襲撃、行方不明?
「・・・グランケルト王国の騎士がアフロディーテ王女を連れて包囲を脱出したのを確認した後で我々は各個に撤退しました。しかしアフロディーテ王女との合流に失敗したため王都に帰還したしだいです」
なぜこんなことになった。
まさか反乱分子どもがグランケルト王国の王女を誘拐しようとするとは思わなかった。
東の異教徒どもの脅威が増大している現状でグランケルト王国との間に亀裂を生むような事を実行するとは、奴らはいったいなにを考えているのだ。
現段階では襲撃後の王女の行方は分かっていない。
しかし近衛騎士団長が警護に就いていながら、馬車を放棄することになるとはなんたる醜態だ。
所詮は貴族の爵位のみで選抜された無能だったということか。
こんなことなら横やりを入れてくる貴族どもの進言など無視して、見た目では無く実力で護衛を選抜するべきだった。
「西部地域に捜索部隊を派遣し速やかに王女を保護するのだ」
私の命令に叔父であるルブラル侯爵が発言を求めてきた。
「陛下、捜索部隊を派遣することについては異論ございませんが、捜索させるものにどの程度の情報を与えるのかを決めねばなりません。正直に近衛騎士団が護衛する馬車が襲撃され王女が行方不明だなどと言うわけにはまいりますまい。それに反乱分子が誰か分かっていない以上は捜索部隊の人選にも配慮せねばなりません。そもそも、王女はいつもベールを被っていたため、護衛の近衛騎士たちでさえ王女のお顔を存じ上げないのでは無闇に捜索に出しても「失礼いたします陛下、衛士長より至急の報告があるとのことです!」」
突然に謁見の間を守る騎士の声が扉の向こうから響く。
人払いをしているこの状況でわざわざ許可を求めてくると言うのだからよほどのことだろう。
「入れ!」
入ってきたのは各門の衛士を束ねる衛士長であった。
男は私の前で膝をつく。
「申せ」
「陛下、ただいま西門よりグランケルト王国の馬車が到着、乗っていたのは御者をしている武装した女性が一人だけで車内は無人だとのこと。いかがいたしましょうか?」
馬車だけ到着しても何の意味も無い。
「おそらく報告にあった王女の侍女だな。その者は我が国の近衛騎士の醜態を見ていたはず。余計なことを喋る前に消すか・・・」
私の呟きにルブラル侯爵が反論した。
「恐れながら陛下、それは早計にすぎます。王女の専属侍女ともなればおそらく高位貴族の令嬢でしょう。現状での短慮は禁物です」
「分かった・・・ビットル、その侍女への対応を其方に任せる。状況を知るものを最小限にとどめるように手配せよ。それと侍女にこちらの情報を与える必要はない」
「御意」
側近のビットルは早速、衛士長を引き連れて謁見の間を出て行った。
侍女のことは当面これで良い。
今はルブラル侯爵たちと王女の捜索について検討せねば・・・