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命を芽吹かせていたんだ。
「お待たせ致しました、
食後のスイーツの、
苺と白桃のタルトになります。
ごゆっくり、お召し上がりください」
彼らは目を丸くして、それを見つめた。
そして、お互いの顔を見合わせて笑い、
それを口に含んだ。
彼女さんが至福の表情を浮かべ、
彼がそれを嬉しそうに見つめながら、
タルトを頬張っていた。
不意に、二人の身体から光が放たれ、
光の球がふわふわと宙を泳ぎ、
由野さんの手元に着地する。
「不思議なこともあるものだな」
と、伏し目がちに、ぼそりと呟いて。
彼女はそれをどこから取り出したのか、
見覚えのある小瓶に詰め込んだ。
そして小瓶を光に透かしては、
それを愛おしそうに、
けれど、切なげに眺めていた。
彼らも僕も、きっと、彼女でさえも、
気づかぬうちに、それは芽を咲かせた。
長年くすぶらせてきた思いのように、
この店の隅で、ひっそりと、
命を芽吹かせていたんだ。




