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俺のイチャイチャがラブラブしなさ過ぎて困る件

「基本的には、無理じゃろうな」


 開いた口をゆっくりと閉じてから……妙に真剣な顔を見せながら、野分のわきは人類の夢『空を飛ぶ』事をやんわりと否定して見せる。


「なんだよ、その……YesとNoの中間みたいな答え。


 焦らしたがりの女の子か!?」


 思わず突っ込むワダヤマヒロシに、野分はもう一度思考を巡らせながら応じる。


「ふむ……不可能ではないが、現実的ではない、という事じゃ。


 具体的に言うなら、魔力の消費が半端なものではない」


「……というと?」


「我の魔力……(あるじ)が分かりやすいように言うと、MP、というやつか。


 我のMPはほとんどゼロよ! ……という事じゃ。


 今日のこの、土魔法による貴金属採掘によってな。


 通常、土魔法『土塊つちくれ』は、持ち上げた土を、短時間でそのまま相手にぶつける初級魔法。


 それを持ち上げたまま維持するなんて……ありがちな、魔法修行における怪しい師匠の特訓のようではないか。


 それに加えて、ブーストまでして、数百キロの土を長時間操作していたのじゃ。


 流石に今日は……疲れたぞい!!」


 その言葉に、ワダヤマヒロシは思わず自分のステータスを確認した。


 視線の操作でウィンドウを起動し……ステータスウィンドウを開く。


 そしてしばらく眺めて……少し驚いた様子で呟く。


「本当だ……俺のMP、150000も減ってる……」


「そうじゃろ?


 つまり、魔力の消費が……はああ!!??


 150000んんんんん!!??」


 まさしく、素っ頓狂、という感じで野分は問い返す。


 それに……ワダヤマヒロシは静かに答える。


「うん。


  名前:ワダヤマヒロシ

  種族:人間(転生者)

  状態:星の巨人

   LV:31

   HP:299999/300000

   MP:310000/460000

   攻撃:36000

   防御:36000

   魔法攻撃:47000

   魔法防御:44000

   速攻性:460


 ……だってさ。


 HPが減ってるのは……そういえば作業前に、野分に後ろ足で蹴っ飛ばされたな。覚えてろよ。


 えぇと、MPはあと310000残ってる。


 ……うん、もう一回ぐらいは作業できそうだな」


 平然とそんな言葉を吐いて見せるワダヤマヒロシ。


 びっくん。


 ワダヤマヒロシのその言葉に……右ポケットから、大きな振動が一つ、発生した。


 いうまでもなく、ルビンスキーであった。


「び、ビビってなどいないぞ!


 わ、我は『破戒』を司る邪神の………」


「……あーはいはい、ルビ、天丼乙」


 そんなやり取りを呆然と見ながら……野分は叫ぶ。


「じゃから、我の方がMPがないというておる!!


 ……それにしても……驚くべきステータスじゃな。


 ちょっと貧相な人間の、一〇〇〇倍ではないか」


「……ちょっと貧相で悪かったな」


 ぶすっとした声を返しながら、ワダヤマヒロシは野分に応じた。


 ついでにワダヤマヒロシの現在のスキル一覧を表示しておこう。


⊞モテモテ待ったなし

⊟比翼連理(対象:野分)

 ┗⊟古竜の叡智

   ┗⊟魔法

     ┗⊞風魔法

     ┗⊞水魔法

     ┗⊞土魔法

     ┗⊞火魔法

   ┗⊟竜の咆哮ドラゴンロア)

   ┗⊟竜の息吹ドラゴンブレス

   ┗⊟竜の爪牙ドラゴンタスク

   ┗⊟竜の堅鱗ドラゴンシールド

⊞星の巨人

⊟怒りの巨人

 ┗⊟巨人の咆哮ジャイアントロア

 ┗⊟巨人の突撃ジャイアントチャージ

⊞?????

⊞?????

⊞?????

⊞?????


