恋じゃないとダメ
「僕は、取り立てて、
何かに執着したことがないんです。
何かに興味を抱いても、好きになっても、
すぐに飽きてしまいました。
だから、今まで色んな女性に振られ、
『情の薄い奴』だって
言われ続けてきたんだと思います。
誰も、好きになれないから……」
彼は語尾になるつれて、声が萎れていった。
さきほどの話と今の話を聴き終えた彼女は、
僕のときと同じように、
しかし、非常に柔和な態度で言う。
「それでは、あなたはどうしたい、
どうなさりたいとお考えですか?」
彼女の意味深で何かを導こうとする問いに、
彼は戸惑いを隠さず、
真摯に答えようと口を開く。
「僕は…………本気で誰かを好きになりたい、
恋をしたい、です」
震え、途切れながらも、
自分の意志をはっきり告げた。
「それはどうしてでしょう?」
彼を追いつめるでもなく、けれど、
深層まで掘り下げるべく訊いている。
彼女の思惑通り、彼はさきほどより饒舌に、
その心のうちを語った。
「今まで付き合ってきた人に振られたのは、
相手に一生懸命に向き合えなかったことと、
相手の気持ちを分かろうと
しなかったことにあると思います。
それにこのままでは、
どんな人に対しても、相手に失礼だなと気づいたので」
心なしか、
彼の声音が僅かに明るくなったように感じる。
「それは、恋以外では代用できないのですか?」
代用、という言葉は酷く切ない。
何かが他のものの代わりになんて
なれるわけがないのに。
だからこそ人は補おうとする、
感情的な基準でそれに
匹敵するものであるのかを判断する。
それが人にとっての
「代用」という行為だと僕は考える。
彼は彼女の言う「代用」の意味を拾い、
それに対して答えを出す。
「多分、恋じゃないとダメだと思うんです。
真剣に誰かを想うのも、
相手の気持ちを知りたいと考えるのも、
恋が一番だと思います。
それに、誰かを愛し、愛されるというのは、
とても素敵なことのように思えます。
恋をしている人はキラキラしていて、
楽しそうですから」




