表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/26

俺の敵がチートすぎて困る件3

「………」


 女の子がしてはいけない顔が、そこにあった。


「……う……ぎ……ぎ……」


 女の子がしてはいけない……エロ劇画のようなうめき声が、そこからこぼれた。


 そして。


「うぐあああああああ!!! 逃げやがったあああ!!


 あの(男性生殖器の別称ぴー)野郎があああああああ!!!


 その(性的不能状態ぴー)な(挽肉を腸に詰めた料理ぴー)を(残酷な表現ぴー)して(残虐な表現ぴー)して(極悪非道な表現ぴー)!!!」


 女の子が口にしてはいけない言葉……というか人間としてあり得ない絶叫が、飛び出していた。


 無論、皇帝女帝クリームヒルトである。


 その暴言の度に大きなお胸がたゆんたゆんしていなければ、とても女性の発言とは思えなかった。


 クリームヒルトは見事な装飾が施された転落防止の柵を両手で握りしめ、上体を乗り出しながら去って行った男の背中を睨んでいた。


 文字通り穴が開くほど……と言うか、実際に光線と電波で穴を開けかけた訳だが。


 そして……見事にその為の魔法を回避された訳だが。


 と……その時。


 クリームヒルトを背中から抱きかかえる者がいた。


「へ、陛下!!!! それ以上(・・・・)は……おやめください!!!」


 それは、先ほどまで巨人の襲来や野分の『暴風雨』に震えあがっていたはずの侍従長。


 それが……その状態をおして立ち上がり、クリームヒルトの制止にかかっていた。


 それはつまり……いままで侍従長が恐れ慄いていたもの、それ以上(・・・・)に恐ろしいものが、クリームヒルトの手の中にあるという事。


 星の巨人ワダヤマヒロシに回避と逃走を選択させた(カスタム)魔法、それ以上のチカラの行使を、恐れたという事。


 少なくとも、クリームヒルトはそう解釈したようだった。


「う……ぎ……」


 侍従長の制止に、クリームヒルトはもう一度エロ劇画のようなうめき声を上げる。


 そして……大きくため息をつく。


「ああ………分かってるよ。


 これ以上(・・・・)は、使わねえ。


 照光★★★★★クインタプルカスタム、『ガンマ線バースト』。


 こんなもん使ったらほとんどすべての物質を透過して……ここから東の生物が広範囲で死滅するじゃねーか。


 俺が支配する大陸から生物を殲滅してどうすんだ」


 幾分かは落ち着いたのか、クリームヒルトは静かな口調で続けた。


「先の皇帝陛下にも、それは重々言われてるしな。


 いや、先の、ではなく……俺からすれば、今なお『我が皇帝』にあらせられる。


 俺が身も心も捧げ、従うのは『我が皇帝』だけだ。


 ……そうだな、ここは『我が皇帝』に従い、自重するとしようか」


 微かに微笑を見せながら……誇らしげな表情で呟くクリームヒルト。


 そこには間違いなく……今までとは違う表情があった。


 その言葉に……侍従長は平伏して見せた。


 地に臥せたその顔……内心で侍従長は、いや、これ以上(・・・・)の暴言は皇帝としていかがなものかと諫めただけなんですが、と呟いていた。


 口にしなかったのは………クリームヒルトが怖かっただけではなく、クリームヒルトのそれは今さら変わりようがないからだった。

「しかし……どうするよ、これ……」


 言いながらクリームヒルトは、皇帝の座するラインバイス城の高みから眼下の帝都を眺め、それに素直な感想をこぼしていた。


「修復するより、一から作り直した方が、早いんじゃねえのか……?」


 クリームヒルトの言葉通り……彼女の眼下には、野分の『暴風雨』(F4級竜巻)の被害を受けた帝都の町並みがあった。


 竜巻とは言え短時間であり、完全に石造りの建物に被害は少なかったが……すべてがすべて石造りの建築物は少ない。


 建築補助剤としての木材、屋根部分だけ木材の建物、また建物の窓など、それらがすべて吹き飛び……また貧民街などは石造りの建物などなく、被害の規模は相当なものだろう。


 また市場などは、様々な商品のことごとくが吹き飛んでいる。


 人的被害は少ないだろうが……経済的損害はかなりのものとなるだろう。


 それに顔をしかめるクリームヒルト……その表情が不意に変わる。


「一から作り直す……そうだ、遷都だ!!