 なんか知らない間にいっぱい増えてツリー化している。


 ……戦闘系のスキルの中で、『モテモテ待ったなし』だけ浮いてるような気がするのは気のせいだろうか。


 まあそれはいいとして。


「とりあえず、やってみっか」


 そう言ってからワダヤマヒロシは『土塊』で球体を操作して目の前に呼び寄せ、さらに球体を上面が平面の半球に変形させた。


 そして上りやすいように、階段まで作って見せる。

 

 その階段を上り……ワダヤマヒロシは、直径約七〇メートル(ワ:七メートル)の半球の上面に立った。


 すでに地面からは五メートル(ワ:五〇センチ)は浮遊している。


 これが……この世界における、人類(?)最初の飛行となった。

「……ふむ。 意外と安定してるな……」


 足元を踏みしめながら、ワダヤマヒロシは宙を漂う半球の上、静かに呟いていた。


 それに……珍しく不安そうに野分が声をかける。


「お、おい……大丈夫か、主よ……」


 生涯初の体験に、野分は動揺を隠せない様子だった。


「ん? お前、ドラゴンじゃないの?


 飛行体験なんて山ほど……ていうかお前、飛翔体の代名詞みたいなもんじゃねえか。


 飛行機とか打ち上げ花火の名前で、よくあるじゃねえか」


「……それはそうなのじゃが……我は、自分の身体で飛んでおるからの。


 主以外の『乗り物』になど、乗ったことなどないのじゃ」


「……セクハラ親父みたいな言い方、するんじゃねえ。


 ふむ……そういえば、ヒンズースクワットも怖がってたな。


 なるほど……自分で制御できない運動が、怖い訳か」


「そ、そうじゃ。


 ……主よ。


 それが解ったら、今度から頭の上に本でも置いて、おしとやかに歩く練習でもせい」


「ちょ、おま……調子に乗」


「我はもう慣れたが……庵野アンノは少し、乗り物酔いのケがあるぞ?」


「………留意しまーす」


 アンノマイヤを引き合いに出されては仕方ない。


 苦笑しながら、ため息を付くワダヤマヒロシであった。


「…ん? ドラゴン?


 お師匠……どういう事じゃ? お師匠は人間の魔法使いではないのか?」


 不意に、ルビンスキーが野分に問いかける。


 それにワダヤマヒロシが、横から、もとい上から声をかけた。


「ああ……パーティのメンバーだし、いちおう言っとくか。


 野分はな、かの有名な……古竜『暴風雨』の化身なんだよ」


 その言葉に……ルビンスキーは目を見開いた。


 この地方の人間にとって……『暴風雨』は特別の意味を持つ存在であった。


 応じて野分は……人差し指を唇の当てながら、これ以上ないほどの笑顔をルビンスキーに向ける。


「ふふっ……内緒じゃぞ♪」


 その至宝のような笑顔を見ながら……自身も笑顔で応じながら、ルビンスキーの身体は、ゆっくりと右ポケットの中に沈んでいった。


 ちーん。


 世界のどこかから、そんな音が聞こえてきたような気がした。


「……気絶したな、ルビ。


 て事は……分裂後は知らないはずの『暴風雨』のこと、知ってるわけだな。


 こいつ……やっぱ二重人格じゃねえ。


 ただの厨二じゃねえか」


「……言うてやるな、主。


 これはな……言わば、心の鎧よ。


 狂ったふりをして、自分自身を防御する……自分の一番弱い部分を、他者の目から隠す。


 いわば、心の自動防衛本能じゃ。


 本人の意志とはかかわりなく……つい、そうなってしまうのじゃ。


 人間の脳にはな、そういう機能がついておる。


 そしてそれこそが、厨二病とやらの正体だと、我は思うておる」


 うんうんと頷きながら、ため息を付きながら……気の毒そうに語る野分。


 全くタイムラグなしに突っ込んだのは、当然ワダヤマヒロシだった。


「んー、お前が言うなって言いたい気分、満載なんだが。


 ま……ほっとこう。


 とりあえず……飛行実験開始といくか、アルフォンス」


「………(……我は突っ込まんぞ。 まあ、アルフォンスなどありふれた名前じゃが)」


 奇妙な沈黙の中、この世界では人類初の飛行実験は始まったのである。

「一五メートル……二〇メートル……おお、結構、持つもんだなぁ」


 次第に遠ざかる地表を見下ろしながら、ワダヤマヒロシは半球の上で静かに呟いていた。


「それはまあ、術者が上に乗っているからな。


 遠隔ではこうもいくま……ひゃああああ!!??


 あああああ主、スススススケールがちがちがちががっ!!


