第二章 第三話 ~超えられないけれど、超えたい壁~
「……ははっ」
思わず笑い声が零れてしまう。
流石は姉さん、こればっかりは“予想外”だったよ。
黒く脈動し続ける剣を杖替わりにして、なんとか立っている姉さんに、心の中で賛辞を送る。
「…………僕の、負けだよ」
そう呟いて、仰向けに倒れる。
まさか、ディーさんを倒されるなんて思いもしなかった。
勝てるとは思っていなかったが、やはり少し悔しい。
「……まだ、負けるわけにはいかないわよ」
姉さんはそう呟きつつ、倒れている僕へ手を伸ばす。
先日作ってもらったコートの姿に戻った僕は、その手を取ってゆっくり起き上がらせてもらう。
「それで、学べたことはあった?」
「……うん」
姉さんの問いに頷く僕。
行動予測を戦闘に使うなんて、今日初めて試みたことだけれど、想像以上だった。
これなら、この力があれば、もしかしたら姉さんを超えることだって……
いや、それは無理だな。この人には一生勝てる気がしないや。
そう思いつつ、僕は未だ唖然としているギンさんたちの元へと戻るのだった。
二日後。
ついにPVP大会の日時が発表された。
開催は今週の土曜日。当日を含めて、あと残り6日だ。
となれば、レベル上げの終わった僕らのすることは一つ。
…………PVPの特訓だ。
「と、いうわけで。今回、あんた達の特訓相手になってもらう、イブキとマジンガーさん、そして……」
「お会いとうございました!姉様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう言って胸に飛び込もうとしてきた金髪ロールの少女を軽く吹っ飛ばす姉さん。
……さーちゃんが僕に飛びつく時も、あんな感じに見えているのだろうか?
「もう、姉様ったらイケズですわ!でも、そんなところも……」
頬を染めながらイヤンイヤンとクネクネする少女を、姉さんが冷たい目で睨んでいる。
「……こ、こほん!私の名前は《フランジュ》。黒騎士ファンクラブ会員No.21の、ベテランプレイヤーの一人でしてよ!」
「色々とツッコミどころ満載で凄く変な子だけど、実力は折り紙つきよ。基本的に男が嫌いだから、ギンとかは関わらないことをオススメするわ」
「お、おう。忠告ありがとよ……」
…………ちなみに、姉さんが解説している間もフランジュさんはずっと姉さんの隣でクネクネしていた。
実力は折り紙つきと言われて、「そんな、嬉しいですわ……姉様も私のこと……///」って顔を綻ばせてさらにクネクネしていた。
……さーちゃんも、傍から見たらこんな感じなのだろうか?
「続いて、マジンガーさん。無口で見た目が厳ついロボットスーツ姿だけれど、悪い人じゃないわ」
姉さんに紹介されたマジンガーさんは、少し照れくさそうに頬をかいている。その動作が紫色のスーツと噛み合っておらず、少しちぐはぐさが見受けられた。
「さて、次は……」
「はいはい!私、イブキっていいます!アヴァロンゲート広報部、見てくれている人いますか?いたら分かりやすいと思うんですけど……。まあいいです!職業は《忍者》!使う武器は手裏剣とクナイですね!好きな異性のタイプは……」
「そこまで」
「あだっ!?」
姉さんに紹介される前に、自己紹介を一気にまくし立てたイブキさんがチョップを食らった。
かなり痛かったらしく、痛みに身悶えしている。
「ま、コイツが全部説明しちゃったけど、ユニーククラスの一人よ。バカっぽいけど凄くずる賢いから気を付けてね」
「ずる賢いとは酷いですね!小賢しいだけですよ!」
「同じよ、意味。」
そんなわけで、紹介された三人を交互に見る。
……一番最初のフランジュさんとは、できれば戦いたくない…………。
二番目のマジンガーさんは、無口だけれど優しそうだし、戦闘経験も豊富そうな気がする……見た目からはだけれど。
最後のイブキさんは、一見ただの動きの速そうな少女にしか見えないが、彼女の動きの一つ一つには、一切の隙がない。
そう、一切隙がないのだ。それが何よりも恐ろしい。
……流石は姉さん。一癖も二癖もありそうなメンバーを一瞬にして集めてくれた。
フランジュさんはともかく、他の二人と戦うのはとてもいい経験になりそうだ。
「「よろしくお願いします!」」
ギンさんと声を揃えて頭を下げる。
さあ、特訓の始まりだ。




