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「名前教えてもらってもいいですか?」
「働くとなると、名前を知らないと不便なので、
名前教えてもらってもいいですか?
履歴書にも書きましたが、僕は佐藤昇汰です」
束の間、
彼の表情が驚いていたように
見えたのは気のせいだったか。
彼はにこやかな笑みを浮かべ、名前を教えてくれた。
「由野だ」
「はい、由野さん。
これからよろしくお願いします!」
「ああ、よろしくな佐藤」
こうして僕は正当な理由で、
この店に居着くこととなった。
しかし、
こんな不思議な店で働くことになるなんて、
この店に足を踏み入れたときには
予想だにしていなかったはずだ。
蛇足にはなるが、
僕はあのとき鈴木くんが
黒田くんに何を囁いていたのか、
何をもって彼に圧力をかけていたかの
答えを知っていた。
僅かながら、聞こえてきたんだ。
「佐藤に、
お前がアイツのこと好きってことバラすって」
僕はそれを知ってなお、彼にああ言った。
それが一番効果覿面だと思ったからだ。
その通りに事は進んでいる、上手く纏まって良かった。
そして同時にこれは、
彼女と僕との奇妙な関係の始まりでもあった。




