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俺の土地開発がチートすぎて初めてチート転生ものみたいになって困る件

「という訳で我々は……ハンガー国王陛下と巨人殿のご厚意により、この新しい『農地』に住める事になった。


 だが皆には……今までの名や功も捨て、一介の農民となることを許してほしい。


 不名誉と思うものもいるだろう……これも我が身の力の及ばぬゆえだ。


 このアンノマイヤ・アイヤネン叔伯爵……いや、この名も家名も捨てねばならぬか。 巨人殿に頂いた名『庵野ちゃんアンノチャーン』で通すか。


 このアンノチャーン……皆に、謝罪する」


 急きょ設えられた演台……その上で、アンノマイヤは目の前の元ビョルンストルム王室付き近衛兵の生存者三〇名に向かって頭を下げた。


 そして……そのまましばらく、頭を上げなかった。


 アンノマイヤの謝罪、その言葉に……亡国の兵士たちが、一斉に体を震わせていた。


 無言で首を垂れる者……肩を震わせて涙をこらえる者、すでに声を殺して泣いている者。


 その中には……攻防戦や退却戦で戦死した同僚の遺品を手にする者もいた。


 彼らは一様に、感情の爆発を堪えていた。 それが、よくわかった。


 わめき散らしても構わない境遇であろうに……アンノマイヤは、そんな彼らの気高さを肌で感じていた。


 それゆえに……騎士の誇りを叩き壊したような気がして、アンノマイヤは申し訳なく思うのだ。


 ここは……例の、ワダヤマヒロシが魔法で作った『農園』である。


 円形の農場、その全敷地が最大地下一〇〇〇メートルまで掘り起こされたという特殊な耕作地であり……敷地内移動用の通路もないという変わった農地。


 当然、集会ができるような広場もない……その場にいた全員が、柔らかい土の上に立ちにくそうにしながらアンノマイヤの言葉に耳を傾けていた。


 良く耕された畑の真ん中で、何らかの集団が決起集会をやっている……そのように見えなくもない。


 はたから見れば、滑稽な光景とも言って良い。


 なお……ワダヤマヒロシ達『風水害対策本部』の一行は、アンノマイヤを置いて冒険者の仕事に出かけている。


 まあ……冒険者と言うより狩猟者と言った方が正しいのかもしれないが。


 涙ぐむ近衛隊の姿を見渡すアンノマイヤ。


 と……アンノマイヤは、身体から力が抜けて行くのを感じていた。


「(何はともあれ……一息つけそうだ。


 アンナカーリナ殿下と共に王宮から脱出した近衛隊に泣き付かれた時は……その責任の重さに往生したが。


 王国脱出の指揮を執って欲しいなどと……私は確かに武辺には自信があるが、そもそも王室付きの祭典礼長でしかないのだが。


 とにかく……伯爵家の親族に連なるものとして、貴族としての責任は、果たしたか……)」


 己の役目と決めた王女殿下の脱出を無事成し遂げ、ふいに燃え尽きたようなため息を見せるアンノマイヤ。


 と……老境に近い騎士の一人が、アンノマイヤの前にふいに一歩前に進み出た。


 その腕には幼児が抱かれていた……一歳二か月のアンナカーリナ・ビョルンストルム王女であった。


 老騎士は王女を抱えたまま……軍隊式にその場で回れ右し、近衛兵たちに声をかけた。


「傾注!!」


 ガッ!!


 老騎士の指示のもと、近衛兵30名が一斉に姿勢を正し、老騎士に視線を向けた。


 鉄の意志と忠誠心が、老騎士の腕の王位継承者に向けられていた。


 老騎士は、続ける。


「これより我らは……雌伏に入る。


 いつまでかは、分からない。


 何年、何十年、あるいはそれ以上の時間がかかる間も知れぬ……しかし!!


 しかし我らは……必ず王家の復興を成し遂げるであろう!!


