粋な計らい
この有無を言わせない眼光の鋭さと口調は、
相変わらずだ。
多分、そうだと思いましたよ。
この状況だし、彼の恋の成り行きも
気になるから承諾したんだ。
そう自分に言い聞かせることで、
自分の中の社畜性に蓋をした。
しかし、それで喜ぶ人がいるなら、悪くないだろう。
「ありがとうございます。じゃあ、また来週に」
「はい、お待ちしております」
僕も彼に釣られて、返事した。
そうして彼は店を去っていった。
それからの一週間は川のように流れた。
彼らの初デートに華を添える為、
また、思い出となる二人のイベントを
彩るために色々研究を重ねた。
由野さんが彼から聞いた話などを元に、
料理の案を出し、試作もした。
因みにそれは賄いとして、美味しくいただきました。
そして一週間後、彼らは七時少し前に、
この店を訪れた。
僕はその二時間前の五時に準備を始めていた。
今日は由野さんの粋な計らいで
貸し切りにするらしい。
しかも、今夜を試験として、
今後のコース予約や
貸し切りの参考にするというのだから、
やっぱり彼女はちゃっかりしている。
照明は渋いオレンジ色で、
必要最低限度まで照明の数を減らした。
ロマンチックな雰囲気を
演出するためだと彼女は言っていたが、
そういうもので気持ちが
盛り上がったりするんだろか。
僕の考えは余所に、
彼らは初々しい雰囲気を醸しながら、
ゆっくりと席に着く。
その所作はどれもがぎこちなく、もどかしい。
彼らの緊張を壊すように、由野さんは声を掛ける。
「それでは、
順に料理をお運びしてもよろしいでしょうか?」
緊張のせいか、言葉もなく頷く彼。
この料理を目にすれば、
きっと話さずにはいられなくなるだろう。
思った通り、彼らは料理を見るなり、
言葉を交わし始めた。
彼女の料理を口にすると、
二人とも甘い笑顔を浮かべていた。
最後の料理になり、
僕はやや緊張気味にそれを席へと運ぶ。