 もうすでに、二〇〇メートルではないか!!??」


 ポケットから顔を出し、遅れて地表を確認した瞬間……野分は大いに驚いて見せた。


「おお、すまんすまん。 自分のスケールで見てたか。


 えぇと……三〇〇メートル……三五〇メートル」


「ちょ……待……ふひゃああああ!!


 お、降ろしてえええ!!! ……も、もうダメ!!」


 最近割と頻繁にキャラが崩壊する野分さんだった。


 野分は不意にポケットから飛び降りると……そのまま、人外の姿となった。


 すなわち……古竜、『暴風雨』。


『(ああっ、もう!!


 怖かった……この姿ならいつでも飛べるから安心……ん?


 主よ、何をじろじろ見ておるのじゃ?)』


 落ち着きを取り戻したのか、例のテレパシーのような通信方式で、『暴風雨』はワダヤマヒロシに怖い目を向けていた。


 その目線は……半球の上で胡坐をかくワダヤマヒロシと同じ高さほどであった。


「……おお。


 キャラどころか、形態まで崩壊しやがったか」


 口を開けたまま、妙に感心したようにいうワダヤマヒロシ。


 それに……『暴風雨』はしばらく無言になった。


「……? ん? なんだよ」


『(……ふむ。


 主よ……そなたは、我のこの姿を見て、何も思わないのじゃな?)』


「……?


 いやお前……野分は野分じゃないか」


『(この姿が……恐ろしくはないのかえ?)』


「いや全然」


「……………」


 ワダヤマヒロシの即答。


 それに……暴風雨姿の野分は一瞬、無言になった。


『(で、では……ん、ご、ごほん。


 こ、この姿が……醜いというか、そ、その……私、ちょっと、他の竜より、その、ちょっとトゲトゲが少ないっていうか……ちょっと首が長いっていうか……風の古竜と水の古竜の超冒険的なハーフだし……その……ちょっと、容姿にはコンプレックスがあって、その……)』


「……またキャラが崩壊してんな。


 もしかしたらこっちが本性なのか……それはともかく。


 だから……爬虫類の世界のコンプレックスなんか知らねえよ」


『(に゛ゃ゛っ゛!!


 だ、だから、爬虫類と言うなと小一時間………)』


「……くねくねすんなよ。


 なによ、お前………らしくねえな。


 ……普段の『主』だの『じゃ』だのの口調はどこ行った?


 ありがちな師匠ポジのビッチババアキャラはどこへ行った?」


『(うぅっ、そ、それはそうなのじゃが……いや、待て。


 師匠ポジのビッチババアキャラとは誰の……ま、まあいいか。


 と、とにかく!


 な、なんだかよくわからんが、とにかくドキドキしているのじゃ!!)』


 妙に真っ赤な顔をして、両頬に手をあて、おろおろとうろたえて見せる野分。


 そして妙に潤んだ目で野分は……ワダヤマヒロシを見つめていたのだった。


 ただし、ドラゴンの姿ではあるが。


「(あ、これ………もしかして……)」


 ワダヤマヒロシは、(ドラゴンだけど)まるで恋する乙女のような野分の姿と半球の外側、すでに上空五〇〇メートルに達した周囲の光景を見比べながら、ある言葉を脳裏によぎらせていた。


 その光景に……ワダヤマヒロシは、ある言葉を思い出していた。


「つっ……つっ……『吊り橋効果』だぁぁぁぁ!!!???」


 その絶叫は……高度五〇〇メートル、野分たちにすれば高度五〇〇〇メートルの空に響いて消えていった。

『(吊り橋効果……?)』


 オウム返ししながら野分はスキル『比翼連理』を使い、ワダヤマヒロシの知識の中からその意味を調べる。


 それの『知識』を得た瞬間……野分は(ドラゴンだけど)顔をさらに赤くさせていた。


 ……なんか、恐ろしいほど湯気が発生していた。


 体表からしゅわしゅわと水蒸気を発生させながら、野分は言葉を続ける。


『(ふ…ふぅむ。


 吊り橋を渡るなど、恐怖や強い不安の感情を強く感じている時に出会った異性に人に対し、恋愛感情を持ちやすくなると言われているのが吊り橋効果……。


 な、なるほど……で、では、我がいま感じているこの状態こそが『恋愛感情』ということじゃな!?