 またそれを、アンナカーリナ・ビョルンストルム親王殿下に誓おう!!」


 その言葉に……近衛兵たちが一斉に歓声で応える。


「……へ?」


 その成り行きに……アンノマイヤは、目を丸くした。


 彼女は先程……過去を捨てて農民になれ、と言ったはずなのだが。


 老騎士は続ける。


「アンノマイヤ・アイヤネン叔伯爵は、我々にこの素晴らしい地に住む機会を与えて下さった。


 なれば我々は、この地で再び力を蓄え、ベルリッツ帝国の打倒とビョルンストルム王国の国土回復を図るしかない。


 そうでなければ……何のための臣か。


 我々は不忠の臣か!?」


「「「「「 否!! 」」」」」


「アンノマイヤ叔伯爵の義に唾を吐く不義の徒か!?」


「「「「「 否!! 」」」」」


「巨人殿の仁に胡坐をかく堕情なる虫けらか!?」


「「「「「 否!! 」」」」」


「では我らがなすべきことを言え!!!」


「「「「ビョルンストルム王国の速やかなる復興!!」」」」


「然り!!


 我らがそれを忘れぬ限り、それは必ず成し遂げられるであろう!!」


「「「「「 応!! 」」」」」


「ビョルンストルム王国の為に!!」


「「「「 アンナカーリナ・ビョルンストルム親王殿下の為に!! 」」」」


 怒号のようなやり取りは、そのまま大歓声になった。


 放心したようにそれを眺めるアンノマイヤ……それに向かって、満足そうに老騎士が笑みを見せる。


「……感謝します、アンノマイヤ・アイヤネン叔伯爵。


 国を失った我々に……よもや、このような『城塞都市』を与えて下さるとは。


 ユークリッド・ハンガー国王陛下の寛容さもさることながら……それを勝ち取る叔伯爵の智謀たるや。


 末永く歴史に残ることは間違いないでしょう!!」


「……『城塞都市』? ああ……やはり、そうみえるか……」


 老騎士の言葉に応じながら、アンノマイヤは……ぺちん、と自らの額を叩いた。


 そう……この土地、ワダヤマヒロシが土魔法で開拓した半径一キロの『円形の農地』。


 半径一キロの半球状、深さ一キロまで掘削されたこの『農地』はしかし……地下に眠る巨大な自然石や未知の鉱脈も含め、地層ごと丸々掘り起し、撹拌し……その重量物を半球の外側に押しやっていた。


 つまり。


 地下の微生物(や撹拌に巻き込んだ魔物たちの死体)を含め、栄養に富んだ柔らかい土の土地の……その外周。


 そこには一〇メートル以上……ワダヤマヒロシの身長にせまる、天然(?)の岩の城壁が出来上がっていたのだ。


 それはおそらく……軍人に見せてはいけないヤーツ。


 もちろんちゃんと手を加えないと城壁にはならないであろうが……それでも侵入者の攻撃ルートをかなり限定できるであろう。


 まさしくそれは……城塞の外壁であった。


 それが完全に円形となって『農地』を取り囲む。


 外敵の侵入から隔てられた土地にはいずれ、町もできるであろう。


 ならばそれは……『城塞都市』としか、言いようがなかった。


 王位継承者まで抱えた亡国の騎士たちにはそれは……国家再興の地としか映らないであろう。


「(あー……正直私は……彼らに農民や小作人となって貰って、近衛隊の責任者代理の任から離れられたと思っていたんだが……)」


 額に手を置きながら、アンノマイヤは……脳裏に浮かんだ巨人の笑顔、それが少し遠くなったような気がしていた。

「……要するにだ。


 前回は、範囲指定に失敗したのがいけなかった……んだと思うんだよな」


 山道を歩きながら、ワダヤマヒロシは一人、呟いていた。


「……? ご主人さま、『何の話』ですか……?」


 右ポケットの住人、ルビンスカヤがワダヤマヒロシを見上げながら、不思議そうに問いかける。


 いつもは花のような笑顔を見せる顔が、今は斜めに傾いていた。


「何の話って……こないだの。


 土魔法を使って、高い塀に囲まれた農地を造ったことだよ……ルビンスカヤ。


 自分でやっといてなんだけど……刑務所やあやしい教団の本拠地かってーの」


 セルフ突っ込みしながら、ルビンスカヤに応えるワダヤマヒロシ。


 しかし……ルビンスカヤの疑問は、まだ解消していないようであった。


「土魔法? 農地? いったい、何のお話ですか?」 


「………」


 ワダヤマヒロシは、ルビンスカヤの言葉に……無言になった。


「(ああ……そうか。


 あの時、一緒にいたのは……『ルビンスキー』の方だったな。


 なるほど……『恐怖』をきっかけに『ルビンスカヤ』から『ルビンスキー』が出てくるわけか。


 記憶の連続性はない訳か……あるいはそのフリを貫いているのか。


 よっぽど怖かったんだな……)


