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俺の敵がチートすぎて困る件2

「レーザー砲か……しかし、そう連射もできないようじゃな。


 なれば……対処の方法はある」


 第一射を何とかやり過ごした『風水害対策本部』。


 やり過ごしたと言っても、ワダヤマヒロシは地(半球)に臥せて悶絶したままであり、ルビンスキーは悲壮な表情で『回復魔法』をワダヤマヒロシに施している。


 平素なら『おお、ルビよ、いつの間に回復魔法なぞ覚えたのじゃ!? まるで修道系の職業ではないか!?』などとのたまうはずの野分だが、いつになく真剣な表情で冒頭の言葉を呟くのみであった。


 そして……不敵な笑みを見せる。


「……奇しくもそれは、われが最も得意とする魔法でもあるな。


 ふふん、すでに我は倒されたことにはなっているが……その名を思い出して、震えあがるがいい」


 野分がそこまで呟いた瞬間……帝都に不意に、突風が吹いた。


 正確には……野分を中心に半径数百メートルのエリアで、不意に『気圧』が下がった。


 それは……約一〇%ほど。


 たかが一〇%と言うなかれ……それは、超大型と言って良い台風の中心気圧より、さらに低いのだ。


 途端に、足下の帝都市民から悲鳴が上がる。


 さもありなん……まさしく、超大型台風と同じ速度の風が、野分に向かって吹きだしたのだから。


 それに巻き込まれ、さらに巻き上げられ……まさしく竜巻と言って良い現象が、起ころうとしていた。


 それはかつてワダヤマヒロシがハンガーヒルの森で見せたものに近い。


 だがしかし……その中心部の半径は、数倍以上。 高さで言うなら十数倍。


 藤田スケールで言うところの、F4級の竜巻。


 木造家屋は軽く吹っ飛び、車でさえも宙に舞う……まさに大規模災害級の竜巻であった。


 やがて……その突風に、水滴が混じりだしていた。


 雲の高さの数倍に至る竜巻が……周囲の雲まで巻き込んでしまったのかもしれない。


 人を容易に吹き飛ばすレベルの風に乗った雨……それが果たして『痛い』で済むだろうか。


「即ち『暴風雨』……それが我の名であり、我が最も得意とする魔法の名じゃ。


 ……我の伴侶に、なにをしてくれる。


 こんな辺鄙な町など……壊滅させてくれるわ」


 野分は口調に明確な怒気を孕ませながら、静かに宣告していた。

「ほほう、これは……風と水の魔法の同時展開か。


 レーザーの弱点を知ってるのか……レーザーの天敵は、大気中の塵と水蒸気だという事を。


 という事は……俺『たち』と同じような知識を持っているという事か。


 という事は……若干、認識を改めねえといけねえかな?


 ただの愉快犯やテロリストの類じゃねえという事か?」


 野分の『暴風雨』に晒され、長い髪を大きく踊らせながら……着衣を大きくはためかせながら、真剣な表情を見せるクリームヒルト。


 しかし……悲壮な表情ではなかった。


 それはまるで……F4級竜巻、原爆数個分のエネルギーを目の前にしても、全く怯んでいないように見える。


 実際、彼女の背後に控えていた侍従長たちは……目の前の天災に頭を抱えて地面に臥し、震えながら祈りの言葉を呟いているというのに。


 そして……表情を再び改めながら、クリームヒルトは続ける。


「だが……甘えな。


 それならそれで、対処の方法はあるというもんだ。


 スキル『比翼連理』経由にて、『(カスタム)魔法群』より引用。


 導きの光魔法・『照光』をさらにカスタム化……ふふん。


 確かに可視光線は水蒸気や大気中のチリに触れると拡散してしまうがな。


 ならば……周波数を変えてやればいい。


 そもそも光は電磁波の一種……それを踏まえれば、『光魔法』もこういう事ができるんだぜ」


 にたり……まさにそうとしか言いようのない表情。 嗜虐の笑み。


 その笑みのまま、クリームヒルトは再び絶叫する。


「光魔法・照光★★★★クアドラプルカスタム!!


 『指向性電磁波メーザー砲』!!」

 その時……ワダヤマヒロシ達の乗る半球が崩壊したのは、奇跡であったかもしれない。


 激痛の連続で、一瞬ワダヤマヒロシの意識が遠退きかけたため……半球が砂に戻ってしまったのだ。


「「ふひゃああああ!!」」


 大きく傾いて、砂より先に落下するワダヤマヒロシ達。


 その半球に、『指向性電磁波メーザー砲』が命中していた。


 いや……もしかしたら奇跡でも何でもなく、その命中こそが、一撃で半球を崩壊させたのかもしれない。


 どちらにせよ、『指向性電磁波メーザー砲』はワダヤマヒロシへの直撃には至らず、その代わりに半球を完全に破壊していた。


 その破壊方法に……落下しながらも、野分は思わず絶叫した。


「な……何じゃ!?


 『何も当たっていない』のに……半球が消し飛んだぞ!?


