プロローグ ~少年の旅立ちと転生の女神~
新規投稿です。
先にお断りをしておくと、一話当たりの原稿枚数は多くありません。
なぜなら……『文字数が増えるとシリアスに傾く病』に罹患しているからです。
あと、更新はかなり遅いです。
ブラウザバックに指を掛けながらお読みくださいw
2017/05/03追記
現在大工事中ですw
その時。
その部屋では……荘厳で、雄大な音楽が流れていた。
それはまさしく……この転生の間から、今から英雄になろうとする少年が異世界に旅立つのにふさわしい、雄々しいフルオーケストラだった。
すでに開かれた、異世界への扉。
それに吸い込まれながら……まばゆいほどの光に飲み込まれながら、少年は旅立とうとしていた。
そして……その少年は、振り返る。
自分を送り出そうとする美しい女神……『転生を司る女神』の御姿を、その瞳に焼き付けるために。
「ありがとう……ありがとう! 転生の女神タマキ様!!
わたくしワダヤマ ヒロシ、現世での逆境を糧にして……異世界で男になってまいります!!!!」
よほど興奮しているのか…少年は、敬礼まで見せながら女神タマキに言葉をかける。
女神タマキは……その可憐な口元に、女神にふさわしい微笑をたたえながら、少年に応じる。
「……はいっ。 期待しております、ワダヤマヒロシさま。
栄光に満ちた未来、そしてあなたの可能性を以って……どうかかの世界に平穏を。
勇敢なるあなたに……神の祝福を!!」
言いながらタマキが両手を上げて天を仰ぐと……転生の間に、完全に光が満ちた。
それはいよいよ……少年の転生の瞬間を迎える合図となっていた。
「いってきまああああああすううううう!!!
……げへげへ、ハーレムハーレムゥ♪
よおし、パパ、いっぱいホームラン打っちゃうぞおおお♪
……まあ、打席にさえ立ったことは無いけどっ。
めざせ、初打席スリーランホームランんんんん♪」
後半、不穏な言葉を残しながら……ワダヤマ少年は、光の中に消えていった。
『大きな』力を手にして……異世界に旅立っていったのだ。
「………」
その瞬間、転生を司る女神は光の爆発の余韻の中、何を思っていたのか……無言であった。
やがて、光の奔流が終息した。
『転生の間』にただ一人残されたのは……タマキのみであった。
と……ふいに、パチン、と指を鳴らす。
すると……『転生の間』に流れていた音楽が、唐突に消えた。
BGMは……自前の演出効果だったらしい。
当然のように舞い降りた沈黙。
その中でタマキは……静かに呟いていた。
「……ウザい。
最近の転生者は……なんであんなにキモいのばっかりなんだ?
死ねばいいのに。」
言いながらタマキは……冬場に熱い風呂に入ったお父さんのようなため息を付いていた。
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「……あ゛~あ゛。
なんで最近の日本の転生者は、あんなに『転生』ってものを素直に受け入れるんだろ。
それも……こっちが転生特典でユニークスキルを与えてることを知ってるみたいだったし。
それに……なんかわけわかんないこと言ってたね。
NARROW系? テンプーレ? モ・テモテ?
よくわかんないけど……まあ、一応希望は叶えてやったんだけど……」
どかっ。
転生の間の中央に設置された机、その上にぴょこんと飛び上がってお尻をのせるタマキ。
そこの顔から……先ほどまで見せていた可憐な微笑は、完全に消え去っていた。
半分あぐらをかいて座るそのさまは……思わず『三万円でどう?』と聞きたくなるようなビッチビチな姿だった。
「あ゛ー……もう一度言う。
死ねばいいのに。
……まあ、意趣返しはしてやったんだけど……」
よほど腹に据えかねていたのか、タマキは同じ言葉を繰り返していた。
その時だった。
転生の間に、新たな人影が立った。
しかしそれは……死後のさまよえる転生者の魂ではなかった。
タマキは、その名を口にした。
「あ…メグル先輩、ちっーす」
そこに現れたのは……タマキと同じ『転生を司る女神』、メグルと言った。
メグルは……タマキを見た瞬間、ため息とともに、目元を指で押さえていた。
「またあなたはそんな恰好を……女神としての品性を疑われますよ?」
「おっ? おっ?」
ぽふっ、ぽふっ。
メグルは言いながらタマキの足と尻を優しくたたき、姿勢を正させてから……乱れた服装を直してやる。
優しいお姉ちゃんと無軌道な妹、といった光景であった。
着衣の乱れが直ったか確認しながら、お姉ちゃん女神メグルは続けた。
「それより……ちゃんとお仕事は出来たのですか?