 何でもないよ、ルビンスカヤ」


 できるだけ優しい口調で言うワダヤマヒロシに、ルビンスカヤは生来の笑顔を見せる。


「……? そうですか」


 にぱー、とでもいうのだろうか。


 返答しながら見せる少女特有の無防備な笑顔に、後光が差しているようにも見える。


 とても多重人格者とは思えない可憐な笑顔だった。

 ルビンスカヤの中にはもう一人……『ルビンスキー』という人格が誕生していた。


 厨二臭い言動で高笑いする、『破戒(お漏らしと野外露出)』を司る邪神の高司祭だそうだ。


 ……ちなみにルビンスカヤとルビンスキーのジョブは『修道闘士』。


 要するに……少林寺のお坊さん的なサムシング。


 刃物を使わず己の肉体で相手を倒し、回復魔法も少し使えるという塩梅である。


 若干ネタバレにはなるが……ルビンスカヤは『回復魔法』に長け、ルビンスキーは戦闘力に長けるという違いがある。


 仕える神は、このハンガー王国の主神でもある『再生神』。破壊と再生を司るという神である。


 そしてルビンスキーは……野分の『パワハラレベリング』による恐怖によって、人格を分けることとなったのである。


 すなわち……『多重人格症』か、重度の『中二病』である。


 中二病患者に言わせれば……それこそ、『SSS級厨二病』かもしれない。


 『邪神の高司祭にして二重人格設定なんて……詰め込みすぎだろ!?』と。


 なお。


 もしルビンスカヤが『多重人格症』であった場合……今は『ルビンスキー』だけのようだが、そのうちどんどん増殖していくであろう。


 世の中には、『二重人格』どころか『二〇人格』『三〇人格』の人間もいるという。


 なぜなら……『二重人格』というのは、さらなる『多重人格』へ進行する初期症状でしかないのだから。


 むしろ、『二重』で済んでいるケースの方が、少ないのだから。


 ヒトの人格を作っているのは……『記憶のつらなり』。


 経験や体験の記憶を、産まれた瞬間から順に連ねていく脳内の一本の紐。


 『人格線』や『世界線』とも言う。


 多重人格とは、この紐が分断され、あるいは新たに構築された状態を言う。


 それぞれが表に出ている間だけ、それぞれが勝手にそれぞれの思考をするのだ。


 それゆえに、それぞれの人格同士で記憶のリンクはないし、経験のリンクもない。


 多重人格は、同時に存在できないのだ。


 一定の層にわかりやすく言えば、多重人格とは『マルチタスク』ではなく『疑似マルチタスク』。


 表面上同時に存在しているように見えても、一つのタスクが進行中は、他のタスクは停止しているのだ。


 なぜなら……人間はRISCプロセッサを搭載していないから。


 人類の誕生である二五万年前おおむかしに東アフリカで開発されたCISCプロセッサを、未だに使っているから。


 話が反れたがつまり、分離した人格同士で、同じ記憶を共有することはあり得ない。


 交換日記でもしない限りは。


 なぜなら……一方が存在している時、それ以外の人格は、時が止まっているのだから。


 創作でよくある、『二重人格』同士で口論するという事はあり得ないのだ。


 あるとすれば……『二重人格』の振りをしている痛い子であった場合のみ。


 おそらく『中二病』患者かそのお友達だ。


「(『厨二』だったら可愛げもあるんだがなあ……せめてそうである事を祈るしかないな……)」


 無言のままルビンスカヤの頭に小指を伸ばすワダヤマヒロシ。


 頭を撫でるためだった。


 ルビンスカヤは素直にそれを受け入れ、またも花のような笑顔を見せるのだった。

「キモイ、キモイ。


 (あるじ)よ、また顔がキモくなっておるぞ」


 と、不意に左ポケットからブーイングが来た。


 野分であった。


 野分は左ポケットからぴょこんと頭を出すと、そのままけだるそうにふちに顎を載せる。


 ちなみにもう一人の右ポケットの住人アンノマイヤは、例の刑務所だか流刑地だかに置いてきた。


 そこで国家再興の誓いが行われているのは前述の通りだ。


「う……そ、そっか……」


 若干傷ついた様子で……とりあえず笑うしかない日本人丸出しのワダヤマヒロシは、ひきつった笑顔を見せながら野分に問いかける。


「それより、『例の場所』は、この道で合ってるのか?」


 その言葉に不満そうに鼻息を吹き出しながら、野分が続ける。


「うむ。 間違いはあるまいよ。


 今朝アサイチでギルドに行って、聞いてきたからの。


 で……主よ。


 今日は一体、どうしたのじゃ。


 『クエスト』を受けずに『ダンジョンの場所』だけ聞いてこい、とは。


 とりあえずその場所は聞いてきたのじゃが……主よ、正気か?


