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俺の敵がチートすぎて困る件

「てめえ!! そこ動くな!!


 情状酌量はしてやるからよ……一〇〇回ぶっ殺す程度で勘弁してやる!!」


 城の中央部から、なんとも優しい声が掛けられている。


 無論、ワダヤマヒロシはゲルリッツ帝国の至尊の地位たる者の名も顔も声も知らない。


 だがそのクリームヒルトの罵声の音量と威圧感に……ワダヤマヒロシは『判断を誤っていた』。


「ううっ……駄目だ!! 逃げるぞ、野分!!


 スキル『比翼連理』経由で『古竜の叡智』より引用……『土塊ブースト』!!」


 土下座の頭を勢い良く起こしながら、完全回復した膨大なMPを頼りに魔法を発動するワダヤマヒロシ。


「ひいい!?


 逃げるのか、そしてまた飛ぶのか、お前さまよ!!」


 ルビンスキーの首根っこを捕まえながら、定位置の左ポケット目指してワダヤマヒロシの着衣を駆け登る野分。


「じゃー、この城の修繕費用を負担するのか!?」


「何をしている、お前さま!! さっさと逃げんかあああああ!!!!」


「まかせろ!!」


 恥も外聞もなく、『風水害対策本部』は団結してクリームヒルトに完全に背を向けた。


 『土塊』により、巨人ワダヤマヒロシの足元の瓦礫が一気に粉砕されて……砂状にまで変わっていく。


 前回のイメージをそのまま引き継いだのか、半球状に変化した砂の塊の上に乗り、ワダヤマヒロシ達は、一気に浮遊する。


「ううっ……日本じゃこうはいかないよな。


 器物破損、いや文化財保護法違反になるのかな……だがしかし。


 ここはあえて異世界の流儀に従うとしよう……すなわち、逃げるが勝ち!!!」


 そう叫びながら、ワダヤマヒロシは半球を発進させた。


 時速で言うと、二〇キロぐらいだろうか……単純に早さで言うならワダヤマヒロシが走ったほうが早い。


 しかし、ここは帝都の中心地である。


 しかも、歴史を持った古都である。


 当然市街地は……第二次世界大戦後に再開発された都市や都市計画に基いて設計された都市とは違い、通路は狭く複雑に入り組んだものとなっている。


 どう考えても……主要道路を除けば、巨人ワダヤマヒロシが通行するどころか、ただ立つだけのスペースもない。


 その主要道路も、野次馬の市民や緊急出動した兵士で雑多な人込みとなってしまっている。


 だからそこを飛行するというのは最も効率的な移動手段と言えた。


 その分、大いに目立ってしまっているのだが。


「うわああ!! 何だあのでっかいのは!!」


「人の姿をしているが……なんだ、あの顔は!? まるで毛のないサルではないか!!」


「いや……噂に聞いたことがある。 確か東方に、『偉大なる勇者』と言う伝説があって……」


 地上の野次馬や兵士たちの間から、そんな言葉が聞こえてくる。


「(うわっ! 顔までバッチリ見られてんじゃん!!


 こりゃー……指名手配確実だな……やべえ!! やべえよ!!


 俺、冒険者生活続けられるのか!?


 むしろ……逃げないほうが良かったのか!!??


 ……て、誰だ! 猿の事、()って言った奴はああああ!!??)」


 焦燥に駆られ、ぐるぐるとそんな思考を巡らせるワダヤマヒロシ。


 低速とは言え、弓や槍の届かない高さを逃避行する半球。


 だがそれは……見方を変えれば、違う解釈が存在する。


 その違う解釈をしたのが、クリームヒルトであった。

「なるほど、これがゲリラ攻撃、あるいはテロ、って奴か。


 帝国の象徴たるラインバイス城に一撃だけくれて……他には目もくれず、即座に退却か。


 その潔さには感嘆を隠しきれねえが……。


 帝国の面子は丸潰れだな……ビョルンストルム王国の反乱分子が騒ぎ出さなきゃいいが。


 あのデカブツ……軍人だとすれば、さぞかし有能な指揮官だろうよ。


 ビョルンストルム王国にそんなに優秀な軍人が…?


 いや……それなら俺の暗殺を企むはずか。


 だとすれば……ただの愉快犯か?


 そう言えばこの皇帝女帝()に対し………尻でも食らえとばかりに背を向けているな。


 くははははっ!!


 なるほどな……やってくれる!!


