オタクで楽しい会話
一声かけてから、傘を開いて帰路に就いた。
僕がこのとき、雨宿りをさせてもらう、
若しくは、傘を借りずに帰っていたら、
彼と再び会うことはなかったのだろう。
きっとこれが全ての始まりだったんだ、
僕の中で何かが動き始めた。
彼に傘を借りたお陰で僕は風邪を引くこともなく、
月曜日は至って普通に登校した。
しかしこの日、
先週の金曜日に僕が庇おうとした
彼がいじめの標的にされたんだ。
きっと僕が不用意に声をかけたりしなければ、
彼はいじめられることもなかったはずで。
――それは先週の金曜日、
クラスで孤立していた彼はある本を読んでいた。
それは僕の好きなライトノベルだった。
朝の早い時間でまだグループの彼らも来ていなくて、
僕と彼を除き、他に二人しかいなかった。
弱虫な僕にはそれくらい
閉ざされた環境でないと彼に近づくことすらできやしない。
「何の本読んでるの?」
声をかけると、
彼は不思議そうに目を丸くして僕を一瞬だけ見た。
僕は構わず、続ける。
「その本面白いよね、僕は××が好きなんだ」
すると伏し目がちなままで彼は口を開いて、
「俺も××が一番好きだ」と答えてくれて。
僕はやった、と子どものように笑った。
「同じだね。
それじゃあ鈴木くんはどのシーンが好き?」
やや興奮気味に、オタクで楽しい会話を交わしていた。
彼らがいないからと油断していたのかもしれない。
その日の午後、彼らが口にしたんだ。




