えらく女性らしい格好
たまに見せる、遠くを見据えるような切ない横顔が、
いたく儚げに映って見えたから。
僕は由野さんを放ってはおけないのだろう。
店の目前までたどり着くと、
店先で立ったまま待っている由野さんの姿が見えた。
僕は急いで自転車を軒下に停め、彼女の元へ駆け寄る。
「由野さん、お待たせしました!」
息を切らしたまま、
慌ててそう言う僕に彼女は落ち着いた様子で僕に言葉を掛ける。
「別にそこまで待ってないよ。
それに、急に呼び出したのはこっちだからな、
遅くなったとしても怒ることはないさ」
ふと、彼女を見上げてみると、
今日はえらく女性らしい格好をしていた。
白地に淡い青色をした菊柄の女性用の浴衣が、
儚げな彼女にはとてもよく似合っていた。
ウィッグの下に隠れた長い髪を束ね、
それをかんざしで留めている。
そのせいか、首もとの襟足が強調されて、
妙に艶っぽく見えた。
いつもの格好とのギャップで、
彼女に見とれていると、何かを差し出される。
「君もこれに着替えてくれ。
着方は分かるか?」
それは男性用の浴衣だった。
なぜ、由野さんが……もしかして、男装用に?
色々と妄想しながらもそんなことは訊けるはずもなく、
訊かれたことに答えるだけだ。
「はい、なんとなくなら分かると思います。
そんなに綺麗には、着られないと思いますけれど、
それでもいいですか?」
「ああ、それでいい。
別にかしこまったことをするわけではないから、
大体で構わない。
雰囲気を出す為に必要だと思っただけだ」
その言葉にふと疑問を感じたけれど、
それについて考える暇もなく、
彼女に店の奥の小部屋に押し込まれてしまう。
さっさと着替えよう、そういや、
由野さんから誘われたことなんてあるだろうか、
いや、ない。
断られた経験ならあるけれども。
適当に浴衣を身に纏い、
扉を開けると彼女がそこで待ってくれていた。




