間章 ~仲間~
~6月10日 午後9時30分 屍姫の大墳墓 最奥部~
白い光と、黒い影が交錯する。
純白の騎士礼装を身にまとった少年が、その身体とは不釣り合いな大剣を振るう度、黒い影はますます速くなる。
もはや、常人の目では追えないほど早い攻防が、そこでは繰り広げられていた。
「……ディーさん!」
『承知している!』
「『《聖なる剣》』」
声を揃えてそう叫ぶと同時に、大剣の刀身から巨大な光の奔流が放たれる。
しかし、黒い影も同じように漆黒の光の奔流を放ち、奔流同士がぶつかり合い、相殺される。
……ほんと、厄介なことこの上ない。
何が楽しくて、自分の影と闘わなきゃいけないんだか……
そう思いつつ、僕は目前の真っ黒な影に大剣を振るい続ける。
ディーさん、残り魔力は?
『26%。ディバインソード三本分、もしくはクラウソラス一本分である。』
……厳しいなぁ。
でも、ここまで削りあって分かってきたことがある。
こいつは、僕と全く同じ動きをする。
寸分違わず、僕のいつもの動きを真似ている。
……なら、勝つための手段は単純。
「今ここで、今までの僕を超えればいい……!」
それしかない。それがこいつに勝つ唯一の方法。
おそらく、みんなもそうやって勝ってきたのだろう。
ディーさん、いつでもクラウソラスが打てるように構えておいて。
『……了解した。』
司令を出しつつ、僕は高速で接近し、大剣を振り下ろす。
しかし、影がその程度の単調な攻撃をよけれないはずもなく、大剣は空を斬る。
僕のその隙を狙って、影が大剣を振るってくる。
もしも、いつもの僕なら、ここで相手が避けることを想定して、全力では絶対斬りかからない。
なら、そこにつけ入る隙がある!
僕は影の大剣の攻撃を敢えて受ける。
そうすれば、いつもの僕は確実に動揺する!
案の定、影は動きを少し鈍らせた。
その隙に、僕はこのスキルを叩き込む!
「『《剣よ、輝け》!』」
至近距離で放たれたその光は、本来ならば死霊や呪われた存在にしか効果はなく、ただの目くらましに過ぎない。
ただ、相手が影ならばどうなるのだろう?
これは、戦闘が始まってからディーさんとずっと相談してきたことだった。
ディーさんも影と戦ったことは無かったらしく、MPを一気に使用する《クラウソラス》は、そう連発できるスキルじゃない。
だから、この一瞬に賭けた。
効かなければ、僕はおそらくこのまま体力を持っていかれて負ける。
しかし、効けば。
これは、決定打になる。致命傷に、なりうる!
なら、賭けない道理はない。
このままやっていても、勝てる見込みなんてないのだから。
そう決断して放った一撃は、薄暗かった部屋の中を鮮やかに照らしだし。
少年を、影を、全てを飲み込んだ。
光が収まり、部屋が元の暗さへと戻る。
その中心でへたり込むのは、一人の少年。
「……勝った……の?」
そんなつぶやきが漏れる。
『……うむ。ユウ殿、お疲れ様だな。』
ディーさんが肯定してくれる。
……そっか、勝った……のか。
実感とともに、勝利の喜びが僕の心を包む。
なんとか、勝てた……
『それにしても、最後の作戦、ユウにしては、随分と大胆だったね。』
ランの声が僕の中で響く。
確かに、いつもなら絶対にあんな作戦は取らない。
刺し違えてでも勝とうなんて、絶対に思ったりしない。
ましてや、痛みを我慢してまで刺されにいったりなんて、絶対しない行動だろう。
……でも。
「……いつも通りじゃ、勝てなかっただろうから。」
なんとか、勝ててよかった。
『ユウ殿、そろそろ我も体力の限界だ。解除するぞ?』
「ああ、うん。お疲れ様、ディーさん。」
騎士礼装から、いつもの初期防具に戻った僕は立ち上がる。
「……よし、帰ろう!」
そう呟いて、部屋を後にした。
~午後11時すぎ 第十の街 酒場にて~
「ひとまず!ユウのクエストクリアを祝して!」
「「「乾杯!」」」
ジョッキを持って、コツンとぶつけ合う。
もちろんジョッキの中に入っているのはジュースです。
「んで、どうやって勝ったんだ?ユウ。」
「わざと攻撃を食らって、ゼロ距離からクラウソラスを打ってみました。」
そう説明すると、ギンさんは笑い出す。
「ユウにしては珍しいですね。いつも一定の距離を保って戦い続けてるのに。」
「同じことをしてても勝てないと思ったからね。」
「それで違うことをしようとして、わざと攻撃を食らうって……」
笑い転げてるギンさんと違って、ユズは呆れたようにため息を吐いている。
「おかしいかな?」
「「おかしいです!」」
声をハモらせた兄妹と笑いあい。
楽しい時間を僕らは過ごしていた。
願わくば、これが永遠に続けばと願って。
「……んじゃ、契約はここまで、だな。」
ポツリとギンさんが呟く。
「……そうですね。ここまでという約束でしたし。」
ユズも残念そうに俯く。
「…………うん、そうだね。」
僕も頷く。
やっぱり、少し残念だ。
短い期間とはいえ、一緒に遊んだ仲間と別れるのは。
「……あの、さ。」
僕は、無意識で二人に声をかけていた。
「…………もしも、ギンさんとユズがよければ、なんだけれど。」
二人の視線がこちらへ向く。
視線をしっかり受け止め、目を合わせながら僕は提案した。
「また、パーティーを組んで欲しい……です。」
僕は二人にはにかみながらそうお願いしたのだった。
すると、僕のその言葉を待っていたかのように、ギンさんはニヤリと口角を吊り上げ。
ユズも少し驚いたような表情をして、優しく微笑んだ。
「おう!これからもよろしくな、ユウ!」
「私達でよければ、いつでも呼んでくださいね。」
「……はい!」
そうして、僕ら三人の臨時パーティーは解散した。




