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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第二種「感情」―表現する術―】
54/172

****「彼女」****1

 

 この店に勤務して二日目、七月十五日の金曜日。


 雇用形態はシフト制である。


 昨日と今日は連続で勤務しているが、

 これはいわゆる研修というやつで、

 僕が自ら、

 早く仕事を覚えたいからとシフト詰めてもらった。


 しかしながら、僕には不可解な点がある。


「僕をバイトとして雇ったりして、平気なんですか?」


 婉曲に訊いてみたけれども、簡潔に言えば、

 この店は僕を雇うほど余裕があるのか、

 ということだ。


 通い詰めていた

 僕の推測では到底無理なはずなんだが。


「失礼だな、ちゃんとやっているし、

 それなりに売り上げはあるんだ。


 週五回、一日八時間近く、

 それも何人もとなれば話は別だが、

 君一人を週二、三回、

 一日四~五時間程度くらいなら雇う余裕はあるさ。


 安心しろ、その場の気分で決めたことではない。


 ちゃんと考えた末に、

 君をバイトとして雇うと言ったんだ」


 そうだ、この人はそういう人だった。


 回りくどくて、

 時に面倒臭く感じることもあるけれど、

 熟慮断行する性格の持ち主だったな。


 因みに、

 給料を振り込むための口座は持っている。


 将来の自分の為にお金を貯めておきなさいと、

 学費の口座とは別に開設されていた。


 僕は母から通帳とキャッシュカードを受け取り、

 暗証番号を聞いた。


 昨日早速、

 暗証番号の変更手続きを済ませたところだ。


 母が考えた暗証番号は、

 僕の誕生日から取った「零九零七」だった。


 そんな安易な暗証番号で

 よく今までやってこられたな、

 ある種、感心の境地に至ってしまう。


 昭和生まれの人間のセキュリティに関する

 危機感ってどうなっているんだか。


 しかし今まで何もなかったところを考えると、

 物理的なセキュリティには強いと見える。


 母は強し、だからなあ。それは違うか。





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