 あれはもしかして……溶けたのか!?」


 絶叫する野分の言葉通り、彼女の目の前で半球は……溶けていた。


 溶けて………吹き飛ばされていた。

 野分の『何も当たっていない』と言う言葉は……ある意味的確であった。


 なぜなら……例えば、電子レンジのマイクロ波は、人の目には見えないのだから。


 電磁波のうち、人の可視領域にあるものは『光』と呼び、それより波長の長いものを『電波』と言う。


 『光』も『電波』も『電磁放射線』も、『電磁波』。


 そして『光』を発する『照光』と言う魔法を以って……同じやり方でクリームヒルトは『可視の電磁波』であるレーザーと『不可視の電磁波』であるメーザーを、それぞれ増幅収束して放射していたのである。


 魔法とはなんと便利な……と言いたいところだが、少なくともそこにはその『電磁波』に対する知識が必要である。


 そして、クリームヒルトはその魔法を行使していた。


 それはつまり、ラジオも電子レンジもレントゲンも裸電球もないこの世界において、クリームヒルトは……『電磁波』の存在を熟知しているというという事になる。


 それを表現する言葉は、一つしかない。


 『チート』。


 それ以外の何物でもなかった。


 そしてクリームヒルトは……チートを以って、他国の制圧に成功していたのである。

 落下の衝撃は大きかったが、野分とルビンスキーは死なずにすんでいた。


「ぐえっ!!!」


 肺から短い呼気を吐きながら、二人を空中でキャッチしたワダヤマヒロシが、またも背中から地面に落ちたからである。


 飛び降り心中の禁止事項……ワダヤマヒロシはまたそれを行使していたのであった。


「お……おい!!


 お前さまよ、だ、大丈夫か!?」


 流石に本気で心配そうに、野分はワダヤマヒロシの顔にぺちぺちと手を掛ける。


「うー……いてててて……三度も落下するなんて……なんて日だ、こん畜生。


 さすがに俺自身も……何で生きてるのか、わかんねえくらいだ……」


 呻きながら上半身を起こすワダヤマヒロシ。


 その、緩慢ではあったが急な動作に、野分は慌てて離れながら……そのワダヤマヒロシの背中を眺めながら野分は、あることに気付いていた。


 無意識に、野分はそれを問いかけていた。


「ん? お前さまよ……背中の『それ』は、何じゃ?」


「え? 背中に何かついてる?」


 思わず背中を見ようとするワダヤマヒロシ。


 だが……普通、人間は自分の背中は見えない。 それが人体のことわりである。


 なんとか頑張って背中を見ようとする姿は……妙に滑稽であった。


 しかし、『それ』を眺める野分は……妙に納得した様子で叫んでいた。


「そうか!! 『それ』のお陰か!!


 『それ』のお陰で、お前さまは無事じゃったんじゃな!?」


 妙に納得した様子の野分。


 対してワダヤマヒロシは、ぽかんと口を開けるしかなかった。


「決して無事って訳じゃねえけどな。


 ……だから、『それ』って何……。 ………!! もう一発くるぞ!?」


 問いかけの途中で、ワダヤマヒロシは叫びながらラインバイス城の方を振り返っていた。


 実際、クリームヒルトが『指向性電磁波メーザー砲』の第二射を準備していた。


 それを察知できたのは……ワダヤマヒロシが怪しげな一子相伝の拳法の会得者であるからではない。


 それはクリームヒルトの最大の弱点であった……クリームヒルトは、殺気が大きすぎる。


「く、くそう……『土塊』で防御壁でも……ぜ、絶対間に合わねえ!!??」


 焦った様子で絶叫するワダヤマヒロシ。


 しかし。


 応じて野分は……極めて冷静であった。


「お前さまよ……助かるかもしれんぞ?」

「くははははっ!! 無様にも落っこちやがったか!!


 とどめだ!!


 光魔法・照光★★★★クアドラプルカスタム!!


 『指向性電磁波メーザー砲』!!」


 そして再び……指向性を持った不可視の電磁波が、クリームヒルトから発射されていた。


 直径は〇.一ミリほどの、不可視の光の帯。


 それは数百メートル先の人体を容易に溶断できるほどのエネルギーを以って放たれていた。


 しかし。


 一キロ離れていても視認できるほどのワダヤマヒロシの巨体……それを、溶断できなかった。


 それどころか……いつまで照射しても、ワダヤマヒロシの巨体に変化はなかった。


「……?


 電波は不可視ゆえに、外してるのか……?


 レーザーで試してみるか……光魔法・照光★★★トライカスタム!!


 『戦術高出力レーザー』!!」


 なんとクリームヒルトは知らないうちに……無意識に地球で言うレーザー照準というものを自力で開発していた。


 しかし。


 レーザーの使用で判明した原因に……クリームヒルトは絶句していた。


 絶句するクリームヒルトの目の前で、レーザーは間違いなくワダヤマヒロシに当たっていた。


 先のメーザー砲も、おそらく同様であろう。


 では、ワダヤマヒロシは……何故立っていられるのか。


 そして……ワダヤマヒロシは、『ナニ』を持って壁としているのか。


 先に結論を言うとそれは……約四五度に傾けられた『盾』であった。


 ただしそれは……この世界で言う『真の銀ミスリル』と『真の金オリハルコン』で出来ていた。

「おお、何とかうまく防御できそうじゃな……」


 安堵のため息をつきながら野分は……いまだ困惑顔のワダヤマヒロシに声をかけていた。


「な、何だよ……いったい、どういう事なんだ?


