禁忌
しかしながら、そういう彼女の声は、
胸に迫るような何かがあった。
唇を噛んで、
必死に耐えているのがまる分かりで。
またもや、僕は言及せずにいた。
いつか、いつの日にか、
知るべきその日まで待つとしよう。
――なんて言って、格好つけているだけで、
本当は怖いんだ。
それを知ることは禁忌のように思えてならない。
それこそ、
僕の心を破壊してしまう何かのような気がして。
それから僕は暫く彼と顔を合わせることはなかった。
彼は確か、
由野さんに習い事の申し出をしていたのに、
彼とこの店で会ったのはあれきり一度だってない。
しかし、
彼女は連絡をとってないわけでもなさそうだ。
もしかして、僕のシフトが入っていないときに、
彼女は彼にものを教えているのだろうか。
それは一体何の為に。
僕がまだバイト入りたててで、
教えることが沢山あるからかな。
そう思っておこう、その方が楽だ。
あれから一ヶ月が経ち、今日は八月十五日、終戦日だ。
何もこんな日まで働くことはないと思うのだが、
彼女曰く、
「こんな日だからこそ営業するんだ。
今日はお盆の最終日で
外食で済ませようという人が多いからな。
書き入れ時だよ」らしい。
因みに、
僕の親戚回りは初日と二日目で済ませてしまい、
家族からしっかり稼いでこいと了承を得てしまった。
そういうわけで今日は、
十時から一時までと五時から八時までのダブルシフトだ。
そろそろ客足が伸びそうな十二時前、
という頃に、カラリ、扉の開く音がして、僕は構える。
すると、彼が現れた、
その手に見覚えのある鉢植えを抱えて。
「こんにちは。君は、久しぶりだね」
「はい、お久しぶりです。いらっしゃいませ」
「こんにちは、氷川さん」
彼女は健やかな笑顔で彼を迎え入れた。
どことなく、
彼に受ける印象が変わったように思える。
彼女の言葉で初めて知ったが、
彼の名前は氷川というらしい。




