****何も芽生えてこない「種」****
この頃、梅雨でもないのに
一週間ほど雨が降り続いている。
七月の下旬にもなってまで、
梅雨というのはあまり好ましくない。
せめて、今週末までに
雨が止んでほしいと願っている。
そこまで、
雨が嫌いというわけでなくとも、
長期の雨は人を不快にさせるものだ。
この悪天候のせいか、彼女もご機嫌斜めだった。
「なあ佐藤。
雨の日は、
雨宿りに喫茶店なんかに寄るものじゃないのか」
「突然の雨ならそうですけど、
こうも降り続いているんじゃ、
傘は持ってるでしょうし、必要に駆られない限り、
わざわざ外出する気にはなりませんよ」
苦笑気味に僕が答えると、
彼女は一層、不機嫌になり、
ぶつくさと文句を言い始めた。
「雨なんて、嫌いだ。
湿気で髪がべたつくし、買い物も億劫になるし……」
客足も途絶えた五時過ぎでは、
憂鬱になってしまう気持ちも分からなくはない。
しかし、そろそろ準備時間も終了してしまう頃だ、
彼女のエンジンをかけなくてはいけない。
「夜になったら、客足も増えるでしょうし、
準備時間も終わりますよ。
そろそろ準備にかかりませんか?」
すると彼女は、
はっとしたように厨房へと駆けていった。
僕はというと、
バイトに来る度の仕事始めを行っている。
心の種の世話だ。
種の世話と言っても、
この店で育てている種には大きく分けて、
二つ種類がある。
一つは、ものが生る「樹」、
もう一つは、何も芽生えてこない「種」だ。
そして、さらに部類分けして、
「心の種の生る樹」「心の実の生る樹」、
最後の一つだけは不明で、
彼女も僕も「種」と呼んでいる。
いつしか、芽生えることを祈って、
そう呼び始めたらしい。




