『強迫神経症』
「そう言えば、
ここって精神が病んでいるときに
足を踏み入れるって、彼も言っていたんですが、
彼もそうなんですか?」
僕がそうであったように。
それは敢えて、口にせず。
彼女には伝わっていると思ったから。
「そうだな、君の場合は『抑鬱』の傾向が見られた。
自己評価が低く、
誰かに助けや救いを求めている者は、
抑鬱である可能性が高いんだよ。
だから私は、
君が前向きになれるような対応を心がけた」
あれで? と思ったが、口には出さない。
出してないはずだったが。
どうやら顔に出ていたらしい。
「失礼だな、過度に優しい態度をとっても、
君が依存的になるばかりだから、ある程度、
自分の力で成し遂げてほしかったんだ」
「そう、だったんですか。
なら、彼はどうなんですか?」
本題の彼について話題を転換してみる。
「彼は、『対人恐怖症』かと思ったが、
どちらかと言うと、『強迫神経症』の気が疑われるな。
自分に対しての自己評価が低いようにも思えたが、
あれは他人から言われたことを
気にしすぎている故の言動だ。
ある考えがどうしても頭を離れないことを
『強迫観念』と呼ぶんだ。
まだ、『強迫神経症』には至っていないが、
進行すると、日常生活に支障を来す、それになってしまう。
今のうちに、正しい対処を取らねばならない」
随分、長ったらしい説明だが、いたく丁寧である。
「由野さん、えらく詳しいですね。
精神分析学でも学んでいたんですか?」
彼女の表情がみるみる強ばる。
しかし、それは僕に向けられた悪意ではないようで、
彼女は必死に取り繕って答えようとする。
「昔ね、人の行動原理や心理学というものに
興味が湧いてね、図書館なんかで、
本を読み漁ったりしたもんだ。
あれは、趣味や興味の範疇にすぎなくて、
素人に毛が生えた程度のものだよ」