 要するに、主と我、今やラブラブの相愛関係という事なのじゃな!!??)』


 ぱぁっと顔を上げ、(ドラゴンだけど)満面の笑みで勢いよく言う野分。


 その近くにトタン屋根でもあれば、軽く吹っ飛ぶくらいの鼻息が、野分から飛び出していた。


 それに……ワダヤマヒロシはため息をつく。


「いや、違うから。


 吊り橋効果ってのは結局、勘違いって話だから。


 それに……俺がいつお前に矢印を向けたってんだよ!?


 だいたい俺は、爬虫類に欲情する特殊なヘキは……あっ」


 と……ワダヤマヒロシがそこまで言った、その瞬間。


 思い切り、不自然に、野分から視線を反らすワダヤマヒロシ。


 これ以上、解りやすくしようがないくらいに、ワダヤマヒロシの顔が真っ赤っかになっていた。


 そんなワダヤマヒロシの急変に……野分は、ワダヤマヒロシに向け、笑顔を見せていた。


 ただしそれは……『邪悪な肉食獣』とでも言うべき笑顔だった。

 無意識にワダヤマヒロシは、ここ半年の野分との生活を思い出していた。


 その脳裏にあったのは、朝の挨拶を交わす人間形態の野分の顔………の、もうちょっと下。


 楽しそうにワダヤマヒロシの昼飯に手を伸ばす……人間形態の野分のアスリートの如き引き締まった太もも……より、かなり上。


 戦闘後にもっともらしく説明をつけ、ふんぞり返って威厳を示そうとする……人間形態の野分のアスリートの如き引き締まった腹筋に、可愛く存在感を示すおへそ……より、もうちょっと上。


 ……あえて、ツッコミを甘受しよう。


 『おっぱいしか見てねえじゃねえか!?』と。


 そう……ワダヤマヒロシは、おっぱい星人であった。


 夢と希望を輸出し続けるおっぱい星から来たワダヤマヒロシ。


 それゆえに、定期的におっぱいを摂取しないと死んでしまう難儀な生き物だった。


 ふとした時に野分のおっぱいを盗み見、また、ふとした瞬間に触れるおっぱいに咳払いなどしながらも余韻を楽しむ。


 それが女性の敵、おっぱい星人の生態であり……ワダヤマヒロシの本性である。


 そんなワダヤマヒロシが、おっぱいの供給源である野分を憎らしく思っているはずがない。


 動揺を隠せないワダヤマヒロシに、野分は追い打ちをかける。


『(ほほう……主よ。


 その様子では、我の一方的な思い込みではないと思って良いのじゃな……?)』


 まさしくドラゴンにふさわしい邪悪な笑み。


 いつの間にか落ち着きを取り戻していた野分。


 その生気に満ちた表情は……この少し前のやり取りがなければ、腕利きの冒険者との生死をかけた戦いでも始まりそうな威厳と圧力である。


「ななっ!?


 そ、そんなコトっあるわけないんだからね!?」


 ツンデレだ。


 見紛みまごう事なき純然たるツンデレだ。


 ワダヤマヒロシのキモチワルイそれに哄笑を浮かべながら、ドラゴン野分はゆっくりと体を起こした。


 そしてゆっくりと、四本の足でワダヤマヒロシに歩み寄る。


『(ふふん……まあ、よい。 よいのだ、主よ。


 我もな……分かっておった、主の気持ちにはな。


 我がいくら誘っても乗って来ず……我には興味がないように装っていてもな。


 ときおり感じておったのだ。


 ねっとりと、足元から舐め上げるようにじっくり我の身体を眺めて行く主の視線をな……ふふん)』


 いや、正確にはおっぱいなんですが。


 それさえ突っ込むこともできず、ワダヤマヒロシは視線を反らし続ける。


 野分は、続ける。


『(何にこだわっているのかは知らんが……良い機会ではないか。


 ふふふ……つまらぬ意地など、捨て去ってしまえ。


 そして、素直になってしまえ。


 主よ……かつて我が主に送った言葉を……もう一度送ろうではないか)』


 静かにそう言いながら……野分は、大事な言葉を口にするように、もう一度静かに呟くのであった。


『(やらないか)』


「うう、だから……やれるもんならやっとるわ!!


 俺は、獣かんヘキはねえんだっつーの!!


 それに、秘孔を突いて女の子を内側から破裂させたくもねえわ!!」


 巨人ワダヤマヒロシの魂のツッコミが、上空八〇〇メートル、野分たちの尺度で言えば八〇〇〇メートルの上空に吸い込まれていった。

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