 いい加減、このごちゃごちゃした町並みは開発に支障があると思ってたんだ。


 支配地域は東に広いからな……だったら、首都ももう少し東に移転するべきだな。


 いっそ、旧ビョルンストルム領に帝都を置くか。


 ふふん……面白くなってきやがった!


 主だった貴族を至急招集せよ!!


 あと建築ギルドや商業ギルドや冒険者ギルド……ああ、もうギルド長と言われる奴らは全員だ!!


 候補地の選出、予算、想定される人口の算出……忙しくなってきやがったぜ!!」


 早口で指示すると、クリームヒルトは腕まくりなどしながら城の奥に消えて行く。


 色々と革新的すぎる皇帝女帝のその脳裏には……新しく建設する都市の構想や規模、経済的試算などが高速で回転していた。


 と……その思考が、不意に止まる。


 ワダヤマヒロシの事を、思い出したからであった。


「………ふむ。


 都市計画もいいが……あのデカブツ。


 何とか俺の臣下に組み込めねえかな……?」


 静かに呟くクリームヒルト。


 それに応じて、侍従長が問い返す。


「デ、デカブツ、と言うと……先ほどの襲撃者にございますか?」


「それ以外に誰がいるってんだよ。


 ……いろいろ聞きたいことがあるからな。


 俺の前に、必ず連れてこい。


 ふふん……丁重に(・・・)、頼むぜ」


 そこまで言ったところで、クリームヒルトは思考を再び『遷都』に切り替えていた。


 そして城内の執務室に消えて行く……そのまましばらく、ワダヤマヒロシのことなど忘れ去っていた。


「やれやれ……丁重に(・・・)、か………」


 残された侍従長は、大きくため息をつきながら、静かに呟いていた。


 そして、さきの『暴風雨』に恐れ慄き、床に伏せたままの若い侍従たちに声をかける。


「あー、これ。


 帝国宰相府……ではなく、今は内務省と変わったのであったか。


 その大臣を、呼んできてはくれないか。


 此度の襲撃犯に対し、どのような罪状を当て嵌めればよいか、審議したい」


 あからさまに面倒臭そうな表情で侍従長は指示を出し……応じた侍従たちは飛び上がるようにして走り去ってゆく。


 それを再びため息交じりに眺めながら……侍従長は続ける。


「国家騒乱罪……とは違うか。


 反逆罪とも違う。


 器物破損……と言っても、これまでラインバイス城を破壊した者などおらぬしな。


 全く……個人で帝国にこれほどの損害を与えたものなど前例がない。


 何という名目で『指名手配』すればよいのやら……」


 ぺちんと自らの額を叩きながら……クリームヒルトの知らないところで、侍従長は丁重に(・・・)ワダヤマヒロシを招聘する方法を口にしていた。


 クリームヒルトとは若干の見解の相違を見せながら。


 かくして。


 ワダヤマヒロシは結局……この国で『一番重い』と言われる罪状で、帝国内に指名手配されることになった。


 その罪状は……『外患誘致罪』。


 法治国家における最高の犯罪とは、国民の生命財産云々ではなく……その国家の転覆を企図すること。


 戦前戦後を通し、日本においても……死刑以外の刑罰はない最強の罪。


 そしてその罪状で、ワダヤマヒロシは帝国内に指名手配されることになった。

「……………………」


 ワダヤマヒロシは、無言であった。


 例の半球で空を飛びながら……ずっと無言であった。


 既に帝都を遠く離れ……MPがぐいぐい減っていくにもかかわらず、ワダヤマヒロシは半球の高度を上げ続けていた。


 その左ポケットの中で、野分がギャンギャン抗議を続けていても、であった。


「(うう、犯罪者になってしまった……)」


 ずーんと沈んだ表情。


 そのまま、ワダヤマヒロシは内向きの思考を続ける。


「(確かに俺はオタク……世間様に後ろ指をさされる存在かも知れない。


 けど……日本でも、法に触れるようなことはやってなかったのに!!


