仕方ないな
腕の中にいる鈴木くんが小さな声で、
早く離してくれと訴える。
「ああ、ごめんね。今、離すよ」
彼の背中から腕を剥がすと、
左肩に鈍い衝撃が走る。
「いっっ」
思わず声が漏れてしまい、
言い訳を取り繕う暇もなく、
鈴木くんが僕を叱りつけた。
「何やってんだよ、馬鹿!!」
初めて聞く、極めて感情的な声色だった。
そのことに僕は酷く驚嘆してしまい、
反射的に言葉が出たんだ。
「ご、ごめんなさい」
それでも、心から出た言葉だと思う。
だって、
立て続けにこの言葉も放たれたのだから。
「それと、心配してくれてありがとう」
その言葉に対して、彼は決まりが悪そうに、
そっぽ向きつつ、こう呟く。
「そっちこそ、心配してくれたんだろ。
その、助けてくれて、ありがとう」
僕の気持ちが少しは届いたのかな。
そう思えて、彼の言動の全てが胸に染みてくる。
肩は痛いけれど、大切なものに気づけて良かった。
「どういたしまして」
肩が痛いにも関わらず、
ヘラヘラと笑う僕を見た彼は僕をおぶさって、
保健室まで連れて行ってくれた。
これじゃあ、
どっちが助けられたのか分からないな。
そのやりとりの間、三人は傍観者だった。
口を挟むでもなく、突っかかってくるでもなく、
ただ僕らを見ていた。
そこまでの距離はないはずなのに、
遙か遠くに位置するような、
眼差しを向けていたんだ。
そして、更衣室を去るときに彼らの表情は、
酷く罪悪感に苛まれたものだった。
彼らのその眼差しと表情には、
喉に引っかかるようなものがあった。
何か、大事なことを
忘れているように思えてならない。
ホームルーム直後、僕は新たに挑戦を試みた。
荷物を手に、彼の元へ歩み寄り、声を掛ける。
「い、一緒に帰ろう」
鈴木くんは無言のまま立ち上がる。
流石にいきなりで図々しかったかなと、
自分の言動を悔いていた。
しかし、彼の応答で僕は気を好くする。
「仕方ないな。ほら、帰るよ」




