ダウンロード画面にて
自室に戻り明かりをつけて、ベッドにポスっと音を立てながら座る優。
そして、花音から受け取った白い箱を開けてみる。
中には、黒いゴーグルのような機械と、白くて四角い小さなカセットケース、そして充電コードと取り扱い説明書が入っていた。
さっそく、その割と分厚い取り扱い説明書を読むこと5分。
大体把握出来た優は、電源をつけてベッドに寝転ぶ。
すると、少しずつ眠くなるような感覚でまぶたが重くなってきて、目を閉じると意識が暗転した。
少し経った後、優が目を開けると、真っ暗な空間に自分がいることに気がついた。
すると、目の前に白い文字で無駄に長い文章が書かれたクリアボード出てくる。
そこには、利用規約が書かれており、優はその一つである記憶へのアクセスに目がとまった。
少し疑問には思ったが、とりあえず大体のことは目を通し、利用規約に同意するというボタンを押す。
つづいて、名前入力のボタンとキーボードが出てきたため、「ユウ」と打ち込む。
すると、優の視界が真っ白に染まる。
思わず目を閉じ、再び目を開けると、そこには……、
一人の美しい少女が椅子に座りながら、菜園でお茶を飲んでいる風景が広がっていた。
その少女は、優の方を向いて微笑んでこう言った。
「ようこそ、アヴァロン・ゲート・オンラインへ。私はフィーレ。少しお話に付き合って頂けませんか?」
その表情に見蕩れていた優はすぐにハッとして、少女の座っている椅子の向かいにある椅子に腰掛け、少女に話しかける。
「……君は誰?」
「先ほど申し上げたとおり、フィーレです。現在、あなたのアバターメイキング、クラス設定が行われているところです。私はその間、あなたに話し相手になってもらおうと思ってきただけですよ。」
そう言ってフィーレはまた微笑む。
「ふーん。ようするに、現在ダウンロード画面だから、待ってる間はNPCと話しておいてね、みたいな?」
「そうですね。その解釈で間違いはありません。一つ付け加えるなら、私が出てくるのは一部の特殊なプレイヤーのみですが。」
「え?普通はどうなるの?」
「意識を失わされて、全ての作業が終わった後に起こされます。」
「へー。なるほど。で、特殊って?ボクも普通の人だと思うんだけど。」
「特殊、というのはクラスですよ。」
「クラス?それって、ウォーリアーとかナイトとか?」
「はい。あなたはユニーククラスに選ばれたわけです。」
「ユニーククラス?」
そう言って、可愛く首をかしげる優。
「ええ。クラスというのは本来、ほぼランダムです。ユニーククラスというのは、そのままの意味である唯一のクラスです。あなただけに与えられたクラスですよ。」
「え?ボクが?……やった〜?」
「嬉しくなさそうですね?」
「イマイチ実感がわかなくて。」
「あ、そろそろ作業終了の時刻ですね。」
「あ、そうなんだ。……君は、NPCなんだよね?」
「……NPCという言葉が、プレイヤーでないキャラを指すならば正解です。ですが、私はNPCに意思がないかといわれるとそうではないと思います。私は少なくとも、自我のあるAIですから。」
「……じゃあ、また会えるかな?」
「……え?」
「え、あっ!そ、その、他意はなくて、君とまたこうしてお話したいな〜って思って……。」
「……そうですね。あなたが、この世界でも、向こうの世界でも、強くなれればまた会えますよ。」
「え、それはどういう……?」
「さて、制限時間です。では、このアヴァロン・ゲート・オンラインをお楽しみください。」
そう言って立ち上がり、きちっとした礼をするフィーレ。
「強くなって、迎えに来てくださいね。私のことを。」
そう言って微笑んだフィーレの表情を最後に、優の意識はまた暗転した。
優が消え、一人残された庭園の中で、フィーレはポツリとつぶやいた。
「……期待していますよ。ユウ様。」
そう呟いた彼女の顔は、まるで恋する乙女のような愛らしい表情だった。