水よりも染み渡る
彼に促されるままに、
僕は六つの席の内の右から二番目に腰掛けた。
おしぼりを手渡され、
グラスに注がれた飲み物を置かれる。
おしぼりで手を拭き、
早速とばかりに差し出された飲み物に口を付ける。
さっと、口の中に爽やかな甘さが広がっていき、
汗だくになって火照っていた
僕の身体中に清涼感が行き渡る。
すっきりした甘さとみずみずしい香りが心地好い。
さらにもう一口と、口に含み、
ごくごくと喉を鳴らす勢いでそれを飲み干した。
「うわっ、これすごく美味しいです!
何のお茶ですか?」
身を乗り出すほど興奮した口調で
僕は彼に問いかける。
彼はそんな僕を見てか、
頬の辺りが緩んでいるように見えた。
「そうか、気に入ってもらえて良かった。
これは、
マスカットティーという紅茶の一種で、
セイロンティーに香料を加えたものだよ」
なんだかよく分からなかったが、
紅茶ということだけは分かった。
「紅茶って、もっと渋くて酸っぱくて、
飲みにくいものかと思ってました。
でも、これはすごく飲みやすいですね。
お砂糖か、何か入ってるんですか?」
これなら喉が渇いたときにでも飲みたいくらいだ。
「いや、そういった類のものは入れてないよ。
熱い紅茶を淹れて、
それを水と氷で割り、冷蔵庫で冷やしているんだ」
砂糖が入っていないことにも驚きだけれど、
今の話を聞く限りは
どうやらこれは自家製の紅茶のようだ。
「え、自家製なんですか?
すごいですね、手間もかかりそうなのに」
僕が感心したような声を上げると、
彼はふふっと穏やかな笑みを浮かべる。
「夏や暑い日にはね、よく出すんだよ。
水よりも身体に染み渡る感じがするからね、
ほんのサービスだ」
はにかんだような笑みが
なんとなく可愛く見えてしまった。
中性的な見た目のせいだろうか。
彼の柔らかな笑みを凝視していると、
思い出したように
手元にあったメニューを差し出してきた。




