生長
翌朝、登校して教室に向かうと
いつもと変わらぬ風景が広がっていた。
読書をする鈴木くんと
その他に数人のクラスメート。
あんなことがあっても周囲は蚊帳の外と言えば、
それだ。
変わったことと言えば。
教室の扉の取っ手に手をかけ、ガラリと戸を引いた。
「おはよう!」
声を張って、
挨拶ができるようになったことだろうか。
そして、鈴木くんが振り向いて手を振ってくれた。
うん、きっとこれぐらいの変化が
僕には合っている。
噛みしめられるよ。
僕はホームルームが終わるなり、
教室から一目散に駆けだした。
早く、あの鉢の生長を
彼に見せたいと思ったから。
自転車のペダルを全力で漕ぐと、
汗だくで家にたどり着いた。
洗面所の棚からタオルを取り出して、
頬に滴る汗を拭った。
鞄をリュックに持ち替え、
その中に紙袋に入れた鉢植えを仕舞い込んだ。
その隣に財布も入れて、
それを担ぐと、家を後にした。
店の軒下に自転車を駐める。
入り口の前に立ち、深呼吸をした。
ここからは例に倣って、扉を三回ノックする。
彼の透き通る声で迎え入れられ、
僕は挨拶よりも先に鞄から取り出した
鉢植えを提示してみせた。
「願いは叶ったようだね。
どうする、二つ目の方は調理するかい?」
「はい、よろしくお願いします」
彼は確認を取ると、その手で丁寧に実をもいだ。
そして愛おしそうに実を眺めて、
それは大層に感嘆していた。
「これは、とてもいい甘夏柑じゃないか。
色づきも薫りも硬さも実に素晴らしい。
ああ、これは腕が鳴るよ。
これなら、敢えて素材を生かしたものに
するのもありだが、量が多いわけでもないしなあ……」
悩んでそうな口振りだったが、
とても楽しそうな顔をしていた。
それから三十分とかからないうちに
甘夏を使ったデザートが振る舞われた。




