第二章 第七話 ~本戦開始~
「さて、予選がすべて終了したところで、トーナメント組み合わせの発表っす!」
興奮冷めやらぬ観客たちが、実況席のイブキの声を待つ。
長いタメを作った後、イブキはマイクに口を近づける。
「それでは、いきますよ〜!
第一試合 レイン選手VSフィーネ選手
第二試合 ロウ選手VSギン選手
第三試合 アアアア選手VSシャケ選手
第四試合 カノン選手VSテオ選手
第五試合 ゼツエイ選手VSナン選手
第六試合 ユウ選手VSサードレイ選手
第七試合 コーネリア選手VSトビタチ選手
第八試合 ベニツバキ選手VSマジンガー選手
以上です!
レイン選手とフィーネ選手は、このあとすぐ控え室に入って準備をお願いします!開始時刻は……」
イブキの声は、観客の歓声によってかき消された。
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観客席でたくさんの歓声があがっている頃、ユウとサキはコロシアムの近くの公園を散歩していた。
人がコロシアムに集中しているおかげか、公園には人通りが少ない。
「ゆーくん、あれ見て!コイがいるよ!」
池を指さして楽しそうに笑うサキを見て、ユウも釣られて微笑む。
「まるで、本当に生きてるみたいだね」
「うん。……きっと、本当に生きてるんだよ。このコイも、あそこのハトも、木も、NPCも。現実と、何一つ変わらないんだよ」
「……そう、だね」
その事は、テイマーという特異なクラスであるユウが一番理解していた。
ランも、ライムも、ディーさんも、立派な生き物だと。
僕らに襲いかかってくるモンスターも、プレイヤーも、何一つ変わらない、と。
「……僕らと何一つ、変わらない。モンスターも、NPCも、プレイヤーも」
「うん」
ユウの呟きにサキは頷く。
そのうなずきと共に、ユウの左手と自分の右手を重ねて。
「えっ、ちょっ、さーちゃん?」
「……ダメ、かな?」
いきなり手を繋がれて戸惑うユウに、頬を赤く染めながらサキは尋ねる。
その尋ね方も、態度も、やはり現実と寸分違わない。
「……ダメじゃないよ」
弱々しい力で重ねられたサキの手を、柔らかくユウの手が包む。
「えへへ……」
嬉しそうに笑うサキと、少し恥ずかしそうに空いている手で頬をかくユウ。
ゆっくりと、速度を合わせて歩き出す。
初々しいその二人のやりとりを、周りの人々は微笑ましく、または砂糖を吐きそうな顔で見守っていた。
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試合開始のゴングが鳴り響き、会場の喧騒が一気に静まり返る。
開始の音を聞いて、ゆっくりと目を開く少年。
「……レインさん、だっけ?」
「うん?どうしたんだい?破壊神君」
「うん、あのね……」
対戦相手と目を合わせ、少年はニコリと笑い。
「君じゃ相手にならないから、降伏してくれないかな?」
そう言い放った。
レインというプレイヤーは、いわゆる最前線攻略プレイヤーである。
このゲーム内において、屈指のプレイヤーなのは予選を勝ち上がってきたことにより明らか。
そんなプレイヤーに向け、フィーネが行った降伏勧告は。
「……舐めてんじゃねーぞ、クソガキが」
温厚と知られているレインを豹変させることしかできなかった。
「……残念。君じゃあさ、」
フィーネは本当に残念そうな顔をして。
「簡単に、壊れちゃうでしょ?」
禍々しく脈動し続ける赤黒い大剣を呼び出した。
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散歩を終え、帰ってきたユウは違和感を覚えた。
奇妙なほど、会場が静まり返っているのだ。
「あーあ、つまんないの」
その言葉が鼓膜を揺さぶった瞬間、首筋に冷たいモノが当てられる感覚がした。
本能的に察知してしまった。
“コレには勝てないと。”
「あ、君……」
そして、その声の主もユウに気がついてしまった。
そう、再び出会ってしまったのだ、彼らは。
「久しぶりだね!あの時よりも強くなった?」
少年の無邪気な声に、思わず震えてしまう。
同じくらいの背丈、人懐っこそうな笑みを浮かべているにも関わらず。
本能の警笛はなり止むことを知らない。
「…………ぅ、」
「?」
僕の返答を待っているんだ、と。
返答次第によっては殺される、と。
その事がどうしようもなく怖くて。
左手を、サキの右手と繋がってる左手を強く握った。
握ってしまった。
ユウの恐怖が、彼女に伝わってしまったのだ。
「……そうだね」
ならば、彼女のすることなんて、わかりきったも同然だろう。
「君よりも、ずっと強くなったよ」
そう、サキは言い切った。
有無を言わさぬ強い瞳でフィーネを見て。
「……さーちゃん」
その言葉を聞いて、何故か震えが止まった。
そして同時に、自分の情けなさに歯噛みした。
無性に苛立った。
だから、だから。
あんな事を言ってしまったのだろう。
「……フィーネ君」
「……ん?なんだい?」
同じ目線で、瞳と瞳をしっかり合わせて。
少年は、ハッキリとこう言った。
「トーナメント、勝ち上がってこい。僕が、君を」
フィーネの口角が上がるのが、ハッキリとわかった。
そして、フィーネの目に炎が宿る幻覚が見えた。
「全力をもって、叩き潰す!」
こうして、少年とフィーネの間に、約束ができた。
普段の彼ならこんな事は絶対、言わなかっただろう。
言えなかっただろう。
だが、何故かこの時は。
サキが隣にいた、この時だけは。
……フィーネに屈しちゃいけない気がしたのだろう。




