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弱虫テイマーは今日も頑張る。  作者: 一兄
1章 ~銀色の兄妹~
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第一章 第九話 ~王龍戦~

「しっかし、《黒騎士》ならともかく、《花巫女》とまで知り合いとは……お前も隅に置けないヤツだなぁ、ユウ?」


フリーズからようやく立ち直ったギンさんが、ニヤニヤしながら口を開く。


「……花巫女?さーちゃん、そんな呼ばれ方してるの?」


「うん。ゆーくん、知らなかったの?」


「あんまり人と話してなかったからね……」


ナン君の噂はよく聞くんだけどね。ハーレムパーティーだとかネト充爆発しろとか言われて、主に男性プレイヤーから嫉妬や恨みを買ってるみたいだし。


「まあ、サキの名前が出ることは少ないかもね。パーティー組んでるし、基本的に噂が流れる時は「《黒騎士》がまたやらかしたぞー」とかだし。」


そう言って苦笑する姉さん。

しかし、すぐに表情を変え、前へ振り向く。

振り向いた先には大量の飛竜(ワイバーン)達。


「……お出ましのようね。」


そう呟いて、黒い大剣を抜く。


「……ラン、戦闘準備。」


そう呟くと、僕の左手の紋章の中からいつもの幼竜姿のランが出てきて、目の前の飛竜に睨みをきかせる。

しかし、それを恐れることなく飛竜達は愚かにも突進しようと突っ込んできた。

……そうして、虐殺が始まった。




当然といえば当然なのだが、本物のドラゴンであるランの範囲攻撃は他のモンスターとは段違いな攻撃力を持っているわけで。

そんなランが後先考えずに本気の範囲魔法を放ち続ければ。

……一瞬で飛竜たちは溶けていきました。

まさかここまで圧倒的だとは僕ですら思わなかったよ……


「……私の出番、無いじゃない。」


姉さんがポツリと呟く。

いや、ランは雑魚処理が得意なだけであって、ボス戦ではあんまり役に立たないから……


「ま、まあ、楽が出来るに越したことはないじゃない?ね?姉さん。」


「……そういうものじゃないと思うのよねー。こういうのは苦労するからこそ楽しいっていうか……」


ぶつくさ言いながら沸き始めた飛竜に大剣を振り下ろす姉さん。

グシャっと嫌な音を立てつつ、飛竜はポリゴンとなって消えていく。

ランに命令を下しつつ、MPポーションをかけながら治癒魔法を使う僕。

こんな作業を、かれこれ四時間以上続けてます。

ぶっちゃけ、もう帰りたい。

ギンさんとユズとさーちゃんに至ってはなんか簡易的なテーブルを取り出して優雅にボードゲームしてるし。

さらっとそこにライムも参加してるし!


