僕なりのけじめ
僕は直径十二センチほどの
その鉢植えを勉強机の隅に置く。
まだ何もない鉢植えを眺めて、
僕はこの種が育つ未来を想像した。
芽が生え、茎が伸び、葉が生い茂り、
蕾が付き、花が咲いて、実がなるそのときを。
小さくても、立派じゃなくてもいい、
穏やかにゆったりでも生長してくれればいいよ。
あんなに焦っていたはずの僕の心はいつしか、
落ち着き払っていた。
人と人が関わっただけで、
そこにたった一つの些細な縁が生まれただけなのに、
こんなにも心強い。
芽さえ生えていないけれど、心地好くて、
胸の辺りがとても暖かいんだ。
どれくらいか久しぶりに、
十一時過ぎには安らかな眠りに就いていた。
翌朝、アラームの設定時刻より
三十分ほど早く目覚めてベッドから起き上がる。
朧げな視界の中、何かに気づいて目を凝らした。
「あ……」
思わず声を漏らしてしまうが、
そんなことは気にも留めず、
机にぎりぎりまで近寄って、それを見つめる。
「やっぱり! 芽が、生えてるや」
それは二センチにも満たない程度の
ちっちゃな双葉だったけれど、
僕にはそれが希望にさえ思えたんだ。
諦めなくていいんだよって、
励まされてるみたいだから。
手の中に収まる小さな世界の命が
僕の背中を押してくれる。
お返しに、うん、頑張ってみるよ、
小さく呟いてみせた。
振り返って鉢植えの双葉を見てみる。
その双葉は柔い笑みを浮かべているような気がした。
朝食の時間を長めに取り、
身支度を済ませた僕は鞄に本を詰め、
それでもいつもよりは早めに家を出た。
僕なりのけじめをつける為に。




