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俺の仲間が着地点を誤って困る件

 オタクとは、救いがたい生物である。


 どのような時でも、ふとした瞬間にアニメのお気に入りシーンが脳裏をよぎることがある。


 そして……それだけで脳内からアドレナリンがドバドバ溢れ出すことがある。


 ワダヤマヒロシもまたオタク……その脳内には、古いアニメのワンシーンが展開されていた。


「(ぬうおおおおおお!!!


 俺は汎用で人型な決戦兵器のアレ!!


 走って止まって受け止める例のアレだああああ!!!)」


 実際ワダヤマヒロシもまた、例のアレの例のあのシーンを思い出し……彼の脳はアドレナリンをドバドバと放出していた。


 そして……全力で街道を疾走している。


 街道を走る馬車があればそれを数メートルの余裕を持って飛び越し、横切る川は橋ごと飛び越えて見せる。


 なお……彼の現在の速度は、時速三〇〇キロほど。


 最高速度ではないが……ほぼ全速の中距離走だ。


 確実に疲労を数日引きずるペースだった。


 往路でも同様のペースにして、今回の復路でもほぼ同じペース。


 それを……アドレナリンの放出でごまかしている。


 そのために……ワダヤマヒロシのテンションもまた、おかしなことになっていた。


「あはははは!!


 何コレ、身体超重い!! 何コレ、空気超固い!!


 一週間ほど筋肉痛確定じゃん!!


 ていうか、心臓マヒで死ぬんじゃないの……ぷっ!!


 あーっはははは!!」


 鼻水を垂らしながら……いや、鼻からアドレナリンを垂れ流しながら走るワダヤマヒロシは今、孤高な存在だった。 エンガチョ的な意味で。


「……見えたっ!! ……えっ?」


 往路のスタート地点の森が見えたその瞬間……ワダヤマヒロシの顔が急に引き締る。


 ワダヤマヒロシの聴覚が、不吉な音色を捉えた気がしたからだった。


 それはまさしく……人の悲鳴のような。


 それを確認しようにも……残念ながら彼の聴覚は、人の一〇〇〇倍とはいかなかった。


 視覚聴覚においては、観測地点の高さの利点以外、それは全くの『人並み』だった。


「……くそっ!!


 『フィールド』ぜん……あれ? あれって『全開』だっけ? 『展開』だっけ?


 ……まあいいや。


 とりあえず『フオオオオオオオオオォォォッ!!』」


 おかしなテンションのまま……ワダヤマヒロシは元いた場所、激戦の地へ到着した。

 到着した瞬間、ワダヤマヒロシの思考が停止した。


 ビョルンストルム王国王室近衛兵。


 ……だったはずの遺体が、ゴロゴロと転がっていた。


 総勢で、五〇名ほどはいたはずの集団。


 それが今……半数は失われていた。


「……なっ……」


 息を飲むワダヤマヒロシ。


 その眼前で、今もその数を減らしていた。


 いや……刈り取られようとしていた。


 それは……統一された鎧に身を包んだ兵士の一団。


 狭い峠道を取り合うように、道の奥側と手前側で帝国と王国がぶつかり合っている。


 それはまさしく、人の集団と人の集団の、命を懸けたぶつかり合い。


 それは拮抗しているように見えたが……いや、押し返しているようにも見えた。


 兵士たちの死体が、こちら側にあるのがその証拠だった。


 よく見ればその死体……帝国側の方が数が多い。


 流石に狭い峠道の事、全軍が一度にぶつかり合うことは無いようだった。


 それは士気の違いか練度の違いか。


 しかし……帝国側は、道の奥の奥、見えなくなるまで帝国兵士の姿があった。


 圧倒的な数の差。


 ワダヤマヒロシは知らなかったが、その数……五〇対五〇〇。


 このままでは王室近衛団が擦り切れるのは、明らかだった。


 それでも王国側は……必死で押し返している。


 そしてそれを……ワダヤマヒロシが到着するまで続けていたのだ。


 それを理解した瞬間……ワダヤマヒロシに火がついていた。

 ワダヤマヒロシは、視線の操作でウィンドウを操作しながら……今まであまり開いていなかったページを開いていた。


 そして視線で……静かに選択する。


「スキル『主従の誓約』経由で『古竜の叡智』より引用。


 ……『竜の咆哮ドラゴンロア ☆☆ダブルブースト』!!