 主には、冒険者として致命的な欠陥があるのを忘れているのではないか?」


 野分は、わりと本気で心配そうにしながら、ワダヤマヒロシを眺めていた。


 そう、野分の言葉通り……ワダヤマヒロシには、冒険者として致命的な欠陥があった。


 この『異世界』にも、魔物と宝箱でお馴染み『ダンジョン』はあった。


 塔タイプであったり、地下迷宮タイプであったり、建築物タイプであったり。


 その最深部では『ボス』であったり『ダンジョンマスター』であったりがいて、クリアすると激レアもののアイテムや装備品、最近ではユニークスキルが手に入ることもあるという、冒険者垂涎のアスレチック施設(?)だ。


 また最深部に至る途上でも中ボスなるものがいて、そこからも高性能なアイテムがドロップするという話だ。


 だが当然それは命がけであり、迫りくる魔物もまた強力ななものが多いという。


 そして……その危険に見合うものが入手できるのが『ダンジョン』なのである。


 まさにそこには『冒険者の夢』が詰まっていた。


 しかし。


「うるせーわ!!


 どうせ俺の身体じゃ、ダンジョンに潜れねーわ!!」


 カチンときたのか……意外と強い口調で突っ込むワダヤマヒロシ。


 そう。


 それは……ジェットコースターで一三〇センチ以下の子供が引きずり降ろされるのと逆。


 身長一七メートルの巨人ワダヤマヒロシは……物理的にダンジョンに入れないのである。


 それはまさに、冒険者としては致命的な欠陥であった。


 『えっ冒険者なのにダンジョンに入れなんて!』と、自分の年収の低さに驚くお姉さんまで驚くであろう。


 それゆえに……ワダヤマヒロシのパーティ『風水害対策本部』は、野外での討伐や殲滅クエストしか受けられないのだ。


 もしこの世界にワダヤマヒロシが入れるダンジョンがあったら……彼自身の法外な戦闘力により、今頃は金ぴかの激レア装備で身を固めていただろう。


 懸案である、『巨人向けの装備』も一発解決である。


 最も……そんな装備に見合う敵がごろごろいたら、この世はもっと混沌としているか、とっくに制覇されているはずであろうが。


「だから、ちげーよ。


 ダンジョンそのものに用があるんじゃねえよ。


 用があるのは……ダンジョンを含んだその地形、それに用があるんだよ」


「ダンジョンをふくんだそのちけい……」


 野分はゆっくりとそう言いながら、長考に至りそうな表情を見せて無言になった。


 おそらく……スキル『主従の宣誓』を使って、ワダヤマヒロシの『知識』を検索しているらしかった。


「……うまくいくかどうかはわかんねえけどな。


 ほら。


 俺、ダンジョンて、洞窟のイメージがあるから……」


「……ふむ、洞窟か。


 確かに地下のダンジョンは、鍾乳洞や溶岩洞をそのまま使用したり、改装してある場合が多いのう。


 まさか、一から人間が手掘りしたものはあるまいよ。


 ん?


 洞窟……溶岩洞か!!」


 と……あることに思い至った野分が、不意に大きな声を上げた。


「そうか。


 金属鉱床……いや、熱水イオン式の金鉱床か!!


 主よ、それを土魔法『土塊』で掘りだそうというのじゃな!?」


「……まあな。


 うまくいくかどうかは分からんけど。


 けど……地下一〇〇〇メートルも掘れば、なんか出てくるだろ」


「ふひ♪」


「ふひってなんだよ……ふひ♪」


 ワダヤマヒロシと野分は、お互いに少し悪い顔をして、熱い瞳を交わし合うのであった。


「………?」


 ルビンスカヤはただ一人状況が分からないまま……可憐な笑顔を斜めに傾けるのであった。

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