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僕の海馬を君に贈りたい  作者: ハイドランジア&シーク
【第一種「勇気の種」―自分次第の力―】
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スタートライン

 息を整えて入った七時五十分の教室に、

 彼は一人、読書をしていた。


 あの日と同じように、本に集中している。


 いじめに遭っても挫けず、

 こうして登校してきて、

 いつも通りに過ごしているんだ。


 彼は強くて、僕は弱い。


 僕が臆病な弱虫なのは

 今に始まったことではないが。


 教室の扉を開いた今でも、

 彼はちらりとも目を向けない。


 静かに扉を閉め、

 彼の席へゆっくりと近づいていく。


 彼の目の前で立ち止まり、

 震える心を抑えながら声をかける。


「お、おはよう!」


 彼の視線は変わらず、

 依然として、本に向いている。


 僕はただ彼の返答を待つばかりだ。


「…………何?」


 不機嫌そうな低い声音で、

 答えた彼は怪訝な顔でこちらを見返した。


 これ以上彼を苛つかせてはいけないと、

 すぐに用を伝える。


「頑張るよ。


 いじめも止めてみせるから、

 今度こそ、ちゃんと守るから――」


「うん」


 続きの言葉をかき消すように彼が言葉を発する。


 どういう意味で

 彼がそう答えたのか分からないけれど、

 僕はそれを受け止めてくれたんだと、

 解釈してみることにした。


 愚直だと誰かに笑われてしまうかもしれないが、

 そんなことはないと、僕は断言する。


 彼は僕の話に耳を傾けてくれたんだ、

 先週あんなことをしでかした僕の話なんかを。


 だから、この答えは間違いなんかではない。


「ありがとう」


 彼に対する敬意と感謝を示す為、

 にっこり笑ってみる。


 僕はこの言葉に決めたんだから。


 いくらか待ってみても、反応も返答もないようで、

 彼に背を向け、踵を返そうとした。


「……おはよ」


 背後からぶっきらぼうな声が聞こえて、

 僕はまた笑顔になる。


 ぱっと振り返り、

 今度こそは明るく爽やかな声で挨拶をした。


「鈴木くんおはよう!」


 まだ、スタートラインに立てたばかりの僕だけど、

 幸先よいスタートになりそうだ。


 ああでも、明日からテストが始まる、

 忘れていたわけではないけれど、

 この頃は色々ありすぎて、

 あまり勉強に身が入らなかった。


 どうか欠点だけは免れますように。





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