召し上がれ
「お帰りなさい、本当に早かったですね」
彼はなぜか、驚いた顔で
僕のことをじっと見つめてきた。
何かおかしなことでも言っただろうか。
もしそうだとして、
傷つけてしまったなら、謝らなくてはいけない。
「気分を害させてしまったなら、すみません……」
しかし、予想外の答えが返ってくる。
「いや、こちらこそすまない。
君の言葉が、知人と似ていたものだから、
驚いてしまっただけだよ」
「そうですか」
それ以上は言葉が出てこなかった、
というよりは何か憚られた。
この話題は広げてはいけないと思わされた、
彼の表情が僅かに歪んだんだ。
すぐさま彼は笑顔を創り出すが、
その笑みが余計に辛い。
痛そうなその笑顔が、
何よりも「触れないで」と告げていた。
不用意に詮索すらできない。
彼はその辛さを紛らわすように、話題を戻した。
「このトレイに乗せてあるのは
比較的甘さ控えめなものばかりだよ。
好きなものを選んでくれ」
甘さ控えめ、
というのは確かにありがたいのだけれど、
値段が提示されていないのは少し怖い。
失礼を承知の上で僕は値段の提示を要求する。
「あの、値段を伺ってもいいですか?」
「ああ、そうだったな。えーと――」
彼は別段、気を悪くした様子もなく、
平静にトレイの上のカップスイーツを整列させていく。
「この右側の二つがそれぞれ三百七十八円、
真ん中のやつが二つで三百二十四円、
左側の二つがそれぞれ三百二十四円だ」
ムースや、マフィン、後のものは何だろうか。
「左側の二つは何ですか?」
僕の率直な問いにも彼は丁寧に答えてくれる。
「こっちの薄桃色のやつは、
桃と苺のソースをかけた杏仁豆腐で、
もう一つの白っぽいのは、
レモンの蜂蜜漬けを乗せたヨーグルトムースだ」
彼の詳しい説明で
スイーツの正体が知れたところで僕は答えを出す。
「それじゃあ、そのヨーグルトムースをください」
彼はカップスイーツを僕の目の前に置き、
スプーンを手渡した。
「さあ、召し上がれ」




