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新釈三匹の子豚

作者: 帷




「はぁ…。」


子豚兄弟の末弟、三郎(ぼく)はため息をついた。何故なら。



「おい、もうお菓子無ぇんだけど」

「あ、飲み物も持ってきて」


という兄二匹の声が聞こえたから。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



この子豚兄弟、ある時それぞれの家を建て暮らし始めたが、狼の登場により、長男一郎の藁の家、次男二郎の木の家は容易く壊された。しかし、二匹は三郎のレンガの家に逃げ込み、狼に喰われずに済んだのだった。めでたしめでたし。


しかし、その後一郎と二郎は自分の家を建てずに三郎の家に住み続けていた。家事の一切を三郎に任せ、自分達はお菓子を貪り怠けていたのである。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いやぁ、それにしても狼って恐いもんだな。」

「襲われた時はもう死んだと思ったよね。」

「本当だよ。まあ今は、このレンガの家があるから安心だけどな!」



そんな兄さん達の会話が聞こえてきた。

お菓子をテーブルに置いて、兄さんに聞いた。


「…ねぇ兄さん、あれから結構経つけど、新しい家って…」

「「あー建ててる建ててる。」」


二匹とも、流すように言った。


「…どこに?」


「あ"?」



そう言った一郎兄さんの奥で、二郎兄さんがぼくを睨んでる。二郎兄さんが口を開いた。



「何それ?疑ってんの?」

「そ…そういう訳じゃないけど…」

「俺達は三匹仲良く暮らしたいのにお前はそんなこと考えてたなんて…ひどい奴だよ」


きっと兄さんは、わざとぼくを傷付ける言葉を選んで言っている。



「あ…ごめん…」

「…本当に悪いと思ってるならさ、お前が俺達の分の家建ててよ。」


名案そうに言う一郎兄さん。

ぼくは何も言い返せなかった。




翌日から、ぼくは兄さん達の家を建て始めた。

でも、その途中にぼくは足を滑らせて梯子から落ちて、足首を捻挫した。

手当てしようと家に帰ったら、兄さん達が尋ねてきた。


「おい、どうしたんだよ。家はもう建て終わったのか?」

「…は、梯子から落ちちゃって、足首を捻挫したみたい…」

「え!?大丈夫かよ?」


心配そうな顔の一郎兄さんと二郎兄さん。


「大丈夫だよ。そこまで酷くないし…」


兄さん達の心配してくれている様子が嬉しかった。でも。


「あー、それなら安心だな。それくらいなら家事も出来るだろ?」


…あぁそうか。兄さん達の心配事は、ぼくが家事を出来なくなる事だったんだ。ぼくを心配してくれたんじゃなかったんだ。



その日の夜、家事を全て終えたとき、兄さん達は既に寝静まっているようだった。


兄さん達がこの家に来てから、ぼくはまるで召使い。

もう、兄さん達と居るの、疲れちゃったなぁ…。

なんて考えてしまうぼくは、酷い奴なんだろうか…。


そんな事を考えながら眠りについた。



翌日、ぼくは朝から家を建て続けた。



ぼく、わかったよ。

兄さん達の家を建てるのも、ごはんを作るのも、ぼくにはできるんだ。大変だけど、意味はあるんだって。

ぼく、やっとわかったんだ。



そして、その日の夕方、ぼくは完成した家に兄さん達を呼んだ。



「おぉー!すげぇ!」

「ベッドもふかふかだな」 

「家具も、油をぬってピカピカにしておいたよ。」

「お、気ィ利くな!」


兄さん達は喜んでくれたみたいだ。ぼくは嬉しくなった。

そんなぼくに、兄さんは言った。


「で、もう一つの家は?」

「…え?」


「いや、『え?』じゃねぇよ。お前は一匹で一つの家に広々住むのに、俺達には二匹で一つの家に住ませんの?」

「で、でも、家建てるの大変だし…」

「お前なら出来るだろ?この家建てるのも速かったしさぁ。」



結局その日は、『とりあえず』で二匹共新しい家に寝てもらうことになった。





その日の夜、新しい家が燃えた。ぼくが火をつけた。

 


ドアには鍵が掛けられていたけど、パニックになった兄さん達はそんな事を考えなかったらしく、ドアから出られなくなったと思ったみたい。



ぼくは家の外から叫んだ。


「兄さん、窓だよ、窓から出て!」



すると、目の前の窓から、一郎兄さんの顔が見えて、やがて上半身が出てきた。でも、腰がつっかえて出られない。


「っおい、何見てんだよ!手ぇ引っ張れよ!助けろよ!!」


そう叫ぶ一郎兄さんに、ぼくは言った。




「…良かったぁ、サイズぴったりだ。」


「…は…?」



何言ってんだこいつ、って顔の一郎兄さんにぼくは続けた。




「ぼくね、わかったんだ。兄さん達の為にすることは、無駄じゃないんだって。だからほら、よく燃えてる。油でピカピカの家具も、ふかふかの藁のベッドも。ドアには鍵を掛けたし、窓はちょうど兄さんがギリギリ出られないサイズ。全部、兄さん達のおかげだよ。ありがとう。」



窓につっかえたままの兄さんに背を向けて、ぼくは家に帰った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


嘘だろ、三郎(あいつ)がこんなこと考えてたなんて…。

ヤバい、俺死ぬのか?誰でもいい、助けろよ…!



そういえばあいつ、ドアに鍵掛けたっつってたよな?

ドアから出られなかったのが鍵が掛かっていたせいなら、鍵を開けて出ればいいんじゃね?



そう思ったけど、腰がちょうど窓にはまってしまって、出ることも入ることも出来なくなった。

 


え、まじで俺死ぬのか?


そう思って絶望した俺の頭を、誰かがつかんだ。



助けてくれる…!



希望が見えて顔を上げた。



俺の目に映ったのは。




「こんがり焼けてうまそうだなァ」




大きな口からだらだら涎を垂らした狼の姿だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うふふ。ぼくは、なんだってできるんだ。」



ぼくはレンガの家に一匹、そう言って笑った。



外からは、一郎兄さんの断末魔が聞こえた。



読んで頂きありがとうございました。



多分二郎は家の中で焼死してる。

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[気になる点] 誤字発見 ドアには鍵が掛けられたいたけど
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