 『てめえら!! 俺の客になにやってくれてんだよ!!!!』」


 その瞬間……ワダヤマヒロシの口の前に、魔法陣のようなものが三重に発生した。


 少し遅れて……周囲の大気を、大音響が引き裂いた。


 まさしくそれは……竜の怒りの咆哮。


 そして……『それを聞いた敵は一定時間行動不可能』になった。


 急に抵抗が弱くなり、軍勢の接触面にいた帝国側の兵士が、一斉に刈り取られる。


 そこに、ワダヤマヒロシは突撃(チャージ)した。


「おりゃああああああ!!


 王国軍は退け!! あとは俺に任せろやああああ!!」


 その絶叫に……押しているはずの王国軍兵士が、恐怖の表情で道のわきに退避する。


 その確認も終わらないまま……ワダヤマヒロシは全力のトーキックを繰り出した。


 『巨人の突撃(ジャイアントチャージ)』。


 ワダヤマヒロシの勢い任せの蹴脚は、『通常の彼自身の数倍』の威力で敵を薙ぎ払っていた。


 その一撃で……黒く長い蛇のような縦列陣の先端、その一〇メートルが……血の霧となって消失した。


 それはまさしく……リニアモーターカーに轢かれたに等しい。


 辛うじて霧散されなかった遺体の一部が、後背の列に突っ込んでさらなる衝突事故を起こしたり、周囲の木々を薙ぎ払い、それが倒れてさらなる犠牲を増やす。


 しかし……その惨劇をもってしても、帝国軍の突進は止まらなかった。


 突撃を鼓舞する叫びがほとんど恐怖の悲鳴に変わっていても、である。


「……どんだけ士気が高いんだよ。


 これでだめなら……また魔法で森ごと環境破壊するしかないな。


 同じく『古竜の叡智』より引用。


 ……『竜の息吹(ドラゴンブレス) ☆☆(ダブルブースト)』!!


 『お前らいい加減にしろよ!!』」


 ワダヤマヒロシの絶叫の前に、再び魔法陣のようなものが三重に発生した。


 少し遅れて……勢いのある火炎が、真っすぐに縦列陣に伸びて行く。


 ドラゴンブレス。


 古来より脅威とされる竜の、もっとも強力な攻撃手段の一つだ。


 その強力な火炎の前に……縦列陣とは運が悪かった。


 おそらく、最も効率的に敵を焼死させることができたであろう。


 実際……見通すことができる範囲、その全ての帝国兵士が焼死していた。


 手前にいた者など、遺体も残らなかった。


 しかし。


「!!。 コノヤロー……全滅もいとわねえってことかよ……」


 苦々しい口調で言うワダヤマヒロシ。


 その目の前に……峠道の向こう側から、新たに帝国兵士が現れていた。


 ただし……総勢一〇〇名。


 ワダヤマヒロシの言葉通り、八〇パーセントを失ってなお、突撃してくる軍隊。


 それは……彼の『知識』に該当する物は少なかった。


 彼は思わずその名を口にした。


「……大日本帝国軍人かよ……軍人勅諭でも叩き込まれてんのか……?


 仕方ねえ……環境破壊すっか……」


 そう言いながら、彼が『風魔法』を準備しようとした時である。


 いつの間にか……彼の身体をよじ登るものがいた。


 それは見る間に上ってゆき……定位置である左ポケットに収まるのだった。


あるじ、なかなか面白い事をやっておるのう!!


 のうのう!!」


 野分のわきは言いながら、これ以上ないくらいにイイ顔をワダヤマヒロシに向けるのだった。

「……おせえよ、野分。 どこに行ってたんだよ」


 苦笑しながら言うワダヤマヒロシ。


 それに野分は、きょとん、という顔を見せる。


「はれ?


 主には言っておったはずじゃがのう。


 もう忘れてしまったのかのう。


 若年性アルツハイマーと言う奴かのう?


 主、普段から脳を使わないと……老人みたいに脳細胞が死滅してしまうんじゃがのう?」


「……うるせーわ!! そのネタは、さっきやったんだよ!!