「……どうする?ユウ。お金もかなり溜まってきたし、そろそろ行っちゃう?ボス部屋。」


そう聞いてくる姉さんも随分暇そうだ。

というか向こうのテーブルを見てすごく混じりたそうにしてるし。


「……そうしよっか。」


そんなわけで、ボス部屋に行くことになりました。










~午後6時15分 竜の渓谷 『王龍の間』~


「……みんな、準備はいい?」


僕がそう声をかけると。

ギンさんはニヤリと口角を吊り上げて。

ユズは不安そうに両手で杖を抱えながらも、覚悟を決めたように顔を上げ。

さーちゃんは僕に向かって微笑んで。

姉さんはいつになく真剣な顔で頷いた。


……よし。


「行こうか。」


人が入るには大きすぎるドアを、ゆっくりと押した。




ドアを開けた先は、獰猛な龍の住処とは思えないほど整理整頓が行き届いていた。

そして、その中心には一匹の巨大な龍がおり、穏やかな目でこちらを見つめていた。

巨大な龍は、僕と視線をあわせると、何故か少しだけ目を細めた。


『……ほう。』


ポツリとそうつぶやくと、視線を僕から逸らした。


『……旅人よ、そなたらの力、見極めさせてもらおう!』


龍は大声を張り上げて、そう宣言する。

同時に、ゆっくりと四本足で立ち上がる。


『来るがいい!』


咆吼が部屋中に響く。

その咆吼を合図に、ギンさんと姉さんが走り出した。


「はぁッ!」


姉さんが声とともに大剣を振り下ろすが、簡単によけられてしまう。

しかし、それも想定済み。避けた先にはギンさんが構えており、蹴りを入れる体勢にもう入っている。


「くらえっ!」


しかし、その攻撃も龍は間一髪で避ける。

そのせいで少し体勢を崩しそうになる龍。


「ラン!」


僕が名前を呼ぶと、ランから巨大な火炎弾が放たれる。

予想していなかった方向からの攻撃に思わず硬直してしまった龍に、火炎弾が直撃する。


「よし!」


うまくいった!

思わずガッツポーズしてしまう。


しかし、これで倒れるなんて思ってもいない。

でも、こうやって少しずつだけれど、ダメージを与えて行ければ、勝てるはず!


「あたしのことも忘れるんじゃないわよ!」


そう言って、姉さんが倒れている龍を大剣で攻撃し始める。

それに便乗するように、ギンさんも攻撃に参加する。

ある程度ダメージを与えたところで、ようやく龍が起き上がった。

念のため、二人とも距離をとって龍の次の行動を待つ。

すると、龍は僕らを見据えて、口角を吊り上げた。


『……クハ!クハハハハハハ!』


突然笑い始めた龍に、僕は思わず動揺してしまう。

他のみんなには龍が鳴いているようにしか聞こえないため、僕ほど動揺はしていないが警戒している。


『……面白い!面白いぞ!《小さき者》達よ!』


その声に、思わず身じろぎしてしまう。

……反射的に恐怖を感じてしまった。


「……ギン、行くわよ!」


「おう!」


何もしてこないことを好機と踏んだのか、ギンさんと姉さんが接近し始める。

そんな二人を龍は猊下して。


『……少しだけ、本気を出すとしよう。』


そんな呟きが、僕の耳に聞こえたのと同時に。

龍の身体が光に包まれた。

それは、ランのモードチェンジの時の光とよく似ていて。


「下がって!二人とも!」


思わずそう叫んだが、既に遅かった。


《敵がモード:強欲龍(ファフニール)にチェンジしました》

《使役獣:ランが《強欲龍(ファフニール)》に変身可能となりました》


そんなシステムアナウンスが僕の頭に響いたのと同時に。


『URAAAAAAAAAAAA……!』


強欲な禍々しい龍へと変化した王龍カーディナル・ドラゴンは、地響きするような低音で、吼えた。


「……な、なんだ?コイツ、急に身体が黒く……」


ギンさんがそう呟いたのと同時に、龍はギンさんの方へ首を向けた。

そして、スッと息を吸い込む。

……アレは、ヤバい!

僕の直感がそう告げている。


「ギンさん!避けてッ!」


叫びは、龍のブレスによってかき消された。

広範囲のブレス攻撃に逃げ場がなく、ギンさんはブレスに当たってしまう。


「ガッ……!」


ギンさんの身体は吹っ飛んで、僕の後ろまで放物線を描きながら飛んでいく。


「ユズ!ギンさんを回復してあげて!さーちゃんは姉さんの援護を!」


「「了解!」」


二人は声をかぶせて肯定してくれる。

命令通り、ユズはギンさんの回復を始め、さーちゃんは姉さんの周りに防御結界を貼り始めた。

……ライム、あのブレスは吸収出来そう?


『不可能です。あのブレスは遠距離攻撃でありながら、呪いと物理攻撃を兼ねていますから。』


紋章の中にいるライムがそう返答してくれる。

……でも、言っている意味がわからない……

どういうこと?物理攻撃?


『あのブレスは、実体を持っているのですよ。』


……息が実体を持つって……


『……そこは気にしたら負けです。』


あ、あの、ライムさん?どういう原理か、ライムさんもわかってないんですか?


