『件』のネタが切れた件(後で編集しますw)
「雪の進軍……じゃねえな、ここは南国だ。
同期の桜……も違うな、どっちかって言うと特攻隊じゃねえか。
加藤隼戦闘隊……おおう、陸軍じゃねえか。
えぇと……ぉおう、その名もずばり、ラバウル海軍航空隊だった。
ふん、ふ~ふん、ふふふふ~ん……あれ?
ふ~ん、ふふん……だめだ、忘れた!!
興味本位でネットで一回聞いたぐらいだから全く覚えてねえ!!」
「………なんじゃ、お前さま。 藪から棒に……」
まさしく……ワダヤマヒロシのその言葉は、野分のツッコミ通り、まさしく藪から棒の発言だった。
ワダヤマヒロシの左ポケットから顔を出しながら、不機嫌そうに言う野分。
元がどんなに有名な曲であっても、たとえワダヤマヒロシが仮に美声であったとしても……興味がない者からすればそれは『ボエ~』と変わりがない。
迷惑そうな野分の顔……応じてワダヤマヒロシは渋い顔を見せる。
「……そう言うなよ、野分。
ここはな……何というかな。
日本人にとっては特別な意味を持つ場所なんだよ……つっても今や、ガチなWWⅡ系ミリオタとか、俺みたいにゲームからちょこっと太平洋戦史をかじった萌え豚ぐらいしか、その意味を知る人間はいないんだけどな。
……まあ、そう括ってしまうと、それこそ『非国民』って事になるんだろうが……」
そこまで言ったところで、ワダヤマヒロシは神妙な顔をした。
そして……視線の操作でマップを起動し、周辺の地形を確認する。
確認してから……ワダヤマヒロシは静かに呟く。
「ニューブリテン島、ラバウル。
ここは……というか、ここら辺一帯は、太平洋戦争の激戦地だよ。
俺のひいじいちゃんの世代の人が、戦争でいっぱい亡くなったんだ……いくら俺だって、少しは神妙な気分にはなるよ」
そう言いながらワダヤマヒロシは感慨深そうに………目の前の、火山灰に覆われた土地と南洋特有の海辺の光景を眺めていた。
「なるほどのう……お前さまのご先祖様たちが戦った地か……」
応じて野分もまた、静かな口調で呟く。
そのまま二人は太平洋戦争の激戦地の一つ、ニューブリテン島はラバウルの浜辺に立ち、静かに潮騒に耳を傾けていた。
夕刻。
南国。
海辺。
そして……爆発(の呪い)寸前の男女が二人きり。
そこだけ切り取ってみれば、『リア充男女、異国の地にて子造りす』という小説でも始まりそうな雰囲気だった。
やがて数十秒の沈黙ののち……野分は静かに、そして真っ当に突っ込んでいた。
「お前さまよ……と言ってもそれは、地球の話よな?
いくら地球とこの世界の地形が似ているからとは言え、ここは地球ではないからな?
感傷に浸るのは、少し間違っている気がするぞ?」
「……」
野分のツッコミでワダヤマヒロシが無言のまま顔を赤くしたのは……きっと感傷のせいではなかった。
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ワダヤマヒロシの言葉通り、ここは……地球の地図で言うニューカレドニアの東の島嶼地帯。
要するに、オーストラリアの北側にある大きな島々の一つだ。
先に述べたラバウルの他、同じビスマルク諸島にあるガダルカナル島、ソロモン諸島にあるブーゲンビル島など……どれだけ戦史に興味がなくとも、日本に住んでいる限りは一度は(とくに八月半ばあたりによく)耳にしたことがあるだろう。
そのうちの一つ、ニューブリテン島。
地球で言うところのその場所に、『風水害対策本部』は立っていた。
なぜハンガー王国やゲルリッツ帝国ではなくこんなところにいるかと言うと……理由は二つあった。
一つはゲルリッツ帝国に『外患誘致罪』という罪状で指名手配されたこと。
そしてもう一つは……先ほどから『地球で言うところの』と連呼しているように、この世界の地形と地球の地形が同じかどうか、確認するためだった。
結論から言えば……ワダヤマヒロシが『対生物レーダー付きオートマッピング』などというチートすぎる機能で観測した結果、少なくとも今まで観測された地域は、地球で言う『オセアニア地方』と呼ばれる地域に酷似していた。
オーストラリア大陸とニューギニアを含むメラネシアしか観測できていないが……酷似と言うより、そのもの、と言って良かった。
……まあ、『オートマッピング』が正確に地図を作成しているという前提で、ではあるのだが。
ちなみに観測の方法は、例の半球。
そして広範囲に飛び回るのではなく、高度二万メートルまで上昇するという荒業。
こうすることによって、ただ上空を飛び回るより効率的に『オートマッピング』様が地図を作成してくれているのである。
作成というか……地図上のマスクされているエリアが解放されるだけなのだが。
で。
なぜ急に周辺の地形を調べているかと言えば……『この世界』と『地球』の地形が全く同じかどうか、という点の確認だ。
『『この世界』と『地球』の地形が全く同じかどうか』……それは『この世界』が本当に『異世界なのかどうか』という問いにも結び付く。
異世界物と思っていたら実は人類滅亡後の世界物だった、ということになれば、けもの的でフレンド的なのけ者ではないあの子も『すっごーい!』と驚いてしまうだろう。
ともかく。
ワダヤマヒロシは逃走中という事もあって今……世界地図を作るという事に、生命維持以外のリソースの多くを傾けていた。
なお。
今日もルビンスキー∪ルビンスカヤはワダヤマヒロシの右ポケットの中で失神していた。
無論、上空二万メートル、気温マイナス五六度、極超低気圧環境によるものである。
うふふ、魔法の修業が足りないぞ♪
まあそんなわけで、今日も二人きりで二人なりにイチャイチャしている二人である。
冷静に野分に突っ込まれ、無言のまま少々顔を赤くしているワダヤマヒロシ。
野分はさらに追い打ちをかける。
「あとな……お前さま。
ラバウルを含めニューブリテン島は……近年、近くの火山の噴火による数メートルに及ぶ降灰で地形が完全に変わっておる。
都市や空港がそのまま廃棄されるほどじゃ。
今我らが見ている光景と、お前さまの先祖が見た光景はかなり違ったもの……と言うか、似ても似つかぬものになっておるじゃろうな」
「え!!??」
思わず問い返すワダヤマヒロシ……無言のまま耳まで真っ赤っかになっていた。
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