最近寒くなってきたので……今日は日本からだいたい四〇〇〇人は『お客さん』が来ますよ?
サボったり手を抜いていると……『仮免許』を取り上げますよ?」
立て続けに、恐ろしいことを言うメグル。
ここ十年の日本の一日平均の死亡者は、大規模災害時を除いて約三二〇〇人。
これは一年を通しての平均であるので……厳寒期など、五〇〇〇人を超えることがある。
察するに、メグルとタマキは日本担当の『転生の女神』であるらしかった。
ちなみに統計上……死亡者のうち、一一から一九歳は〇.一パーセント。
即ち……テンプレ転生主人公が、一日平均三.二人は誕生している計算である。
世にテンプレ転生ものの蔓延る所以であった。
そして……メグルが口にした『仮免許』という言葉。
どうやら……神様の世界にも、『免許』というものがあるらしかった。
まあ殺人にも『ライセンス』が必要らしいので……『転生』にも『免許』があったとしても不思議はない。
メグルの言葉に……タマキは、にへらー、と肩の力が脱けきった笑顔を見せる。
「ばっちりっす。
さっきの野郎ー?
なんかムカついたんでー?
取りあえず『β異世界群』に放り込んでやったっすー」
ぱちん。
……これは、メグルが自分のおでこを叩いた音だった。
メグルは、大きくため息を付いた。
「なんということを……いいですか?
我々が司る『転生』というものは、厳粛で厳格なものでなければならないのです。
『β異世界群』……通常のα異世界群と違って、独自の進化を遂げた強力な魔物や、特殊な生物たちが棲息する異世界に『気分』で転生させるなんて……あなたという」
「あーでもー?
『ぼぼぼ僕、童貞なんですけど……可愛い女の子と色んな事してみたいんです。
そんなチートなスキル、ありま』」
「タマキさん!!
なんでγ異世界群に送らなかったんですかっ!!?」
若干食い気味に言うタマキの言葉、それをさらに食いながら叫ぶメグル。
α、βときて次に来た、γ異世界群という言葉。
それはきっと……通常よりさらにアレがアレでアレな世界なんだろう。 おそらく。
「ま……まあ、良いでしょう。
引き続き、気を引き締めて『業務』を続けてくださいね」
「てぃーーっす」
メグルの言葉に、脱力しきった返事を返すタマキ。
いちおう、ちゃんと返事を返すくらいは尊敬しているらしい……それを『尊敬』と言って良いのかどうかは分からないが。
メグルはそれにため息を付きながら……自分の担当する『転生の間』に帰って行った。
必然的に、一人取り残される形となったタマキ。
「っしゃ!! やりますか!!」
ぱぁん、と両の頬を叩きながら……タマキは息吹いていた。
次の『お客さん』を迎えるためだった。
そして……表情を改める。
するとそこに……清楚で貞淑な女神様が現れた。
「『転生の間』へようこそ………さまよえる、憐れな魂よ。
お可哀想に………お気の毒ですが、あなたは亡くなってしまったのです……」
薄っすら涙を浮かべながら、慈愛に満ちた表情で言うタマキであった。
なお。
タマキの脳裏から……完全に、先のワダヤマヒロシの事は忘れ去られていた。