『……そんなことはありません。ええ。ありませんとも。』


というか、ライムって物体もある程度なら吸収できるんじゃ……


『ユウ様、確かに呪いを除けば吸収できますが、呪いがある状態ではなんとも……』


高速でそんなやり取りを脳内でする僕らに、龍の視線が向いた。


「ゆーくん!」


さーちゃんの声で、ハッと我に返った時には、龍がこちらへ走り始めている。

……避けたら後ろに行くよね、コイツ。

となると、いい加減頼るしかないのか……


『我の出番であるな!ユウ殿!』


空気を読めない元気な声が僕の中で聞こえる。

……出来れば最後の手として取っておきたかったんだけど……


『諦めも肝心であるぞ?というか何故最後の手なのだ?』


だって、ディーさんを呼び出したらさ。


あの龍でさえも簡単に(・・・) 殺せちゃうでしょ?


そんなのチートじゃない?できる限り使わずに勝ちたいじゃん?

……それに、ディーさんを使ったら、僕がパーティーを組む必要も無くなっちゃって……また、一人に……


『……安心したまえ、ユウ殿。』

『そうだよ、ユウ。』

『たとえ一人になったとしても、私たちがいますとも、ユウ様。』


……そうだね、そうだよね。

…………行こうか、ディーさん。


『承知!詠唱は……』


切羽詰ってるから無しの方向で。


『そんなぁ!』


ほら、早く早く。


『……我の扱いが、ラン殿やライム殿に比べて雑な気が……』


ブツブツ言ってないで、頼むよ、ディーさん。


『……仕方がない。次からは詠唱するように頼むぞ?』


そう言って、僕の左手から、光が溢れ出す。


それと同時に、龍の前足が振り下ろされた。


「ゆーくん!」


さーちゃんの悲痛な叫びが耳に響く。


「……っと。」


振り下ろされた前足を、手に持った『大剣』で斬り飛ばす。

悲痛な叫びをあげる龍。ポカンとするギンさん達。


そこには、初心者用装備をつけた少年はおらず。


純白に金の刺繍の入った騎士服を身に纏った少年が立っていた。


本来、僕は鎧も剣も、スキル《不器用》のせいで持つことが出来ない。

しかし、剣状にしたライムは持てた。

これは何故か。

それはとても簡単な理由なのだが、ライムはモンスターだからだ。

同じ理由が、ディーさんにも適用される。

ディーさんの持つ武器は、判定的にはモンスター扱いとなるため、僕はこの剣を持つことができる。

鎧となっているのは、実際は初期装備の上にまとわりついているだけなので、厳密には鎧は着けていない。

……そんなわけで。

今の僕は、ディーさんを纏っている(・・・・・)わけだ。


『行くぞ、ユウ殿!』


「ディーさん、行こう!」


そう言って、僕らは龍へと駆け出す。


『……GRAAAAAAッ!』


龍も吼えながら僕らの方へ駆けてくる。


『「《聖なる剣(ディバインソード)》」』


二人で息を揃えて、声を揃えてそう呟きながら剣を振り下ろすと、光の斬撃が飛んでいく。

目前まで迫っていた龍が、その攻撃をよけれるはずもなく、後ろへと吹っ飛んだ。


「……凄い。」


後ろでユズのそんな声が聞こえる。

……良かった、引かれてなさそうで。


「ユズ!直せそう?」


声を張り上げてユズにそう聞くと、ユズは少し焦ったように声を張り上げて返事をしてくれる。


「それが、できないの!まるで、回復が邪魔されてるみたいで!」


……回復阻害ってことは、これがライムの言っていた……


『呪い……ですね。おそらく他にも毒などの状態異常もかけられていると思われますが。』


『……ユウ殿、注意されよ。消えたぞ、あの龍。』


なっ!?

……誰だ、今狙うとしたら誰を狙う。

僕?

姉さん?

ギンさん?

ユズ?

さーちゃん?


誰を狙う?


……いや、狙いなんて絞る必要はないか。


「姉さん!さーちゃんの護衛、よろしく!」


そう叫んで、僕は仰向いて寝ているギンさんと回復しているユズ、そしてそれを見守っているランの方まで走る。


「……やっぱりこっちか!」


僕が駆け出すと同時に、龍がギンさんのところに姿をあらわした。

……あの龍、透明になれるっぽい?


『だが、攻撃しながら透明になることはできないようだな!』


なら問題ない!

