『心の樹』
「そうですか、うーん」
途方もない答えを探して、
思案顔な僕に彼は
透明な液体の入った小瓶を見せてくれた。
「これはね、
自分の気持ちに気づかせてくれるものだよ。
これを両手で握って、祈ってごらん。
そうすれば、君の心の声を拾ってくれるはずだ」
それを受け取り、彼に問いかける。
「祈るって、何を祈るんですか?」
「自分がどうしたいかを
知りたいと願うだけでいい」
たったそんなことで、
本当に自分の気持ちが分かるものかと、
疑心暗鬼を生じさせてしまう。
しかし、疑ったところで仕方ないと知り、
彼の言うままに、両手で小瓶を包み込み、
そっと目を瞑り、祈りを込める。
耳を澄ませ、心の声を手繰り寄せた。
すると、微かに声のようなものが耳に入る。
それは、
言葉みたいに纏まったものではないけれど、
確かな自分の気持ちだった。
作戦というほど大したものではない。
ただ、自分の気持ちを相手にぶつけて、
情に訴えるだけ。
目を開け、彼に小瓶を返し、感謝の旨を伝える。
「ありがとうございました。
お陰で、覚悟が決まりました。
勇気をもって、伝えてみようと思います」
見上げた先の彼は、
なぜかとてもにこやかな表情を浮かべていた。
些か、不審に感じた
僕は彼の視線の先に目を遣ってみた。
そこにはさきほど僕が彼に返した小瓶が
手の平で寝転がっている。
小瓶に何やら違和感を覚え、
目を凝らしてみると、その変化に目を見張った。
「え、色が変わってる?
さっきまでは、透明な液体だったのに、
今は琥珀色だ……!」
思わず口にしていた驚嘆の音に、
彼が気づき、それに応えてくれる。
「それはね、君がこの瓶に祈ったからだよ。
君の心にある感情の一部を抽出したものだ。
この液体は心の種を生み出している、
『心の樹』の養分になる。
これも、お代の一つとして頂いておくよ。
その代わりにまた、試作品を振る舞おう。
今日は栗のマドレーヌだ」




