第一章 第八話 ~問題児パーティー~
~午前9時30分 星原家にて~
ログアウトした僕の視界に映るのは、いつもと変わらない天井。
知らない天井、なんていうオチはない。
少しまだ眠いけれど、僕のやるべき事はまだもう一つ残ってる。
さあ、第二ラウンドだ。
自分の頬を両手で叩いて、僕は立ち上がった。
「あたしが言えた身じゃないけどさー。優って面倒ごとに割と首を突っ込むタイプだよね。」
「姉さんほどじゃないよ。」
「借金まみれのプレイヤーを救済するために、自分の意思を曲げてまであたしに頼み込んでくる弟に言われても、説得力がないわよ〜」
「本当ならパーティーを組む必要なんてないのに、プレイヤースキルを封印してまでさーちゃんとパーティーを組み続けてる姉さんにいわれたくないね。」
そんな軽口を叩き合いながら、二人で僕の作った冷麺を食べる。
そう、もう大半の方がお気づきだと思うけれど。
メールを送った相手は僕の姉さん。
《黒騎士》という二つ名で、たくさんのプレイヤーから畏怖と尊敬を集め続ける少女こと、カノンに、僕は頼み込んだのだ。
『姉さんへ
夕飯に麻婆豆腐とプリン二つをつけるから、竜の渓谷を僕らと攻略してください。
さーちゃんを呼ぶかどうかは姉さんに任せます。
気がついたら返信下さい。』
まさかこのメールで釣れるとは思ってなかったんだけれど……
ちなみに、麻婆豆腐とプリンは姉さんの好物だ。
これに気がついた姉さんは、すぐに返信をくれたらしい。
まあ、僕はディーさんとの戦いで忙しすぎて気が付かなかったわけだけども。
「しっかし、あの《最恐》を手懐けるとはねぇ……あたしも声をかけようか少し悩んでたんだけど、先を越されたか〜。」
「手懐けたわけじゃないよ……?
で、姉さん。さーちゃんは来てくれそう?」
「さっき電話して、『竜の渓谷行くわよ』って言ったら渋られかけたから、『優が何でも一つお願い聞いてくれるんだってさ』って言ったらすごい剣幕で集合場所を聞かれたわ。」
「流石は姉さん。よし、そうと決まれば……って、待って?その約束はさーちゃんに対しては相当まずいと思うんだけど。ね、姉さん?何考えてんの?」
……ちなみに前回その約束をした時は添い寝させられました。さーちゃんの匂いとか温もりとか顔とかいろいろ近すぎて寝られなかったのは言うまでもない。……あれは本当に地獄だった……
「どうせ要求するとしても一緒にお風呂くらいでしょ。」
「あの、それは相当まずいと思うんだけど。僕らもうそんな歳じゃないんだよ?」
「大丈夫よ。いざと言う時は責任とってお婿に行けば。」
「僕はこの歳でお婿に行く気はないからね!?」
……まあ、後で無理のない範囲でって付け足しておこう。すごく膨れっ面されそうな気がするけれど……
「で、結局五時間ぶっ通しで竜の渓谷攻略し続ければいいんでしょ?あんたがどのくらい強くなってるのか知らないけど、死んだら許さないわよ?《蘇生》は30分に一発しか打てないんだからね?」
「……大丈夫。死なないための準備はしてきたよ。ボスはもちろん攻略するんだよね?」
「他に攻略してるパーティーがいなければね。まあ、ほとんど人はいないだろうけど。」
「わかった。14時集合だから、ギリギリにならないように気をつけてね。」
姉さん、遅刻の常習犯だし。この前だって、パンを口に加えて「いっけな〜い♪遅刻遅刻ぅ♪」とかいいながら意気揚々と登校してたし。
「……大丈夫よ!私には咲という切り札がいるもの!」
「自分の意思で遅刻しない気は毛頭ない、と。」
……本当に大丈夫かな、この人。ちゃんと大学生やれてるのかな?
「……さ、じゃあ私は上がるわ〜。時間になったら呼んでちょうだい。」
そう言って二階に上がる階段へ向かう姉さん。
僕はその後ろ姿を食器を洗いながら見守る。
「あ、そうだ。」
ふと、振り向く姉さん。
その姉さんの表情は、思わず見とれてしまうほど綺麗な笑顔で。
「友達、出来てよかったわね、優。」
そう言って、自分の部屋へと戻っていった。
「……余計なお世話だってば。」
そう呟く僕の表情は、やはり緩んでいたと思う。
~午後1時45分 第六の街 酒場前にて~
「……早く来すぎちゃったかな?」
そう呟く僕。
なんか、いろいろ試したいことが多すぎて待ち遠しくなっちゃって早くログインしすぎちゃった……
『我の使い方は把握しておるか?ユウ殿』
うん、とりあえずディーさんって名前を呼べばいいんだよね?