ラン、《光竜の弾丸(シャイン・ショット)》ッ!


『了解!』


ランの光竜の弾丸が龍に当たったとしても、ダメージはあまり入らないだろう。

けれど、少しは時間が稼げる!

その時間に全力で駆け抜けて、ユズとギンさんのいるところまで向かう。


「ディーさん!」


『承知しているとも!』


『「《剣よ、輝け(クラウソラス)》ッ!」』


再び声を揃えてそう叫び、大剣を掲げる。

すると、そこから先程の《聖なる剣》とは比較にならないほどの光が漏れだす。

《剣よ、輝け》は、光の届く範囲を《浄化》するスキルだ。

これは本来ならアンデットのみに有効なスキルなのだが、ごく稀に例外がある。

その例外こそが、この龍である。

元は、王龍であったこの強欲龍。

モードが変わったというより、『呪われた』という表現が正しいこの龍などには、この技は必殺の一撃となる。


『その身に宿す呪いが強ければ強いほど、この一撃は威力を増す。』


それがこのスキル、《剣よ、輝け》なのである。


ちなみに余談だが、これを行使しているのはディーでありユウではない。

だから本当はユウはスキルを叫ぶ必要は無かったりする。


それはさておき。


僕のスキルがかなり効いたのか、よろめきながら倒れ込む龍。

その身からは先程までの禍々しい瘴気は剥がれ、元の綺麗な鱗がところどころ見えている。

息も絶え絶えとなり、かなり弱っているようだ。


「……ディーさん、トドメをさそうか。」


『……そうであるな。』


僕がトドメをさすために近寄ると、龍がすこし笑った。


『…………そう焦らずとも、我はもう消えるぞ?』


そう話す龍は、どこか楽しそうだ。


「あの、なんであの姿になったんです?……あなた、分かっていたでしょう?僕が神聖騎士を仲間にしてるって。」


『……フフッ、どうかな?わかっていなかったかもしれんぞ?』


『……やはり、貴様はあの時のドラゴンだったか。』


「ディーさん?」


ディーさんが少し悲しそうにつぶやく。

なにやら事情があるようだ。


『……この龍はな、おそらくだが、私と前の主が助けた龍なのだ。その頃はラン殿ほど小さな龍でな。最初は見分けがつかなかった。』


『……あの時は、世話になったな。』


そう話す龍は、やはりどこか楽しげだ。


『…………フッ。まさかあの幼竜がこんなにも大きくなるとは。あの方も、知れば喜ばれただろう。』


「……ディーさん。」


ディーさんからはもう、涙は流れないけれど。

どうしてか、泣いているような気がした。


『……感謝する。最後に貴殿と、出会えてよかった……』


そう言って、王龍は継続ダメージのせいか、ポリゴンとなって消えていった。


「……ディーさん、お疲れ。ゆっくり休んで。」


『……うむ。』


ディーさんは頷くと、すぐに紋章に入っていった。

……不思議な世界だ。もうこのドラゴンは何体も倒されているはずなのに、たまたまディーさんが助けたドラゴンがこのタイミングで現れるなんて。

まさに、運命なのかもしれないね。


そんなことを思いつつ、僕は疲れた顔をしたディーさんと、歓声をあげるユズと姉さん、そして僕に駆け寄ってくるさーちゃんの元へ、歩き始めた。


読者の皆様、ごめんなさい!

作者が体調を崩してしまって、昨日は更新出来ず、今日も遅れて更新となってしまいました……

本当にごめんなさい!


……さて、謝罪はここまでにしておいて、ここからは感謝の言葉を。


10万PV突破&ブックマーク500件突破!ありがとうございます!

……既に現時点(現在午後6時)で12万PVに到達していた気がしますが、気のせいということで!

本当にありがたいです。PV数が増える度に、ブックマーク数が増える度に、ポイント数が増える度にやる気がどんどん湧いてきます……!

ここから先も、この物語をよろしくお願いします!


昨日、更新出来なかったため、次回更新は明日の午後5時!

……これから先も、遅れることは多々あると思いますが、どうか寛大な心で許していただければ幸いです……!

一章終了まであと少し!がんばりますよー!

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