試作品
「そ、そんなことないと思います!
だって、
お客さんはバイトの僕を隣に招いてくれました。
それに、こうして言われたことを思い悩んで、
他人の僕に悩みを打ち明けるほどに
考え込んでいるなら、
あなたは薄情な人なんかじゃないです」
危ない、危ない。
今は彼の悩みを聴いている最中だったのに、
あまりに感情移入すると、
幾度となく思い出してしまう。
考えないようにしてきたのに。
そうだ、
彼の悩みを解してあげることが目的なんだよ。
少しでも元気を取り戻してほしい、
そして自分に自信を持つべきだ。
僕がそうであったように、
彼も彼女に振られたことが引き金となって
自信を無くしてしまったんだろう。
ただ、はっきりとは言えないけれども、
そこには決定的な違いがあるように思えてならない。
彼女になら、彼の悩みの「種」が分かるだろうか。
僕の悩みを解決する糸口を見つけてくれたように、
彼にも「種」の話を聴かせるんだろう。
信じ難くて、
お伽噺に匹敵するほどのファンタジーな、あの話を。
僕が他力本願な考えを巡らせている中、
彼はさきほどの僕の言葉に多少納得したのか、
安堵の息を漏らしていた。
「そうかな……」
しかし、
依然として彼の表情は不安に包まれたままだった。
そこへ、料理をつくり終え、
仕事が一段落したらしい彼女がやってくる。
彼女の手元にはトレイがあり、
その上には僕でも知っているモンブランを乗せていた。
「このモンブランは試作品なんですが、
よろしければ、どうぞ。
代金は頂きませんので、感想をお聞かせください」
その光景に、僕は目を丸くした。
由野さん、敬語で接客できるんだ!
驚きが露骨だったのか、
彼女に鋭い眼でギロリ、
と睨みつけられてしまった。




