「線香花火で勝負しよう」
彼女はほっとしたように、穏やかな微笑みを浮かべる。
無防備な笑みは僕の心を動揺させた。
由野さんって、こんな表情もできたんだ、
と失礼な気持ちを抱きながら。
同封されていた蝋燭に火をつけ、僕らは花火を始める。
ゴウゴウ、シュウシュウと煙を発生させて、
眩い光で宵の空間を灯す。
と、じっくりと花火を観賞して楽しむ僕とは相反して、
由野さんは花火を二個持ちして交差させたり、
手元で踊らせたりして子どものように無邪気に遊んでいた。
大人の彼女の方が自由気ままに遊んでいて、
僕よりずっと子どもみたいだ。
しかし、それは普段の仕事詰めな生活に対して、
至極当たり前なことなんだろう。
過密なスケジュールな中の、
僕と花火をするほんのひととき。
彼女にとって、それは安らぎや癒しになるんだろうか。
手元の花火よりも花火ではしゃぐ彼女を見つめては、
途方もないことを考えていた。
彼女が用意した花火も残り僅かになり、
彼女はようやく僕の方を向いた。
「線香花火でどっちが長く咲いていられるか勝負しよう」
すっかり童心に返った彼女は、
どこかで聞いたようなフレーズを口にした。
「火が点いているか、じゃないんですね」
「ああ、それじゃあ面白味がないだろう。
それに、線香花火は風流なものだ。
咲いていると言った方が、文学的で美しいと思わないか?」
それは一理あるかもしれないと僕は肯定する。
「そうですね。花火ですもんね。
早速、しましょうか」
「ああ」
互いの手に線香花火、
その合図で一斉に蝋燭へと花火を近づける。
「「せーの」」
蝋燭の炎がゆらゆらと燃えている。
どちらかに火が点いたんだろう。
そっと離してみると、
僕の方には火が点いていなくて、火の中へ戻した。
それに気づいた彼女は、
火から花火をそっと離してみる。
小さな蕾が微かに揺れているのが確認できた。
それに続いて、僕の花火もようやく火が点ったようだ。
彼女の蕾に比べると、
僕のはぷっくりして大きく感じられた。
しかもそれは未だ、大きく膨らんでいるように見える。
そうこうしているうちに、彼女の方は、
ちらちらと火花が散り始めた。
線香花火は、
火の花というのを目で確認できるのがいい。
小さな蕾から無数の花びらが散っていく、
そんな風に言うと、線香花火の命が短いのも頷ける気がする。
僕の花火も負けじと勢いよく、花を開花させ始めた。
大きな蕾からは短い花びらが
激しく烈火する如く散っていく。
消えた花びらを感じさせる間もなく、
それは花びらを生じさせて、を繰り返した。
しかし、それは間もなく幕を下ろすことになる。
二秒と経たないうちに、蕾はぽろりと落下してしまった。




