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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第三種「受容の種」―自分を受け入れる―】
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「線香花火で勝負しよう」

 彼女はほっとしたように、穏やかな微笑みを浮かべる。


 無防備な笑みは僕の心を動揺させた。


 由野さんって、こんな表情もできたんだ、

 と失礼な気持ちを抱きながら。


 同封されていた蝋燭に火をつけ、僕らは花火を始める。


 ゴウゴウ、シュウシュウと煙を発生させて、

 眩い光で宵の空間を灯す。


 と、じっくりと花火を観賞して楽しむ僕とは相反して、

 由野さんは花火を二個持ちして交差させたり、

 手元で踊らせたりして子どものように無邪気に遊んでいた。


 大人の彼女の方が自由気ままに遊んでいて、

 僕よりずっと子どもみたいだ。


 しかし、それは普段の仕事詰めな生活に対して、

 至極当たり前なことなんだろう。


 過密なスケジュールな中の、

 僕と花火をするほんのひととき。


 彼女にとって、それは安らぎや癒しになるんだろうか。


 手元の花火よりも花火ではしゃぐ彼女を見つめては、

 途方もないことを考えていた。


 彼女が用意した花火も残り僅かになり、

 彼女はようやく僕の方を向いた。


「線香花火でどっちが長く咲いていられるか勝負しよう」


 すっかり童心に返った彼女は、

 どこかで聞いたようなフレーズを口にした。


「火が点いているか、じゃないんですね」


「ああ、それじゃあ面白味がないだろう。


 それに、線香花火は風流なものだ。


 咲いていると言った方が、文学的で美しいと思わないか?」


 それは一理あるかもしれないと僕は肯定する。


「そうですね。花火ですもんね。


 早速、しましょうか」


「ああ」


 互いの手に線香花火、

 その合図で一斉に蝋燭へと花火を近づける。


「「せーの」」


 蝋燭の炎がゆらゆらと燃えている。


 どちらかに火が点いたんだろう。


 そっと離してみると、

 僕の方には火が点いていなくて、火の中へ戻した。


 それに気づいた彼女は、

 火から花火をそっと離してみる。


 小さな蕾が微かに揺れているのが確認できた。


 それに続いて、僕の花火もようやく火が点ったようだ。


 彼女の蕾に比べると、

 僕のはぷっくりして大きく感じられた。


 しかもそれは未だ、大きく膨らんでいるように見える。


 そうこうしているうちに、彼女の方は、

 ちらちらと火花が散り始めた。


 線香花火は、

 火の花というのを目で確認できるのがいい。


 小さな蕾から無数の花びらが散っていく、

 そんな風に言うと、線香花火の命が短いのも頷ける気がする。


 僕の花火も負けじと勢いよく、花を開花させ始めた。


 大きな蕾からは短い花びらが

 激しく烈火する如く散っていく。


 消えた花びらを感じさせる間もなく、

 それは花びらを生じさせて、を繰り返した。


 しかし、それは間もなく幕を下ろすことになる。


 二秒と経たないうちに、蕾はぽろりと落下してしまった。




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