 ……あー、そっか。


 ルビンスカヤのパワーレベリングっつってたな」


 ワダヤマヒロシのその言葉に、野分はイイ顔からさらにイイ顔を見せる。


「うむ。


 あの娘、ゴブリン一〇〇匹でも倒せば上出来じゃと思っておったがの。


 今日は……アタリの日じゃった!!」


 むふー。


 野分の鼻の穴が思い切り大きくなっていた。


「……アタリの日?」


「うむ……奴らの世界にも、サミットでもあったのかのう?


 それとも、迫りくる人口爆発の対策会議でもしておったのか…」


「………? いったい何の話……ぬおっ!!」


「『天罰覿面てんばつてきめん』!!!」


 と……ふいに。


 少女のものと思しき絶叫と大鳴りの稲妻が一つ、帝国軍残党の中心に叩きつけられていた。


 瞬間的に、視界がすべて光で覆われる。


 その急な落雷に、ワダヤマヒロシでさえ身構える……やがて。


 閃光に奪われた視界が徐々に戻ってきて……そこにある光景に、ワダヤマヒロシは目を疑った。


 それは……まさしく天災。


 大音量の雷が、数本まとめて落ちてきたかのような光景だった。


 そこから溢れ出すのは……絶命に伴う悲鳴。


 そして、それを与える者の呼気。


 ワダヤマヒロシは知らなかったが……それは、この世界において『高位の神官』にしか使えない上級の『光魔法』であった。


 そしてそれを行使した少女は……再び絶叫する!!


「『複製・神の篭手レプリカ・ガントレット!!』」


 その少女がそう叫ぶと……その両腕に、白銀色の篭手が顕現した。


 その少女は…そのまま、『天罰』である雷を受けてもなお立っていたもの、生き残っていたものに襲い掛かる!!!


「でえりゃゃああああ!!!」


 それは……とても少女のものとは思えない、化鳥けちょうのような叫び声。


 だがその白銀の拳の破壊力は……まさしく化鳥そのものだった。


 どばあああん!!


 訓練された大の男が、その一撃で数メートルは吹き飛ばされてゆく。


 年端もいかないと思われる少女から繰り出される、砲弾のような一撃。


 そのまま少女は……次の獲物に襲い掛かってゆく。


 そして……次へ、次へ。


 帝国軍兵士が、次々戦闘不能になってゆく。


 繰り広げられる惨劇に、唖然とするワダヤマヒロシ。


 ふと気が付くと……先ほどの雷撃を含めると、その場に立っている帝国軍兵士の姿が、いつの間にか、全くなくなっていた。

 荒い呼吸を見せる少女……全身で息をしている。


 その着衣は……血まみれどころか、自らの力の反動で、ほとんど破れていた。


 半裸以上に全裸に近いその姿。


 ワダヤマヒロシは……その光景に絶句した。


 そこにいたのは……ルビンスカヤではなかった。


 彼が知る、ルビンスカヤは……もういなかった。


 彼の目の前にいたもの、一〇〇名余の帝国軍兵士を文字通り『打倒』したもの。


 総勢五〇〇名の帝国軍兵士の屍の上に立つ者。


 その少女の名は……。


「ふ…ふふ……ふはははは!!


 せ、せ、拙者は……『ルビンスキー』!!


 は、は、破戒とお漏らしと野外露出を司る邪神『破戒神』の司祭長にゴザルぞ!!」


 野分の『パワーレベリング』を受け、目をぐるぐるとナルトのようにし……状態異常(混乱)と状態異常(厨二)を患ったルビンスカヤ、『ルビンスキー』がこの世に爆誕していた。

・(若干シリアス入りまーすw)

「(ふふん……まさに、一方的な虐殺じゃのう。


 主殿もそうじゃが……新人教育のかわいがった甲斐があったというものじゃ)」


 目の前のルビンスキールビンスカヤの成長(?)を満足そうに眺めながら、野分はフンスフンスフンス。


 と。


 ふと、あることに気付く。


 約五〇〇名の武装集団。


 それを一方的に蹂躙できたのは良いとして……いや、あまりにも一方的過ぎではなかったか、と。


「(ふむ……敵に魔法を使える者がいなかったようじゃな……。


 装備は統一された立派なものじゃが……もしや全員、農民上がりかの?


