オンラインゲームを始めよう
「えーと、姉さん。全く状況が把握出来てないから説明してくれる?」
両手を上げつつ優は花音にそんな言葉を投げる。
「えーっとね……。どこから説明したらいいかな?……咲!任せた!」
「……はぁ。大体そうなることは予想できてたよ。」
そう言ってため息を吐きながら優に説明を始める咲。
「ゆーくんはどこまで把握出来てる?」
「えっと、その箱に入ってるのが姉さんの最近ハマってるオンラインゲームだってことは。あと、なんかゲームの中に入れるってことくらい?それとずいぶん人気だってことかな。クラスメイトたちが話してた気がする。」
「……わりと結構理解出来てるね。βテスターって言葉はわかる?」
「ビーターとか言ってディスられる人?」
「それは黒の剣士さんだけだから……。というか、そのネタがわかるゆーくんに私はびっくりしてるんだけど……。
ともあれ、私と花音ちゃんはβテスト版のこのゲームをプレイしてたんだ。予約して。たまたま二人とも当たって出来てたんだけど、一応保険として当たらなかった時のために正式版の方もゆーくん名義で予約してたんだ。」
「そういえば今朝、姉さんもそんなこと言ってたっけ。」
「で、たまたま当たっちゃったと。」
「……ん?それなら俺じゃなくても、友達に上げればいいんじゃないの?」
「そんなこと怖くてできないよ!このゲームの人気、本当に恐ろしいんだよ?このゲーム一つで友情の崩壊なんてあっという間だよ!……それにさ、せっかくならゆーくんにやってほしいな。私は。」
「ボク、オンラインゲームなんて生まれてこの方したことないんだけど……。」
「え?そうなの?なんで?」
「……どうせやったとしてもぼっちプレイになっちゃうから。」
「ゆーのコミュ症っぷりはネット上でもひどいからね!」
そういって愉快そうに笑う花音。
「で、話を進めよ。ゆー。……やらない?オンラインゲーム。」
「……んー。でも、姉さん達は先にやってるってことは、レベルなんかも上がってるんでしょ?」
「あれ?ゆーくん、オンラインゲームやったことないのによく知ってるね。」
「オンラインゲーム関連のラノベやアニメは好きだから。」
「ゆーの指摘の通り、私たちのレベルは結構上がってるよ。ゆーが望むならパワーレベリングしてあげてもいいよ?」
「パワーレベリングってあれだよね?敵のレベルが高いところに連れて行って低い人のレベルを一気に上げるやつだよね?
……うーん、普通に楽しんじゃダメ?」
「楽しんでもいいけど、そのかわり、ぼっちの確率が発生するよ?オンラインゲームでぼっちは致命的だと思うけど……。」
「花音ちゃん、意地悪言わないの。ゆーくんがたとえレベル低くても、私たちはちゃんと友達でしょ?」
「じゃあ、低レベルのゆーをレイドに引っ張っていける?」
「ゆーくん!強く生きてね!」
「なんか、始めるっていう前に見放されたよ!?……わかった。まぁ、試しにやってみるね。楽しそうだし。」
「おお!ゆーが珍しく乗ってきた!よーし!お姉ちゃん頑張っちゃうぞー!」
「……花音ちゃんがこう言ってる時って、100%失敗するよね。」
「……それも、ただの失敗じゃなくてものすごい被害をこうむるパターンが多いよね。」
「ふたりとも、なんか言った?」
「「い、いや!なんでもないよ!!」」
「そう?なら、今日の……そうね、10時くらいに神殿集合でいい?」
そう言って、優にゲーム機の入った箱を押し付ける花音。
「姉さん、神殿って?」
「プレイヤーのリスポーン地点よ。初期プレイヤーのスタート地点でもあるの。とりあえず、ゆーはログイン出来たら立ってるだけでもいいから。黒い鎧を着た女の子と、巫女さんがいると思うから、それに話しかけてね。今から設定始めたら10時に間に合うから。あたしは、咲を家に送ってるくるわ。咲、行くわよ。」
「あ!待って、花音ちゃん!……ゆーくん、また後でね!」
そうして、コートをつかんで外に出ていく花音と、優に手を振りながら花音の後ろをついていく咲。
それを見送りつつ、渡された白い箱をぼんやりと優は眺めるのだった。