初夏の生温い風
「おい、ショウタ。
何してんだ、そこどけよ」
鈴木くんを手を加えようとしていた
彼らは邪魔をされて、すっかりご立腹のようだ。
有無を言わせない為にドスの効いた声で
圧力をかけてくる一人。
僕は構わない。
千切れそうに痛む心臓を抑えつけて、
僕は微細な声を絞り出す。
「――て、――てよ」
ダメだ、こんなんじゃ全然足りない。
「はぁあ?
今、何て言った。
聞こえねえよ」
思った通り、一人が声を荒げる。
大きく息を吸い込み、両手に力を集中させた。
「この手を、離してって言ったの!!」
相手の不意を突くように、
瞬間的に二人の手を彼の手首から引き剥がし、
そのまま彼を抱き上げて走り出していた。
「えっ、佐藤!?」
「昇汰、てめぇええ!!」
すぐ傍からは彼の困惑する声、
遙か後方となった男子トイレからは
一人の怒声が耳に流れ込む。
僕自身、咄嗟に判断する間もなく
動いてしまったもので、
何がなんだか分かっていない。
しかし、不思議と恐怖感は拭えていた。
彼らのいた方とは
真逆の西階段を息切らし駆け上がる。
人気のない西階段付近には
静寂だけが流れていた。
その為か、さきほどの出来事を
幻想に感じるけれども、今、
確かにこの腕にのし掛かる重みは現実のものだった。
やり切った、若しくは、
遂にやってしまったというべきか。
今日、僕は初めて彼らに反抗した。
謎の達成感に、
僕の頬元は緩み、薄気味悪い笑い声を漏らす。
「ふふふ……」
彼は僕のそんな様を不快に感じたのか、ぼそりと呟く。
「どうして、こんなことしたの?」
言葉の体裁としてこそ疑問形であったが、
それは否定とも肯定ともとれない不安定な口調だった。
彼の言葉によって冷静になった僕は
ひとまず彼を下ろすことにした。
急に現実問題を突きつけられたが、
僕の脳はそこまで利口じゃない。
だから、僕の脳がまともに思考を開始するまでの間、
きっと一分にも満たない時間だけれど、
長い沈黙が続いた。
背にある窓から初夏の生温い風が僕を煽る。




