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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第三種「受容の種」―自分を受け入れる―】
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「今夜、時間はあるか?  あれば八時頃、店に来てくれ」

 それから五、六日後は店が盆休みだった。


 仕事、商売熱心な由野さんが決めた、数少ない定休日だ。


 それ以外の休みは週に一回のペースで

 火曜日か木曜日辺りに店を閉めているが、

 それは食材の仕入れやストックを

 用意しておく為の閉店日なだけであって、

 由野さんの休みではない。


 本当の休みだとしても、

 半日などといった、丸一日の休みではないんだ。


 仕事馬鹿とも言える由野さんが盆休みとして、

 店の定休日に設定している訳とはなんだろう。


 帰省するか、それとも、誰か親しい人が亡くなったとか、

 そういうことなのかな。


 まあ何にしても、

 僕にそれを追究する権利なんて

 持ち合わせていないんだけれども。


 誰にだって知られたくない過去や、

 思い出したくない黒歴史なんかが

 あったとしても何一つ不思議なことはない。


 実際、僕にも触れられたくない過去はあるから。


 それを知ることで、お互いが傷つく真実なら、

 僕はそれに蓋をしておきたいと思う。


 知るべき過去があるなら、

 知らなくていい過去だってあるはずだ。


 プライベートな話には干渉しなければいい、

 哀しい話なんてもう沢山だ。


 十四日の日曜日、由野さんから呼び出された。


 それは初めての由野さんからメール。


「今夜、時間はあるか?


 あれば八時頃、店に来てくれ」


 メールの文面的に、

 バイトに入ってほしいというわけでもなさそうだ。


 何より、

 八時からだと僕は最高でも二時間しか働けない。


 いつもと変わらぬ命令口調、

 それなのに何か違うと感じてしまう。


 どうしてだか、

 「来てくれ」の文字が「来てほしい」の

 意味に思えて仕方なかった。


 いつもながら分かりにくい彼女の言葉に翻弄されながらも、

 結局僕は店に向けて自転車を走らせてしまった。


 由野さんがそこでずっと待っているような気がして、

 放っておけなかった。


 用件の内容も分からないのに、迂闊だとは思うけれど、

 どうしても由野さんにはそうせざるを得なかったんだ。





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