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桃源の桜に青年は吠える 小話

作者: 兎

  ハローこんにちは、俺です。安倍晴斗です。


  小説本編を楽しんでるでしょうか?面白いでしょうか? …まぁそんなメタ発言は置いといて。


  今、獣組屯所の縁側で座って休んでいます。


  理由は疲れたからです。全てクロユリさんのせいなのです。

 

  俺ともう一人の人間、オニユリに書類を押し付けてきやがったんです。


  職権乱用ですが局長直々の命なので仕方なくやってます。


  しかし朝早く(恐らく午前六時ぐらいだと思う)から始めたのに、もう空が暗くなってきました。


  桃源郷の空ってよく分からないんですよ、朝だって青いのになんかもやもやして太陽がないんですから。


  とにかく今はオニユリと別れて休憩を取っています。


  オニユリ曰く、


「野郎と、しかも貴方と過ごしたくなんてありません。僕は別の部屋に行って休憩してきます」




  泣いていいですか?

 


  いやあ、かなり嫌われています。何か初対面の時から嫌われているのですが何故でしょうか?



  因みにアルスもいません、アルスは近所の座敷童子と遊んでいるようです。



  暇です、とてつもなく暇です。


  それより孤独過ぎてなんか寂しい。



「あれ?晴斗さん?」



  ん? 誰だろうか。



「わあ、やっぱり晴斗さんだ!獣組の着物姿も良いですねぇ」



  白装束の様な着物を着ていて水の様にアクアブルーの長い髪の毛、白い虎耳とおでこに角が二本生えてる女の子、フユザクラさんでした。


  二本の角には紅い紐が括りつけられてて目尻には紅が塗られてる。本当に不思議な姿をした女性です。


  トパーズのような瞳がこちらをキョトンと見つめています。



  しかし、これで…



「前世が元"男"なんだよなぁ…」


「何か言いましたか?」



  口が滑ってしまった。



「今休憩中ですか?それなら一緒にこの本を見ましょうよ〜!」


「本?」


「はい!詩集です!」


「誰のですか?」


「クロユリさんのです!」


「…」



  確か、クロユリさんの前世は「土方歳三」


  俳句を作るのが趣味だと聞いたことがあるようなないような…



「ほらほら、読みますよムフフ」



  そして断る理由もないので一緒に見る事になりました。








  ──時間が少し経ちました。



「あははは!面白過ぎです〜!」


「…」



  フユザクラさんは何故か大爆笑していますが、俺には全く面白さが分かりません。



  正直反応に困ってます。



「"桃と梅 比べる間もなく 可憐なり"


  〜〜っ!!笑いすぎてお、お腹が痛い…!」


「これはどういう意味ですか…?」



「多分地上で桃と梅を見たのでしょう、そして咄嗟に思いついて…か、可愛かったんでしょうね…ククッ」



「はあ…」



  クロユリさん地上に行く時があるのか。


  任務とかでかなぁ、俺もいつか行く事になるのかなぁ…


  あ、口調が素に戻ってしまった。


  こほん、ではフユザクラさんには気になる事がありますので聞いてみます。


  いや、フユザクラさんに限っての事ではないのですが…



「あの、フユザクラさん」


「ははは…笑いすぎて涙が…はい、何でしょうか?」



  フユザクラさんが涙を拭ってから笑顔でこっちを見てきます。



  正直な感想、可愛いです。



「フユザクラさんって、前世の事を憶えてるんですか?」


「…へっ?」



  フユザクラさんの前世は「沖田総司」


  その記憶はあるのか俺は何となく気になってたのです。


  さあ、どんな答えが来るのやら…



「…正直な話、僕はそんなに憶えていませんよ」


「はぁ、憶えてないのですか?」


「というか僕がこの姿になってクロユリさんに出逢うまで、何も憶えていませんでした。


  …話を変えて少し昔話をしますね。


  僕の親、桃源郷出身なのですが僕は外で産み落とされたんです。そこから色々あってクロユリさんと出逢うのですがその時の僕は、完全に獣でした」



「…」



「保護された時はもうボロボロで、警戒してて、クロユリさんを困らせました。


  だけどクロユリさん、少し時間が経った時にあるものを持ってきたのです」



「あるもの?」



「僕が生前着ていたもの、"だんだら模様の羽織"でした。


  それを裸の僕に被せてこう囁いてくれたのです。



  "総司、頑張ったな" って。



  その時僕の中に生前の記憶が蘇りました。細かい所まではいきませんでしたが病で倒れた時のこと、土方さんのこと、近藤さんのことや仲間の名前、そして死に際と自分の名前…そこまでは思い出せました」


  悲しそうな目をして詩集を閉じるフユザクラさん。


  俺はここまで話が盛大になると思わなくて申し訳ない気持ちになりました。



「完全に思い出せるのは僕から出た真っ赤な液体とそれに染まる着物と身体、喉が削れる程意思に反して出てくる咳。


  その病は今も僕の身体を蝕んでます。死神の様に付いてきたんですよ。


  医者によると僕の体質やら色々変わってしまったのでその病も合わせて変化したようです。


  "もう、それで死ぬ事は無くても病は治らないだろう"


 

  ふふ、僕の肌真珠のように白いでしょう。この病のせいなのですよ」



  …因果という奴でしょうか。しかし病にその言葉を使いたくはないですね。


  つまり、フユザクラさんは前世の病と今も一緒にいるんです。


  ただ前世の記憶を憶えているか気になっただけなのに話が重くなり過ぎてこっちが辛いです。



「ま、薬のお陰で今も動けてるんですけどね」



  フユザクラさんはそう言うと立ち上がりました。


「貴重な休憩時間に申し訳ございませんでした。そろそろ仕事ですよね?」


「あ、そろそろですね」


「今の話は忘れても構いませんよ、では…」



  フユザクラさんは本を持って去っていきました。


  …今回はとても貴重なお話を聞けたような気がします。



  クロユリさんも前世を憶えているのでしょうか?


  フユザクラさんをかつての仲間と見破る程だから完全に憶えているのかもしれませんね。


 

  では、俺は仕事に戻ります。



  またいつか語れたら語りたいです。

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