。
伏し目がちに長い睫毛の間から
覗かせる黒目がとても妖艶な彩をしていて。
花火の後片付けを済ませ、
そろそろお開きなのかと思ったけれど、
彼女はまだ夏の風物を用意をしてくれていたようだった。
「冷やした桃と西瓜を用意している。食べていくか?」
「はい、食べます!」
二つ返事で快諾した僕だったけれど、
急な展開に僕の心臓は踊り狂ってしまう。
僕が頷くなり彼女は自分の家に僕を上げたんだ。
「さあ、上がってくれ」
彼女は危機感とかそういった類の気配を微塵も出さず、
自分の家の廊下をずかずか歩いていく。
それに引き替え、
僕はひょっとしたらとラブハプニングのようなことを
想像してしまった自分の不純さに恥じ、罪悪感を抱いた故に、
のろのろと彼女の後について行くばかりだった。
純粋な誘いを不純な方向へ捉えてしまった僕は、
これでも男なんだと、
妙なところで自覚せざるを得なかったんだ。