 それに『これ』……いったい、何なんだよ………?」


 問いかけながら前方に手をかざすワダヤマヒロシ。


 それは土の魔法『土塊』で、野分に言われるままに『それ』を操作していたためである。


 金ピカに輝く『それ』は……ワダヤマヒロシは知らなかったが、かつて自分で発掘し、粒子レベルに粉砕し、最後に……『紙飛行機』型に成型した鉱物であった。


 この世界で言う『真の銀ミスリル』と『真の金オリハルコン』。


 その二つで出来た、完全に平面状の板であった。


 さっきまでワダヤマヒロシの背中に張り付いていたのは……例の『紙飛行機』の残骸であった。


 ワダヤマヒロシは『土塊』で『紙飛行機』をもう一度粒子レベルに粉砕し、完全な平面な板に再構成していた。


 そしてそれは……まるで『鏡』のように、レーザーを反射していた。


 ……粉末状にした金属を成型して別の形にするのは……実は地球でも一般的な技術である。


 粉末冶金やきん


 PM(Powder Metallurgy)とも呼ばれる、地球で最も精度の高い工業部品精製法の一つだ。


 通常金属加工とは…溶かして鋳型にめたり、切削工具で削り出したりするものであるが……同然そこにはエネルギーや材料のロスが発生する。


 一方、粉末冶金は……型に填めて圧力をかけるだけなので、エネルギーや材料のロスをかなり軽減してくれるという、かつて夢の工法とまで言われた精製法。


 問題なのは……粉末の状態での材料の入手と、型の製作に非常にコストがかかる点。 これがネックなのである。


 ただしそこさえクリアできれば、非常に精密な金属部品を量産できる。


 ワダヤマヒロシは、それにより……『真の銀ミスリル』と『真の金オリハルコン』で出来た超巨大なただの『鏡』を製造していた。


 斜め四五度に傾けられた『鏡』は……完全にレーザーを上空に逃がしていた。


 そう、完全に、である。


 いくら『鏡』とはいえ、自分自身が高熱に溶かされることもなくレーザーを反射し続けるということは……まさしく『反射率一〇〇パーセント』という事。


 地球において光学機器を作っているメーカーなら、総資産をかたにそれ以上の借金をしてでも獲得したい技術であろう。


 なぜならそれは……宇宙の果てまで観測できる光学望遠鏡、分子レベルまで判別できるスキャナなどが製作できるからである。


 それをワダヤマヒロシは……レーザーを反射するという事だけに使用していた。


 何という無駄な(以下略)。


 また、この『鏡』は……金属製である。


 金属製であるという事は……電波さえも跳ね返すということだ。


 それはまさしく、放射した電波の反射波を受信し対象を探査するというレーダーの原理。


 そしてもし電波をも一〇〇パーセント反射するという事は……形状によっては、完璧なステルス性能を発揮できるという事。 だってレーダー波を好きな方向に、完璧に逃がせるんだから。


 それをワダヤマヒロシは……電波であるメーザー砲を反射するという事だけに使用していた。


 何という無駄な(以下略)。


 と言ってもそれは、『一〇〇パーセント反射する』と言う特性あってのこと。


 この世界においては、ミスリルとオリハルコンはそう言う特性を持つらしい……何て夢のような金属なんだろうね♪

「やれやれ……お前さまはニブいのう。


 光学兵器を鏡で反射させるのは、お前さまの世界の『王道』ではないか」


 状況に安心したのか、フンスと鼻を鳴らしながら答える野分。


 異世界の知識をフンフン言いながら平然と語る古竜……それをジト目で眺めてから、ため息をつくワダヤマヒロシ。


「ま……助かったんだから、何でもいいや。


 とりあえず……え?」


 愚痴る様に呟いてから……周囲の光景を見て、ワダヤマヒロシは絶句する。


 ワダヤマヒロシの絶句は、当然の事であった。


 なぜなら……ワダヤマヒロシの周りにあったのは……廃墟であった。


 見渡す限り一面の、廃墟であった。


 それは……野分の『暴風雨』によるものだった。


 古都ゆえに古い石造りの建物がほとんどであり、倒壊した建物はほどんどない。


 しかし……人、そしてモノ。


 それらが『暴風雨』の巻き添えにあっていたのだ。


 短時間の事であり、命にかかわる傷を負った者は少ないだろうが……それでも、町を丸ごとミキサーにかけたようなその光景は、ワダヤマヒロシに『責任能力』と言う言葉を思い出させるのであった。


「野分……………に、逃げようZE♪」


 ワダヤマヒロシはひきつった笑顔でそう言ってから震える手でサムズアップをみせると……一瞬で再度創り出した『半球』に乗り、全速で逃走を始めるのだった。

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