 それにしては……なかなかの統率であったし、逃げ出すものもおらんかったようじゃが……)」


 逃走しないという事は……死を恐れないという事。


 つまり、死兵。


 戦場において、一定数そういう者はいるが……全員が全員死兵であるという軍隊は珍しい。


 と言うより……そんな軍隊、この世に存在するのだろうか。


 それは……よほど特殊な訓練を受けたためか、あるいは……洗脳されたような……?


「(そんなことより、主殿は今日もデカいのう!!)」


 もう一度フンスフンスフンスしながら、野分はワダヤマヒロシの顔を見上げた。


 今回の騒動の核心となる部分、それに対する考察を……野分は、考えるのをやめた。


 また……これがワダヤマヒロシの生涯初の対人戦闘であったという事にも気付いていなかった。

「ふはははは!!


 今一度いう、拙者は……『ルビンスキー』!!


 破戒とお漏らしと野外露出を司る邪神『破戒神』の司祭長にゴザル!!」


 野分の『パワーレベリング』を受け、目をぐるぐるとナルトのようにし……状態異常(混乱)と状態異常(厨二)を患ったルビンスカヤ、『ルビンスキー』がこの世に爆誕していた。


「という事は……破戒とお漏らしと野外露出、やっちゃったんだ……。


 それにゴザルの人かよ……ていうか……」


 ぺちん。


 言いながらワダヤマヒロシは、自分で自分にアイアンクローをかけるように額に手をあてながら……思わずその場に座り込んでいた。


 目の前の光景……ゲルリッツ帝国軍の兵士一〇〇人の骸の上に立ち、高笑いする『ルビンスカヤ』改め『ルビンスキー』。


 ほんの数時間前までは、花のような笑顔を振りまいていた少女……その面影は、今は全くなかった。


「なにその男っぽい名前……なにそのAVの神様……突っ込み待ちなのか?


 突っ込んだら負けなのか?


 わかんねえ……。


 いまこそこの言葉にふさわしい状況はねえよ……『どうしてこうなった?』」


 思わず呟くワダヤマヒロシ。

 

「ふふん。


 我にかかれば、パワーレベリングなど容易い事じゃ。


 こやつはもう、そこいらの冒険者など足元にも及ばんぞ」


 左ポケットの中から、ワダヤマヒロシの呟きにフンスと応じる野分。


 それにワダヤマヒロシは……全力で突っ込んでいた。


「足元にも及ばんどころか……完全にぶっちぎってるじゃねーか!


 どこの世界に一〇〇人斬りする冒険者がいるんだよ!


 ほとんど死刑執行人じゃねーか!?


 ……って、そこじゃない!!


 どうしたんだよ、ルビンスカヤは!!


 何がルビンスキーだ!?


 脳内の『世界線』きおくのつらなりぶっちぎって、別人格が誕生してんじゃねーか!?」


「なぁに。


 ずいぶん頼もしく、勇ましくなって良かったではないか。


 ……あ奴はなかなか……運がイイ!!


 その辺のゴブリンを一〇〇匹も倒せれば上出来と思っておったが……なんと!!


 上位ゴブリンだけならまだしも……なんと!!


 たまたま、ゴブリンキングにゴブリンクイーンにゴブリンジェネラルにゴブリン大統領にゴブリン大統領夫人にゴブリン提督にゴブリン書記長にゴブリン首相にゴブリンお館様にゴブリン内閣総理大臣がいたのじゃ!!


 それをあの娘……草でも刈る様にばっこんばっこん殴り倒していったのじゃ!!


 うぅっ……な、涙が……あの娘、立派になりおって。


 もう、経験値なんかうっはうはじゃ!!」


「国際サミットかよ!! ゴブリンの世界、政治的にどんだけ近代化されてんだよ!!


 それを無政府状態にしたら……ゴブリン戦国時代に突入じゃねーか!!


 応仁の乱か!? 応仁の乱なのか!?


 それにそもそも……パワーレベリングって、そういうもんじゃねーだろ!!??


 親鳥がヒナに餌を与えるように、死にかけた格上の敵のとどめだけ差させるとか、あるいは強いパーティの端っこに置いといて、経験値だけ分配するとか……それがパワーレベリングだろ!?