 ま、まあPCの中の、人に見せられないフォルダは別として。


 あ、あれ? それってもしかして……犯罪?


 い、いやいや、オタクなら誰しも人に見せられないフォルダくらいは……あれ?


 つまり、オタクって……もしかして、全員犯罪者?


 もしかして『オタクイコール犯罪者』っていう、世間の偏見に満ちた偏見、批判のための批判って……もしかして、『しんなり』!!??


 マ、マジで!!??


 オタクって……そんなに罪深い存在だったの!!??)」


 状態異常(思考の迷宮)に陥り……目をナルトのようにグルグルさせながら、ワダヤマヒロシは空を飛ぶ。


 既に高度は一五〇〇〇メートルに達していた。


 気温はすでにマイナス五〇度……気圧も地上の四分の一程度。


 それでも『風水害対策本部』が生存しているのは魔法パワーとしか言いようがない♪


 と言っても……ルビンスキーは失神し、完全なるチアノーゼで泡まで吹いている。


 ……きっとレベルが足りなかったんだねッ♪


「え……い! お……さま…!! 気……しっか……持……!!」


 もはや音声の伝達にも支障がある環境の中、野分は叫び続けていた。


 しかし……それでもワダヤマヒロシの状態異常は回復しなかった。


「(お前さまよ……指名手配ぐらいでオタオタしおって。


 我など、『暴風雨』として一〇〇〇年以上指名手配されて……先に国家の方が滅亡した場合もあったというのに。


 小さなことにこだわりおって……ええい、最後の手段じゃ!!!!)」


 思考がそこに至ったところで……野分はワダヤマヒロシの左ポケットから飛び出した。


 そしてそのまま……上着の合わせ目から服の中に侵入する。


 その数秒後……ワダヤマヒロシは絶叫を上げていた。


「いってええええええええ!!!!!


 やめ、やめ……俺の西乳首があああああああああ!!!!」


 西乳首いうな。


 ワダヤマヒロシの絶叫の通り……ワダヤマヒロシの身体の一部に、野分の歯形がくっきり残ることとなった。 それはどこかは内緒♪ きっと東じゃないほうの乳首♪


「おお、……前……ま、やっ……気……たか!?」


 服の中からにゅっと顔を出しながら、低気圧環境でも平然と声をかける野分。


 そして正気を取り戻したワダヤマヒロシ……そこで、やっと自分が高度一五〇〇〇メートルの高みにいることに気付いていた。


「わ……何こ……!?


 い……の間にこ……で!?


 寒……だろ!? それ……空……薄……っ!!?? 風…強す……ろ!?」


 野分の絶叫と同様、高度一五〇〇〇メートルの気温と気圧と荒れ狂う風に、ワダヤマヒロシもまた正常な音声伝達が出来なくなっていた。


 そんなワダヤマヒロシに向かって、野分が怒り顔で何度も下を指さす。


 察するに、さっさと高度を下げろというハンドサインであるらしかった。


 大きく何度も頷いてから、慌てて半球を操作するワダヤマヒロシ。


 しかし。


「!!!!!!!!????????」


 声は出なくとも……ワダヤマヒロシの巨大な顔が衝撃に捕らわれていることが分かる。


 不審そうに巨大な顔を見上げる野分……それでも、ワダヤマヒロシの驚愕は治まらなかった。


 眼下。


 ワダヤマヒロシの乗る半球、高度一五〇〇〇メートルの高みにあるその場所から見下ろした……一五〇〇〇メートル下の光景。


 そこにある大陸に、ワダヤマヒロシは衝撃を隠せなかったのだ。


 正確には、先ほどまで自分たちが立っていた大陸の……見覚えがある、見覚えがありすぎる、そのカタチに。


 その大陸は……地球で言うところの、『オーストラリア大陸』に酷似していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