『ち、違うぞユウ殿!きちんと口上を述べてもらわないとだな……!』
でも、それ意味無いよね?
『意味の有無ではなく、ルーティンのようなものなのだ!やらなくては力が出ないのだ!』
……えー。なんであんな恥ずかしい詠唱をわざわざしなくちゃいけないのさ?
『なっ!?恥ずっ!?……これだから最近の若いもんは……』
ひとりでぼやき始めたディーさんは放っておくとして。
僕は後ろで行儀よくたたずむメイド服のピンクの髪をした女の子に話しかける。
「『ライム』、どう?《擬人化》の使い心地は?」
そう聞くと、少女……ライムは、にこやかに微笑みながら答えてくれる。
「すこぶる快調でございます、ユウ様。
……ユウ様、今、私はとても幸せでございます。」
「どうしたの?急に。」
「……ユウ様の隣で、ユウ様と同じ目線で、ユウ様と共にいられることに、とても幸せを感じるのです。」
「……そ、そっか。」
「ふふ。ユウ様、顔が少し赤いですよ?」
「……むぅ。」
ライムにもてあそばれるようになるなんて……
なんか、主としての威厳というものが損なわれているような気が……
……元からないか。
ライムがなぜ、メイド服姿の女の子になっているのか。
それは、このスキル《擬人化》の力である。
このスキルは、対象を人に限りなく似せた姿にするスキルである。
ちなみに決定権は僕でなく、ライム側にある。
人の姿になる利点、それは街中でも怪しまれることなく存在し続けられることや戦闘する時に武器を持てるようになること、そして移動が楽になること。
「おー、なんか可愛い子連れてんな。誰だ?この子。」
そう言って近づいてきたギンさん。
「ユウ、まさかだけれどその子に戦闘させるんですか?」
その後から訝しげな目線で見てくるユズ。
「いや、この子は僕のモンスターの一匹なんだけど……」
「初めまして、ユズ様、ギン様。ライムでございます。ユウ様がお世話になっております。」
僕の言葉を遮って、ライムが行儀よくお辞儀する。
「……お、おう。宜しくな、ライム。」
ギンさんが少し慌てつつ対応する。
「……はい?ライムって……あれ?ユウのスライムの名前ですよね……?」
「はい。そのとおりでございます。」
ユズの質問を肯定するライム。
するとユズはおもむろに、ライムの体に触れだす。
ぺたぺたと触れ回って、納得したように「うん。」と頷く。
「……やっぱり人ですよ、この子。」
いや、人じゃないってば。
「んで、助っ人ってのは本当に来るのか?」
ギンさんのその質問に答えようとした時、その質問に答える意味はなくなった。
何故なら……
「ゆーっ!くーん!」
そう言って僕の胸に飛び込んできた巫女さんがいたからだ。
……予想通り、この流れは避けられないか……
「ゆーくんゆーくんゆーくんゆーくんはぁはぁすんすんくんかくんかはふぅ……」
なんか何も言わなくても一人で落ち着くようになり始めてるんだけど。
あと、匂いなんてしないはずなんだけど……
……さーちゃんの今後が心配です。
「……さーちゃん、久しぶり。」
そう声をかけると、びくりと方を震わせてさーちゃんは顔を上げ、僕の首筋に腕を回して、
「久しぶり、ゆーくん!」
そう言って、満面の笑みを浮かべる。
もちろん、周りは唖然。ギンさんにいたっては固まってる。
ライムだけがずっと僕の後ろで優雅に佇んでいる。
「……はぁ。予想通りこうなったわね。」
そう言って近づいてくる黒い鎧を身にまとった金髪ツインテールの少女。
「姉さんも、こっちでは久しぶり。」
言わずもがな、僕の姉である。
「騒ぎになる前に行きましょ?……もう遅いかもしれないけれど。」
そう言って歩き出す姉さんの背中を追いかける僕。
そんな僕の右腕をとってギュッと抱きついたまま離れないさーちゃん。
フリーズしていたギンさんもゆずに押されながらなんとか動き出す。
その最後尾にライムがついていく。
そうして、問題児だらけの一行は竜の渓谷へと進み始めた。