 この皇帝女帝など屁でもねえと言いてえのか。


 戦果を誇示しているつもりか……悠然と、余裕しゃくしゃくでゆっくり飛びやがって。


 何度でもやってやると言いたげだな。


 余裕ぶっこきやがって。


 おもしれえ!!


 その挑戦、受けて立つぜ!!」


 行間に説明(地の)文を挟むことができないほどにクリームヒルトは早口で……情熱的な独り言を一気にまくし立てていた。 助かります。


 そしてクリームヒルトは楽しそうに……本当に楽しそうに、残酷な笑みを浮かべるのだった。


「ゲルリッツ帝国の皇帝女帝を、舐めんじゃねえ」

「スキル『比翼連理ひよくれんり』経由にて、『カスタム魔法群』より引用。


 導きの光魔法・『照光』を(カスタム)化……」


 その場にワダヤマヒロシか野分がいれば仰天していたであろう言葉で、クリームヒルトは静かに呟く。


「『照光』、これは本来冒険者なんかが夜道や洞窟内を照らしたり、眩しく輝かせて目くらましに使ったりする魔法だ。


 それを、(カスタム)した。


 自然界にも普通に存在する非コヒーレント光、それを魔法で収束し、位相を合わせ……自然界には存在しない、コヒーレント光にしたモンだよ。


 と言ってもこれは……俺の考えた理屈じゃないんだけどな。


 『比翼連理』同様……所詮、借り物のチカラだ。


 しかし……俺『たち』のチカラだ。


 『皇帝』と『女帝』にケンカを売ったんだ……その意気は買ってやるからよ。


 潔く散ってくれ。」


 そこまで言ったところで……クリームヒルトは一度静かに目を閉じた。


 深く、深く、深く、深呼吸を見せてから……絶叫と共に目を見開く。


 その視線は真っすぐに……去りゆくワダヤマヒロシの大きな背中へ。


 そしてクリームヒルトの放った魔法もまた、ワダヤマヒロシの背中へ『真っすぐに』伸びて行くのであった。 それこそ……『光』の速さで。


「照光★★★トライカスタム!!


 『戦術高出力レーザー』!!」

 『戦術高出力レーザー』。


 それは地球においては現在米国軍とイスラエル軍が共同研究する未来の対空兵器……要は飛来する敵性の飛翔体を、ミサイルや機銃などの実体弾の代わりにレーザー砲で撃ち落とそうというものだ。


 要するに、高エネルギーを持った光線を単一方向に収束して照射し、対象を焼き尽くそうというものだ。


 そう……真面目に研究している人はいるのだが、現代においてはまだまだ荒唐無稽なSFの域を出ない兵器。


 しかし。


 転生モノのチート兵器の定番と言えば、火縄銃を含めた火薬。


 それが……マスケット銃やエンフィールド銃すら飛び越えて、レーザー兵器。


 チートにもほどがあるクリームヒルトの攻撃であった。

「い………痛ってええええええ!!!!!」


 『高出力戦術レーザー』に捕らえられ、ワダヤマヒロシが最初に叫んだのはそれであった。


 がくん!!


 半球の平衡が大きく傾き、衝突を思わせるほど大きく揺れる。


 それに悲鳴を上げながら、ポケットから顔を出し……周囲を眺めようとする野分。


 それは大きく傾いて上空を眺めることとなったが……そのおかげで、城から放たれた攻撃を目視することができた。


 ただし……その正体に、もう一度悲鳴を上げることとなったが。


「ふひゃあああぁぁ……ぁぁあああああ!?


 何じゃありゃあああ!!??


 ……れえざあ? い、異世界の未来兵器!?


 そ、そんなものがどうしてこの世界に……はっ!!


 お前さま、大丈夫か!?」


 『比翼連理』で敵の攻撃の正体を看破した野分だったが……ワダヤマヒロシの変化に、大きく息を飲んだ。


 ワダヤマヒロシは……どれほどの激痛を堪えているのか、半球の上で身をよじり、苦悶の表情を浮かべていた。


 その為か……半球の高度が、じりじりと下がってゆく。


「(くぅ……レーザー砲で、背中側を一点照射されたのか。


 急所は外れているようじゃが、あの痛がりよう……焼損が深層まで達しているかもしれんな。


 マズイ!! こちらは空の上……身を隠す場所などないぞ!!)」


 焦燥に駆られた表情で、野分は後方のラインバイス城に視線を向けるのであった。

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