遜りの精神
大抵、相手に苛立ちを感じさせたと分かった時点で、
その話題は流してしまうはずだ。
それなのに、彼はそうしなかった。
僕が彼に相談に乗ってもらっているという体で、
彼は僕も怒らせてもなお、模糊な表現を止めず、
僕に何かを伝えようと――否、悟らせようとしている。
ただ、お粗末な僕の処理能力では
到底推理できるものではない。
「さっぱり分からないです、答えを教えてください」
僕の返答が不満だったのか、
彼から笑顔が消え、眉間にキュッと皺が寄る。
「君はすぐに他人を頼りすぎだ、
もう少し自分で考える力を身につけろ」
どっしりと僕を見据える彼の眼力が
あまりにも耐え難かった僕は、
白旗と共に交渉の余地を求める。
「す、すみませんっ考えます!
きちんと考えますから……
あの、何か具体的なヒントだけでも
教えていただけないでしょうか?」
相手が怒っているときや
機嫌を損ねているときは兎に角、
低姿勢、遜りの精神に限る。
僕は今まで基本、
こうして難所を乗り越えてきた。
経験はものを言い、
彼にもこの対応が効いたようで、
彼の眉間の皺が和らいだ。
「そうだな、分かった。
自分で考えるならヒントくらい教えてやろう、
但し、これだけは言っておく。
他人から答えを教えられて
満足するばかりでは少しも前には進めない。
自分で切り開いた答えだからこそ意味がある。
しかし、それが他者に関わるものなら、
自分が納得するだけでは足りない。
行動した先と相手の視点を考える必要があるんだ。
尤も、行動を起こすうえで重要なことは
『自分にとって何が一番大切で、
それを守る為にはどうすればいいか』
を考えることなんだけれどね」