 本人を無理やり最前線に置くとか……それ、パワーハラスメントレベリングじゃねーか!!」


 立て続けにそこまで突っ込むと……ワダヤマヒロシは頭を抱えていた。


「おお。 主、うまいことを言うのう!!


 じゃが……心配するな。


 ちゃんと支援魔法はかけておいたのじゃぞ?


 牙と爪の攻撃力を上げる『ドラゴンタスク』、鱗の防御力を上げる『ドラゴンシールド』、あと『主従の誓約』から『巨人の咆哮』と『巨人の突撃』を引用。


 立派な『戦士ファイター』になったではないか!!」


「『戦士ファイター』っつーか、『近接格闘家インファイター』だよね、あれ!?


 ルビンスカヤって……『僧侶』とか『神官』とかそっち系じゃなかったの!!??


 少林寺のお坊さん的なサムシングになっちゃってんじゃん!!


 ……それにしたって……」


 そこまで言ったところで、ワダヤマヒロシは大きくため息を付いた。


「……どうすんだ、俺。


 なんか勢いで、『ベルリッツ帝国』とやらに喧嘩を売ってしまった訳なんだが」


「そうなのか、主。


 じゃが……気に知ることはあるまい。


 ほれ、『死人に口なし』というではないか!」


「……あ……」


 野分の言葉に……ワダヤマヒロシは、思わず納得する。


 目の前の、一面の死体。


 ルビンスカヤがその上に乗って哄笑しているが、確かに……この戦闘を見て生き残っている者は、『帝国』側にはいないようだった。


「……なんなら、あいつらも始末しておこうかの?」


 そう言いながらビョルンストルム王室近衛兵の生き残りを指さす野分。


 指さされた兵士たちは、一様にびっくんと身体を震わせていた。


「やめて、それ。


 俺、もう少し平和に冒険者生活続けたいから」


「……まあ、それも良かろう。


 さて、戦利品の獲得と行こうか」


 そういうと野分は、するするとワダヤマヒロシの身体を下りてゆくと、ててっと屍の山に登る。


 そしてその頂上にいた『ルビンスキー』の頭をぺちんと叩いた。


「こらっ、『ルビ』!! さっさと正気に戻らんか」


「……あ、あれ?


 『お師匠様』、ここは一体……私、何でこんな格好を……ひいい!!


 したしたした死体がこここここんこんこんなにににににっ!!」


 正気に戻って、愕然とするルビンスカヤ。


 それに野分は、静かに続ける。


「いいから、ホレ。 さっさと戦利品を集めんか」


 言いながら、死体の懐に手を突っ込む野分。


 ……どうやら、金目のものを探しているらしかった。


 その行動に……ルビンスカヤは思わず絶叫した。


「ええええっ!?


 だ、ダメですよ、お師匠様……追いはぎなんて……人の道を外れます」


 おろおろしながら言うルビンスカヤ。


 それに野分は、ぎろり、と一瞥する。


「文句があるなら……また『パワーレベリング』してやろうか?」


「追いはぎします♪」


 野分の言葉に、素直な笑顔を見せるルビンスカヤ。


 苦労は人を育てるという事であろうか。


 ルビンスカヤもまた、イイ性格を獲得しつつあるようであった。


 嬉々として追いはぎを始める二人。


 その光景を見ている者がいた。


 ワダヤマヒロシと……亡国ビョルンストルム王室の元近衛兵たちだった。


「………」


 彼らは一様に無言……と言うより、口を開くことができなかった。


 ワダヤマヒロシとルビンスカヤの恐るべき戦闘能力を目の当たりにしたという事もあるし……何より彼らは近衛兵。


 死体から金品を漁るという現場に立ち会ったことはあまりなかった。


 しかも、それを為しているのは……恐るべき戦闘力を持った二人。


 良識があって然るべき、力を持つ者たちなのだ。


 つまり……『風水害対策本部』の面々が、彼らの常識が通用しない集団だという事をまざまざと見せつけられていた。


 亡国となったとはいえ……近衛兵は、エリート集団。 そもそも相容れるわけがない。


「………」


 彼らは一様に……なにか、とんでもないものに関わり合ってしまった気がして、無言になっていた。


 そしてその予想は、間違いではなかった。 ……たぶん。


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